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Chapter3
03 トリファン見聞録~SSRとギターと顔面凶器~
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俺の正体がバレることなく、無事にダイヤが全部出た。我に返ったナオとミオに「いつの間にこんなに散らかして~」とほんのり叱られたけどまあ結果的にヨシ。
みんなにダイヤを拾い集めるのを手伝ってもらい、五百個全部ナオとミオに渡す。今回使わない分は店で預かってもらえるそうなのでありがたく貯金(貯ダイヤ?)させてもらうことにした。ゲーセンのメダルみたいだ。
二人は手慣れた様子でダイヤを天秤で量り、百個分のダイヤを祭壇前に積んでいく。
「はい、どうぞ」
ガチャの準備が完了したらしい。でも「どうぞ」と言われてもな? 戸惑っていたら「私たちはいつも、祭壇の前に跪いて祈りを捧げております」とリュカが教えてくれた。なるほど神頼み。それなら得意だけど俺自身が神の場合どうなんだろうな?
「いでよ! いい感じの武器!」
適当に跪いて適当に祈ったら、床がカッと光って魔法陣が浮かび上がった。転送魔方陣と似てるけど模様と色が違う。
積まれたダイヤが発光し、輪郭を失って光そのものに変化する。その光は祭壇に並べられた十個の玉鋼に吸い込まれていく。ゲームの演出と同じですげー綺麗。
玉鋼はまばゆい輝きを放ち、うち二つは虹色になった。これはSSRの予感! 頼む! 俺でも持てそうなサイズでシュッと振るだけでモンスターをズバッと倒せるSSR武器来い!
玉鋼がより一層輝きを増して、ぎゅっと目を閉じる。光が収まってから目を開けると、祭壇の前に十振りの武器が浮いていた。
「すごい、グングニルなんて激レアだよ! 攻撃力強化の加護がついてるし、得意武器が槍のリュカ様にもぴったり!」
「よかったねえ、これで怖いものなしやな」
ナオとミオが歓声を上げる。やった~SSRが二つも出た。槍はめちゃくちゃ嬉しいけど、もう一個のSSR武器は……武器っていうか明らかにギターに見えるんだけど?
俺が手を伸ばしてギターを掴むと虹色の光と浮力が消えた。手にとって改めてよく見ても、ド派手でロックなエレキギターにしか見えないんだけど。これって武器か? ライブ中にギターでアンプをぶっ壊すみたいなパフォーマンスもあるぐらいだから、これで殴ればいいってこと?
ネックを両手で掴んでそれっぽく構えてみたら、ミオが俺の手にそっと触れ、静かに首を横に振った。
「あのね、これはギターっていう楽器なんよ。楽器ってわかる? 演奏すると音が出るものなんやけど」
「あっ!? やっぱ楽器なんだ!? それは知ってたけど……!」
「いいんだよ少年。誰にだって知らないことはあるさ」
ナオが俺の肩をぽんぽんと叩いて俺を励ます。いや励ましてねえな、このちょっとにやついている感じ、さては馬鹿にしてるな?
「別に知ったかぶりじゃないですけどー!?」
抗議しながらでたらめにギターをかきならすと、二人はケラケラと声をあげて笑った。なんだこれギター漫談か。
「――私のニーナを侮辱なさるのですか」
それまで気配を消すのに徹していたリュカが俺の背後から口を出した。
笑っていた二人は表情を凍りつかせ、俺も初めて聞くリュカの冷たい声にびびって喉から「ヒュッ」って変な息が漏れた。
リュカはあくまで無表情だし声を荒げているわけじゃないけど、それがむしろ怖い。顔面力が高い分、迫力がえげつない。塩対応通り越して岩塩で殴る勢いだ。
「ごめんなさい、使徒様を馬鹿にして笑ったわけでは……」
「申し訳ございませんでした、かんにんしてください……」
「いやいやいや、全然大丈夫だから気にしないで!」
揃って頭を下げられて、いたたまれない気持ちになる。リュカからしたら「俺=神」なわけだから怒るのも仕方ないけど、二人は事情を知らないわけだし。あと「私のニーナ」っていう言い方もちょっとな? どうかな?
