皆が望んだハッピーエンド

木蓮

文字の大きさ
9 / 10

9

しおりを挟む
 なぜ自分がこんな目に。
 ブルームはイライラしながら罰と称して閉じ込められている狭い部屋を歩き回った。扉の前には寡黙で屈強な騎士たちが立ち、世話のために部屋を訪れる使用人たちもブルームと目を合わせない。

(そもそもティアラが私の王太子妃として素質に欠けていたのに、私を騙していたのが悪いのだっ! 母上も父上もいつまで私を閉じ込めておくつもりなんだ!!)

 ブルームはチヘルを自分の側近としていつも傍に置いた。しかし、きちんと説明したのにも関わらず激怒したティアラはとりまきを使って陰湿な嫌がらせを繰り返したあげく、学園の階段から突き落として大怪我を負わせた。
 駆けつけた自分に謝るどころか「裏切者」と口汚く罵るティアラに今までの不満が爆発し「王妃に命じられた王太子妃教育すらこなせず遊び惚け、私が信頼する側近に危害を加える愚か者なぞ、私の王太子妃にふさわしくない」と公衆の面前で婚約破棄を言い渡した。
 しかし、事態を知った国王と王妃はブルームとティアラ両者の失態だと叱責し、ブルームを城の一室に軟禁した。それ以来、ブルームが何度抗議しても軟禁は解けず、情報すらも入ってこない。
 粗末な昼食を持って入って来た使用人にブルームは怒りをぶつけた。

「おいっ、何か伝言はないのか!?」
「誰からもございません」
「役立たずがっ!」

 そもそもティアラと婚約したのが失敗だったと悔やんだブルームは軟禁される前に魔術師に「修道院に火を放ち、助けに来た者を生きたまま捕らえろ」と命じておいた。そして、また時を戻して今度こそは王太子妃にふさわしいチヘルを婚約者に迎えようとした。
 しかし、いつまでも待ってもその連絡がこない。そそくさと出て行く使用人をにらみつけていると護衛騎士が冷ややかな目を向けてきた。その生意気な態度にカッとなって閉まったドアを思いっきり蹴ると後ろから笑い声が聞こえた。

「はははっ、ずいぶんとご機嫌ななめだな。そんなかっかしてると大事なチャンスも逃すぞ?」
「誰だっ!? ……いや、おまえ、魔術師か。ようやくあの女を捕らえたんだな?」

 振り向くといつの間にか背後に銀色の髪をした青年が立っていた。
 一瞬、不審者かと大声を上げかけたが、監視の目をかいくぐってやって来た魔術師だと気づき警戒を解く。しかし、一見穏やかだがどこか背筋がひやりとする笑みを浮かべた青年は問いには答えずに笑みを深めた。

「あんたが時を戻した時の願いは”時を戻して亡くなった妻と再会し、今度は死に別れることなく愛し合う2人で幸せになること”そうだったな?」
「なぜそれを知っている!? ……おまえ、あの女を逃がした魔術師か!?」

 ブルームは目の前の青年がオネットを逃がした魔術師だと悟りとっさに攻撃魔術を構えたが、青年は両手を上げて敵意がないと示すようにひらひらと振る。

「まあ、落ちつけよ。あんたは秘宝を使ってまた時戻しをしたいんだろ? でも、俺はこのまま家族と一緒にのんびり過ごしたいんだ。だから、取引しようじゃないか。俺の願いを叶えてくれたら、その幸せを叶えてやるよ」
「……言ってみろ」

 ”取引”という言葉に苦い思い出がよみがえるも王城の結界を潜りぬけて入って来た力のある魔術師の誘いに心が揺れる。葛藤するブルームに構わず魔術師は軽やかな声で続ける。

「人間は自分の幸せを求める生き物なんだろう? あいにく人間じゃない俺にはその気持ちはわからないが。自分が手に入れた幸せが長く続いてほしいって思いは、オネットのおかげで何となくわかったよ」

 微笑む魔術師の顔は幸せに満ちていて。憎しみをこめてにらみつけたが、魔術師は見えていないかのようにふんわりと微笑んだ。

「……だから、あんたには秘宝を使ってでも望んだ幸せを掴んでもらう。
 そうすれば、自分が不幸だから幸せな他人を妬んで奪おうとする、なんて不愉快な考えもなくなるだろ」

