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Chapter3

05 行ってみるぜメインクエスト

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 あやうく人がひとり死にかけたけれど、装備も一通り整ったので! いざメインクエストへ!

 メインクエストはスマホのゲーム画面だとすごろくみたいなマスが七つあって、それぞれのマスでモンスターを倒し、最終的に七マス目のラスボスを倒すとクリア、という流れになっている。
 特定の章のボスを倒すと新しい仲間が加わることもある。

 そう! 第一章をクリアすると! このゲームのメインヒロイン、リゼロッテちゃんが仲間になるのである!
 いや別に恋愛ゲームじゃないんだからメインヒロインって言い方はおかしいか。でもトリファンのアイコンはリゼロッテちゃんだし、テレビCMでも一番目立っていた。運営に推されているのは間違いない。会えるの楽しみすぎてやばいな~!

 七つのマスのうち、三つはこの世界に来る前にプレイしてクリア済みだ。ほぼチュートリアルで俺はただ画面をひたすらタップしてただけなんだけど、この世界ではそういうわけにはいかない。実際にモンスターと戦って倒さなければならないのだ。

 そんなわけで今はメインクエスト第一章の四マス目、森の中でモンスターと戦闘中なのだった。

「ニーナ、こいつは目が弱点だから。よく狙って」
「オッス!」

 大型のモンスターを一掃した後で、最後に残った小型のモンスターをハオシェンが抑えてくれている。
 ステータスウィンドウに表示された「アップルヘッド」という名前の通り、リンゴみたいな頭に蛇の体が生えている。血走った一つ目をぎょろぎょろと回転させ、ギザギザの牙をむき出しにして威嚇している。俺は気合を入れてショートソードを構えた。

 よーし、ぶった切ってやる。目が弱点な。……目? 目を切るの? まじで? グロくない? もし初撃が外れたら俺はあの牙で噛まれるな? 相当痛いな?

「ほい、放すよ」
「アーッ!? ちょっ! まっ!!!!」

 へっぴり腰の俺とは対照的に、アップルヘッドは「ギシャア!」と叫び声を上げながら真直ぐ俺に飛び掛ってきた。
 想像してたより百倍怖い! でも殺らなきゃ殺られる!
 思い切って剣を振り下ろしたが手ごたえがない。やばい外した! 殺られる! ――と思ったけれど、モンスターは俺に接近する前にリュカの槍で串刺しにされていた。

「なにやってんだよリュカ~。それじゃあニーナの訓練にならないじゃんよお」
「すみません、つい体が動いてしまって……」

 リュカは申し訳なさそうに俺に頭を下げたが正直助かった……いや助けられてばかりじゃダメだから訓練に付き合ってもらってるんだし、俺がしっかり倒さないと。一緒に冒険するならせめてみんなの足を引っ張らないようになりたい。

 剣の構え方はリュカに教えてもらったから、見た目だけは様になっているはず。
 装備しているのはショートソード。ノーマル武器で何の効果もないけど、他に持ってるSR以上の武器はドラゴンスレイヤーとかギガントアックスとか、重量級すぎて俺には扱えなかった。まあショートソードもそれなりに重いけど。
 でもやっぱ剣っていいよな~。ファンタジー世界に来たって実感できてテンション上がる。

 服装もこの世界に馴染んでいると思う。実用重視の丈夫な服にレザープレート、巡礼の旅人が身につけているのと同じ形で色違いのローブ。このローブは特に気に入っている。黒に近い深緑色で、映画で見た魔法学校の制服みたいな感じでかっこいい。口元をボタンで留められるし、激しく動いてもフードが脱げずにすむのもいい。そんなお気に入りのローブを転送魔法陣で移動した時にゲロってちょっぴり汚してしまったけど俺は元気です。拠点に帰ったら洗濯しよ……。

 ゲロはともかく、格好だけならすごくいい感じ。あとはモンスターを倒して実戦経験を積むだけだ。

「悪しき獣の体内には『魔核』があります。そこを狙って一突きにするとこのように即死させることができます」

 リュカは猪のような姿をした敵が現れるやいなや素早い突きを繰り出して絶命させた。さすがリュカ。俺にお手本を見せてくれたんだろうけど早すぎてなんも見えんかった。

「まあ魔核がどこにあるかわからない場合の方が多いけど、そういう時は全身を潰すようにまんべんなく拳をぶち込めばなんとかなるから」

 そう言いながらハオシェンは茂みから飛び出してきたマシュロマの脳天に拳を叩き込んでぺしゃんこに潰した。
 ハオシェンも大概腕力ゴリラだよな。っていうか仲間全員ゴリゴリの武闘派だ。俺が弱いんじゃなくてみんなが強い。けして俺がクソザコ弱虫というわけではない……そう思わないと泣いちゃうな……。

 そういえば普段無口なアルシュが輪をかけて静かだ。どうしたのかと思ったら茂みにしゃがみ込んで植物を摘んでいた。

「アルシュ、それなに?」
「薬草だ」

 アルシュが俺に差し出したのはどこにでも生えてるような草だった。味方やモンスターのステータスを見られる「神の眼」を発動させると、ウィンドウが出て説明文が表示された。

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〔薬草〕
 味方単体のHPを25%回復させる
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 なるほど、ゲームだと敵を倒した後に報酬として手に入れられる感じだったけど、この世界では自分で採取しなきゃいけないのか。視線を手元の薬草から茂みに移すと、ぼんやりと光って見える植物がいくつかあった。これなら俺にも見つけられるな。
 でもアルシュは光っていない草も摘んでいる。神の眼で見てもウィンドウが出ない。