二人とも耳がぺたんと寝てしまっている。特にナオの方はリュカ推しっぽかったし、目に大粒の涙を溜めて、今にも泣きそうになっている。
「リュカ。謝って」
「しかし……」
「今のはちょっとふざけてただけだし、全然侮辱じゃなかったよ。使徒たるもの、いたいけな職人の方を悲しませるのはよくないと思うな~? ほらファンサしてファンサ」
当然「ファンサ」という言葉を知らないリュカに「いつも俺にしてくれてるみたいに優しく接してあげて」とざっくり説明して、ぐいぐいリュカの背中を押す。市場で買い物してた時は10%ぐらいのリュカの微笑でみんな喜んでたし、いつもの感じならナオとミオも絶対元気になるはず。
リュカはしばらく躊躇していたけれど、意を決したようにナオとミオに向き合い、片膝をついて恭しく二人の手を取った。
「――きつく言いすぎましたね、申し訳ありません。どうか偏狭な私をお許しください」
リュカはいつもの柔らかな表情と優しい声音で謝罪して、ダメ押しのようにふわりと笑った。
そうそう、この感じ。リュカは確かにイケメンだけど性格だってイケてるんだよ本当は。俺みたいなアンポンタンが神でも慕ってくれるし、使命感も正義感も強くて腕力はゴリラだし。あとわりと天然。
リュカ推しなら顔以外の良さもちゃんとわかってほしいよな~なんて「ニーナP」の気分に浸っていたら、顔を真っ赤にしたナオが仰向けにぶっ倒れた。
「ナオちゃーん! しっかりしい! ――あかん、心臓動いとらん!」
「そんな大げさな……って! マジで呼吸してねえ!!!!」
必死にナオを揺さぶるミオの隣にしゃがみ込んで口元に手をかざしてみたけど、手のひらに息が当たらない。ってゆうか泡を吹いている。ヤバイこういう時は落ち着いて気道確保して心臓マッサージ!? いやちがうわポーション! 早くポーション!!
「ああ、私はなんという罪深い行いを……!」
青ざめたリュカがナオを抱き起こしてポーションを口に含ませる。すぐに意識を取り戻したナオは、リュカに抱きかかえられている事に気づき「ここがワシの天国じゃあ!!!!」と叫んでもう一度失神した。いや、今度は本当に死んだかもしれんな……。
ナオはギリギリ一命を取りとめたが口から魂が出ちゃってるし、ミオも地味に腰を抜かしていたので今日はもう閉店ということになった。
「申し訳ございません、私の呪わしい顔貌のせいで……」
「いやあ……仕方ないよほぉ……リュカの顔面が呪われてるんじゃなくて、見る側の方が呪われてるっつうか……」
店を出てからずっと、リュカはしょんぼりしていた。リュカの顔面力を侮って気軽にファンサさせたのがよくなかったな……ニーナPは廃業しよ……。
罪のない少女を瀕死に追いやってしまったことにひどく落ち込んでいるリュカを俺なりに励ましたけれど、拠点に戻るまで「愁いを帯びたお顔も素敵!」と頬を染める人々が後を絶たなかった。
次のクエストで女の子の仲間が加わるはずなんだけど、大丈夫かな……。
みんなにダイヤを拾い集めるのを手伝ってもらい、五百個全部ナオとミオに渡す。今回使わない分は店で預かってもらえるそうなのでありがたく貯金(貯ダイヤ?)させてもらうことにした。ゲーセンのメダルみたいだ。
二人は手慣れた様子でダイヤを天秤で量り、百個分のダイヤを祭壇前に積んでいく。
「はい、どうぞ」
ガチャの準備が完了したらしい。でも「どうぞ」と言われてもな? 戸惑っていたら「私たちはいつも、祭壇の前に跪いて祈りを捧げております」とリュカが教えてくれた。なるほど神頼み。それなら得意だけど俺自身が神の場合どうなんだろうな?
「いでよ! いい感じの武器!」
適当に跪いて適当に祈ったら、床がカッと光って魔法陣が浮かび上がった。転送魔方陣と似てるけど模様と色が違う。
積まれたダイヤが発光し、輪郭を失って光そのものに変化する。その光は祭壇に並べられた十個の玉鋼に吸い込まれていく。ゲームの演出と同じですげー綺麗。
玉鋼はまばゆい輝きを放ち、うち二つは虹色になった。これはSSRの予感! 頼む! 俺でも持てそうなサイズでシュッと振るだけでモンスターをズバッと倒せるSSR武器来い!
玉鋼がより一層輝きを増して、ぎゅっと目を閉じる。光が収まってから目を開けると、祭壇の前に十振りの武器が浮いていた。
「すごい、グングニルなんて激レアだよ! 攻撃力強化の加護がついてるし、得意武器が槍のリュカ様にもぴったり!」
「よかったねえ、これで怖いものなしやな」
ナオとミオが歓声を上げる。やった~SSRが二つも出た。槍はめちゃくちゃ嬉しいけど、もう一個のSSR武器は……武器っていうか明らかにギターに見えるんだけど?
俺が手を伸ばしてギターを掴むと虹色の光と浮力が消えた。手にとって改めてよく見ても、ド派手でロックなエレキギターにしか見えないんだけど。これって武器か? ライブ中にギターでアンプをぶっ壊すみたいなパフォーマンスもあるぐらいだから、これで殴ればいいってこと?