 罠に気づいた時には遅かった。ブルームはいつの間にか身体が動かないことに気づいた。そして、じわじわと魔力を吸い取られていることも。
 せめての反抗に魔術師を見ると彼は笑った。とても優しく、楽し気に。

「貴様っ……! こんなことをして許されると思うなよ……っ!!」
「ははは、大丈夫、嫌っているのはお互い様だ。ま、もう2度と関わることはないから俺は忘れるよ。ついでに、ここに残される身体も護りの魔術をかけておくから安心してくれ」

 「じゃあ、今度こそお幸せに」と魔術師の言葉に恐怖を感じたブルームは「やめろ!」と叫ぼうとしたが、引きずり込まれるように闇に呑まれていった。

 **********

 気づけばブルームは10歳の時に戻っていた。魔術師の不吉な言葉に慌てて周りの状況を探るも、時戻しをした以前と同じ状況で胸をなでおろした。
 1つだけ変わったのがこの世界にはオネットは存在しておらず、愛娘を溺愛するフェイド伯爵は自分の婚約者選びのお茶会にチヘルを参加させなかった。そのため、ブルームは適当な理由をでっちあげて自分に甘い父にチヘルとの婚約をねだり、自分に執着するティアラを始めとした婚約者候補たちの妨害を跳ねのけて無事に婚約した。
 愛らしく賢いチヘルは王太子妃として順調に成長し、気難しい母や教師たちとも打ち解けた。自分の理想を体現したような彼女との幸せな日々にブルームは初めて満足を感じた。
 しかし、それはあっけなく奪われた。病弱ながらも何とか学園に入学したティアラはチヘルを階段から突き落として殺した。髪を振り乱して「おまえがブルームをたぶらかしたせいで私は不幸になったんだ!」と狂ったように泣き叫ぶティアラを見た大勢の生徒たちは、あろうことか婚約者を殺されて悲しむブルームにも疑いの目を向けた。
 醜聞がおさまるまで自室にいるように命じられたブルームは自室に引きこもって悲しみと怒りを募らせていたが、気がつくとまた10歳に戻っていた。そして、ティアラを排除し無事にチヘルと結婚したが、オネットを使って時戻しをした日になるとまた10歳に戻っていた。
 何度目かのやり直しでブルームは悟った。

 ――10歳から19歳までの日々を条件を達成するまで繰り返す。それが魔術師の幸せを奪った罰なのだと。

 呪いを解くには”ティアラと2人で幸せになる”と魔術師が言った条件を叶えるのが一番早いのだろう。
 しかし、やり直しを繰り返すうちにティアラとはすっかり仲が冷え切り、今ではお互いに関わりすら持たない。それに例え呪いが解けてもあんな女と添え遂げないといけないなんてごめんだ。

(私は幸せになるんだ。今度こそあの魔術師を見つけ出す)

 今回もまたブルームは魔術師を探し続ける。自分が望む幸せを叶えるために。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【25.10.01】たくさんのお気に入りといいねをありがとうございます。
1回目のティアラの死因ですが、センシティブな内容の上に本筋と関係ないため変更しました。
ころころと変えてしまいご迷惑をおかけします。
次のティアラ視点でのお話で完結です。最後までお付き合いいただければ幸いです。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

出戻り娘と乗っ取り娘

瑞多美音
恋愛
望まれて嫁いだはずが……  「お前は誰だっ!とっとと出て行け!」 追い返され、家にUターンすると見知らぬ娘が自分になっていました。どうやら、魔法か何かを使いわたくしはすべてを乗っ取られたようです。  

鈍感令嬢は分からない

yukiya
恋愛
 彼が好きな人と結婚したいようだから、私から別れを切り出したのに…どうしてこうなったんだっけ?