「こっちの光ってないやつはなに?」
「イタドリ。鎮痛・止血の効果がある」
「へえ……じゃあこの丸い実みたいなやつは?」
「これは毒だが、使い方次第で薬にもなる」
「へえ~! すごいね、ゴリゴリに強い上に野草の知識まであんのかよ」

 薬剤師みたいだ。いや漢方博士? どっちにしろすごい。
 光っているのと光っていない草の違いはなんだろう。ゲーム的に特殊な効果のあるもの以外はステータス表示されないってことなのか? 市場で売られてる野菜とかもステータス表示されないのかも。今度試してみよう。

 俺も真似して薬草を摘もうとしたら、アルシュが大きめのどんぐりみたいなやつを俺にくれた。おお、なんだこれ。

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〔精霊樹の木の実〕
 精霊が宿った大樹から落ちた木の実。
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 ……なんだこれ????
 ステータス表示されるってことは何らかの効果があるアイテムなんだろうけど、説明が足りなさすぎでは? 具体的になにがどうなんの?
 よくわからないけどお礼を言う。アルシュは相変わらず無表情だが、兎のようなモフモフの長い耳をぴるぴるさせていた。どういう感情?


 それからも採取をしたり敵を倒したりしながら森の中を進んでいったのだけれど、俺はまだ一匹もモンスターを倒せていなかった。
 このままではいかん。みんなの足を引っ張りたくないという気持ちも本当だけれど、しっかり戦えるようになってリゼロッテちゃんの前で活躍したいじゃないですか。

 でもまあいざとなれば奇跡が使えるから大丈夫っしょ! あとチート級に強くなれる、光の角が生えた状態になれば余裕。

「なあスマホ、俺に角生えるやつまたやってよ」

 俺の肩に乗っていたスマホをつかまえて手のひらに乗せると、スマホは「ちょっと何言ってるかわかんない」みたいな感じでふにっと体を傾けた。

「ほら、水道橋のダンジョンで戦ってた時に光の角が生えて強くなったじゃん。あれどうやんの?」

 あの時はよくわからないまま祈ったらなんとなくできたって感じだったけど、任意のタイミングで使いこなせるようになれば最強じゃん。でもどれだけ尋ねてもスマホは「?」を浮かべてふにふにするだけで、伝わってる気配がない。

「できるだろ? なあ? おい? 俺って神なんでしょ?」

 ちょっとイラッとしてスマホを掴み、さかさまにして振ってみる。それがよっぽど気に食わなかったらしい。スマホは俺の手から逃れて地面に着地したと思ったら、ぎゅんとジャンプして俺の鼻先にキックを喰らわせた。

「痛っっってえ! おまえこの野郎! 持ち主に向かってなんだそのドロップキックは!!!!」

 反逆を起こしたスマホをつかまえようとしたけど、なんかすっごい蹴ってくる。

「なんだよ! このポンコツ! 生足! かまぼこ板! バカ!」

 スマホとケンカするってなんだこの状況。っていうかこいつ足の力つええな! 地味に痛い!
 一通り蹴り技を繰り出してバテたのか、スマホはジャンプしてリュカの肩に飛び乗り、髪の中に潜り込んで隠れた。

「あの、ニーナには私どもがおりますので、どうかご無理をなさらず……」

 うろたえたリュカが俺をなだめる。スマホのくせにリュカを盾にするとは生意気な。

「うん、リュカたちのことはもちろん頼りにしてるんだけど。あの力を使いこなせるようにならないと、俺あっさり死んじゃいそうだからさあ……」

 水道橋の時も危なかったし。それに、俺が最初から光の角の力を使いこなせてたらリュカを死なせずにすんだんだよな……。

「――ニーナは、死ぬのですか?」
「そりゃ俺だってHPがゼロになったら死ぬでしょ」

 HPの仕組みってよくわからないけれど、ステータス表示されているからには俺も死ぬことがあるんだと思う。
 深く考えず、危機感ゼロで答えた俺の手をリュカはがしっとつかんだ。俺の身長にあわせて屈み、ぐぐっと真剣な顔を寄せる。

「そのようなことがないように私たちがお守りいたしますが……もしニーナが死に至るようなことがあっても、その折には復活なさるのですよね?」
「えっ!? ま、まあ、死んでみないとわかんないけど多分大丈夫なんじゃない? アハハ……」

 あまりの真剣さにビビって笑ってごまかそうとしたけれど、ふと見ればリュカだけでなくアルシュとハオシェンも深刻な顔になっていた。
 もしかして、俺は神だから死なないと思われてたのか……!?

「そんな心配しなくても大丈夫だって! もしかしたら死んだらゲームオーバーになって元の世界に帰れるのかもしれないし……!」

 フォローするつもりで言ってみたけど逆効果だった。三人ともいまだかつてなく真面目な顔をして、俺に向かってひざまずいた。

「ニーナ。改めて神に――貴方様に誓います。この魂をかけて悪しきもの共を退け、世界の果てが訪れようとも必ずお護りいたします」

 ――やばい。圧がすごいんですけど!?
 三人の背後に燃え上がる闘志が見えるようだった。「いちいちひざまずかなくっていいって前に言ったじゃ~ん」とか言える雰囲気ではない。
 張り詰めた空気に気圧されたのか、木に止まっていた鳥がばさばさっと一斉に羽ばたく。怖気づいたスマホもリュカの肩から飛び降りて俺のポケットに潜り込んだ。

 それから村に着くまで。三人は今までよりも更に過保護に俺を守り、鬼気迫る勢いでモンスターを秒殺しまくったのだった。
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