ネックを両手で掴んでそれっぽく構えてみたら、ミオが俺の手にそっと触れ、静かに首を横に振った。
「あのね、これはギターっていう楽器なんよ。楽器ってわかる? 演奏すると音が出るものなんやけど」
「あっ!? やっぱ楽器なんだ!? それは知ってたけど……!」
「いいんだよ少年。誰にだって知らないことはあるさ」
ナオが俺の肩をぽんぽんと叩いて俺を励ます。いや励ましてねえな、このちょっとにやついている感じ、さては馬鹿にしてるな?
「別に知ったかぶりじゃないですけどー!?」
抗議しながらでたらめにギターをかきならすと、二人はケラケラと声をあげて笑った。なんだこれギター漫談か。
「――私のニーナを侮辱なさるのですか」
それまで気配を消すのに徹していたリュカが俺の背後から口を出した。
笑っていた二人は表情を凍りつかせ、俺も初めて聞くリュカの冷たい声にびびって喉から「ヒュッ」って変な息が漏れた。
リュカはあくまで無表情だし声を荒げているわけじゃないけど、それがむしろ怖い。顔面力が高い分、迫力がえげつない。塩対応通り越して岩塩で殴る勢いだ。
「ごめんなさい、使徒様を馬鹿にして笑ったわけでは……」
「申し訳ございませんでした、かんにんしてください……」
「いやいやいや、全然大丈夫だから気にしないで!」
揃って頭を下げられて、いたたまれない気持ちになる。リュカからしたら「俺=神」なわけだから怒るのも仕方ないけど、二人は事情を知らないわけだし。あと「私のニーナ」っていう言い方もちょっとな? どうかな?
二人とも耳がぺたんと寝てしまっている。特にナオの方はリュカ推しっぽかったし、目に大粒の涙を溜めて、今にも泣きそうになっている。
「リュカ。謝って」
「しかし……」
「今のはちょっとふざけてただけだし、全然侮辱じゃなかったよ。使徒たるもの、いたいけな職人の方を悲しませるのはよくないと思うな~? ほらファンサしてファンサ」
当然「ファンサ」という言葉を知らないリュカに「いつも俺にしてくれてるみたいに優しく接してあげて」とざっくり説明して、ぐいぐいリュカの背中を押す。市場で買い物してた時は10%ぐらいのリュカの微笑でみんな喜んでたし、いつもの感じならナオとミオも絶対元気になるはず。
リュカはしばらく躊躇していたけれど、意を決したようにナオとミオに向き合い、片膝をついて恭しく二人の手を取った。
「――きつく言いすぎましたね、申し訳ありません。どうか偏狭な私をお許しください」
リュカはいつもの柔らかな表情と優しい声音で謝罪して、ダメ押しのようにふわりと笑った。
そうそう、この感じ。リュカは確かにイケメンだけど性格だってイケてるんだよ本当は。俺みたいなアンポンタンが神でも慕ってくれるし、使命感も正義感も強くて腕力はゴリラだし。あとわりと天然。
リュカ推しなら顔以外の良さもちゃんとわかってほしいよな~なんて「ニーナP」の気分に浸っていたら、顔を真っ赤にしたナオが仰向けにぶっ倒れた。
「ナオちゃーん! しっかりしい! ――あかん、心臓動いとらん!」
「そんな大げさな……って! マジで呼吸してねえ!!!!」
必死にナオを揺さぶるミオの隣にしゃがみ込んで口元に手をかざしてみたけど、手のひらに息が当たらない。ってゆうか泡を吹いている。ヤバイこういう時は落ち着いて気道確保して心臓マッサージ!? いやちがうわポーション! 早くポーション!!
「ああ、私はなんという罪深い行いを……!」
青ざめたリュカがナオを抱き起こしてポーションを口に含ませる。すぐに意識を取り戻したナオは、リュカに抱きかかえられている事に気づき「ここがワシの天国じゃあ!!!!」と叫んでもう一度失神した。いや、今度は本当に死んだかもしれんな……。
ナオはギリギリ一命を取りとめたが口から魂が出ちゃってるし、ミオも地味に腰を抜かしていたので今日はもう閉店ということになった。
「申し訳ございません、私の呪わしい顔貌のせいで……」
「いやあ……仕方ないよほぉ……リュカの顔面が呪われてるんじゃなくて、見る側の方が呪われてるっつうか……」
店を出てからずっと、リュカはしょんぼりしていた。リュカの顔面力を侮って気軽にファンサさせたのがよくなかったな……ニーナPは廃業しよ……。
罪のない少女を瀕死に追いやってしまったことにひどく落ち込んでいるリュカを俺なりに励ましたけれど、拠点に戻るまで「愁いを帯びたお顔も素敵!」と頬を染める人々が後を絶たなかった。
次のクエストで女の子の仲間が加わるはずなんだけど、大丈夫かな……。
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