元ヒロインの娘は隣国の叔母に助けを求める

mios
恋愛
両親のせいで、冷遇されて育った男爵令嬢モニカ。母の侍女から、「物語ではこういう時、隣国の叔母を頼ったりしますよ」と言われて、付き合いの全くない隣国の叔母に手紙を書いたのだが。 頼んだ方と頼まれた方の認識のズレが不幸な出来事を生み出して行く。

政略結婚の先に

詩織
恋愛
政略結婚をして10年。 子供も出来た。けどそれはあくまでも自分達の両親に言われたから。 これからは自分の人生を歩みたい

短編集

木蓮
恋愛
短いお話を載せていく予定です。 1.今日も君と朝食を一緒に 街役所の新人職員ヴァンのささやかな楽しみは出勤前に行きつけの食堂で看板娘の女の子と一緒に朝食をとること。普通の青年と少女が恋を育んでいくお話。 2.のほほん令嬢と不器用令息は今日もお喋りを楽しむ 子爵令嬢クレアは人気者のクラスメイト・サイラスに声をかけようとするも気づいてもらえずに落ち込む日々。そんなある日、留学生レオネルと出会う。彼は退屈しのぎにとクレアの手伝いをしてくれることになった。彼と話すうちに一緒にいるのが楽しくなり――。 のほほん令嬢と自信を無くした不器用な令息の友情と恋の始まり。 3.幼なじみたちはとっておきの幸せを分かち合う 男爵令嬢のレナは親に薦められて幼なじみのウィルと婚約した。ある時、彼に仲の良い女の子ができた。好意を見せる彼女にうれしそうなそぶりを見せるウィルにレナは婚約解消を考える。 幼なじみ以上恋人未満な2人がすれ違いの末に両想いだと知って幸せになるお話。 4.お芝居はもう終わり 妹に恋した婚約者と婚約を解消した姉は仲の良い叔母の家で過ごしていた。しばらく経ったある日妹がやって来る。姉を心配する彼女は一緒に家に帰ろうと言うが姉は断り、その理由を淡々と語る。 無邪気な妹とそれを全肯定して甘やかす周りに迷惑をかけられまくってブチ切れた姉の1人語り。設定はふわっふわ。 5.フレサと婚約者セデルは素敵なものを見つけるのが好き。今日も2人の世界には素敵と愛情が増えていく。 素敵なものに喜ぶ婚約者様を見るのが大好きな令嬢と、趣味活を楽しむ令嬢を愛する婚約者の幸せな日常の1コマ。 6.高貴な方の考えはわからない 平民のミラは希少な聖属性の素質を見込まれて貴族たちが通う学園に入学したが、とある理由で神官になることを決意する。疑心暗鬼になった少女が身の丈にあう生活を選んだお話。

泣きたいくらい幸せよ アインリヒside

仏白目
恋愛
泣きたいくらい幸せよ アインリヒside 婚約者の妹、彼女に初めて会った日は季節外れの雪の降る寒い日だった  国と国の繋がりを作る為に、前王の私の父が結んだ婚約、その父が2年前に崩御して今では私が国王になっている その婚約者が、私に会いに我が国にやってくる  *作者ご都合主義の世界観でのフィクションです

上手に騙してくださらなかった伯爵様へ

しきど
恋愛
 アイルザート・ルテシオ伯爵は十七歳で家督を継いだ方だ。  文武両道、容姿端麗、人柄も良く領民の誰からも愛される方だった。そんな若き英雄の婚約者に選ばれたメリッサ・オードバーン子爵令嬢は、自身を果報者と信じて疑っていなかった。  彼が屋敷のメイドと関係を持っていると知る事になる、その時までは。  貴族に愛人がいる事など珍しくもない。そんな事は分かっているつもりだった。分かっていてそれでも、許せなかった。  メリッサにとってアイルザートは、本心から愛した人だったから。

隣の芝生は青いのか 

夕鈴
恋愛
王子が妻を迎える日、ある貴婦人が花嫁を見て、絶望した。 「どうして、なんのために」 「子供は無知だから気付いていないなんて思い上がりですよ」 絶望する貴婦人に義息子が冷たく囁いた。 「自由な選択の権利を与えたいなら、公爵令嬢として迎えいれなければよかった。妹はずっと正当な待遇を望んでいた。自分の傍で育てたかった?復讐をしたかった?」 「なんで、どうして」 手に入らないものに憧れた貴婦人が仕掛けたパンドラの箱。 パンドラの箱として育てられた公爵令嬢の物語。

処理中です...