公爵令嬢はジャンクフードが食べたい

菜花村

文字の大きさ
99 / 191

81.5 王妃殿下は公爵令嬢を恐れる

しおりを挟む
今、アースフィールド王国で最も話題の少女、フランドール・フィアンマ。

由緒あるフィアンマ公爵家の令嬢で、私の友人の娘。

この国で唯一、錬金魔法を使うことが出来る人物。

たった7歳で辺境の小さな男爵領を活気づけた名領主。

自領に新たな学問や娯楽を与え、新しい食べ物、更に私の大好きなコーヒーを開発した革命児。

そして、我が息子、ロナウド・アースフィールドの婚約者。


彼女を好きだという者は、私の周りにもとても多い。

彼女の母であるミリアンは勿論、夫である国王陛下然り、ロナウド然り、クロード第二王子然り。

ただ、彼女の為人を発する意見は、かなり差があった。

陛下曰く「儂よりずっと未来を見据える目を持ち、民に幸を与える手を持つ者。」

ロナウド曰く「誰とでも仲良くなれるし好かれる、一緒にいると楽しい親友。」

第二王子曰く「礼儀正しく知的で才能に溢れる、慈愛に満ちた女性。」

そしてミリアン曰く「目を離すと何を仕出かすか分からない問題児。」

つまり、多くの顔を持つ少女という事なのかしら。


先日、彼女の誕生日パーティーで初めて面と向かって会話を致しました。

とは言っても、挨拶程度。

お恥ずかしい事に、彼女がロナウドと友人関係になってから、一度も会話をした事がありませんの。

だって、ロナウドの使いの者から聞いたところによると、初対面のロナウドを泣かせたと言いますのよ?

恐いじゃない!

その頃から陛下は彼女を気に入っていて、きっとロナウドのお嫁さんになるんだろうなと思っていたんですもの。


私、今は亡き前王妃様ととても大変仲が悪くございました。

俗に言う嫁姑問題?

何故か分からないけど、常日頃チクチク嫌味を言われてて、それはそれは辛い日々を過ごしていました。

正直、前王妃様が亡くなられて、不謹慎ながら心の中でガッツポーズをしてしまった程ですわ。

と、話がズレてしまいましたが、私、僅か5歳の少女に怯えておりました。

ええ、分かっています、私のこの性格が王妃に全く向いていない事は。

外交の際も、内心を探られぬよう懸命に演技をして王妃としての面目を保っていますが、いつかは知られてしまうのではないかと毎日ヒヤヒヤしています。


しかし、私はパーティーで言ってしまいました。

「一度、ゆっくりとお茶でも飲みながらお話ししたいと思っているの。
是非、遊びにいらして。」

本当は微塵も思っておりません。

遊びに来なくて宜しいです!

あの場の会話を早く終わらせたかったから思わず口にした出まかせです!

そして彼女の返答は、

「ありがとうございます。
お伺いさせて頂きます。」

あぁ、来ちゃうのね……

ロナウドの婚約者になったのだから、早かれ遅かれしっかりとお話しはしないと駄目だと分かっています。

ただ、覚悟が未だ出来ておりません。



ロナウドの婚約披露パーティーを前に、ご婦人方をお誘いしたお茶会を開きました。

そして、そこへミリアンと共に彼女をお呼びする事にしました。

あぁぁぁ、胃がキリキリする……

今までのどの公務よりも緊張して参りました……

ミリアンとご一緒に、遂にいらっしゃいました……

あぁ、とても10歳とは思えない程の佇まい。

先日の誕生日パーティーの演出の時から思ってましたが、小さな愛らしい姿から発せられるオーラが尋常ではありません。

来た、こちらへ向かって来た!

覚悟を決めて王妃の仮面を冠る。

「お招きいただきありがとうございます、王妃殿下。」

「よくいらっしゃいましたね、ミリアン、そしてフランドール。
今日のお茶会、楽しんでいってくださいな。
フランドール、後でゆっくりお話ししましょう。」

「ありがとうございます。
心よりお待ち致します。」

あぁ、後でゆっくり何の話をしたらいいの?

こんなに落ち着かないお茶会、生まれて初めてですわ。

とりあえず、お気に入りのコーヒーでも飲んで、一旦心を安らげましょう。

うーん、このコーヒーの香りはいつも香ばしくて、ホッとするわ。

ミルクと砂糖をたっぷり入れて飲むのが、私好み。

うん、コーヒーを飲んで、少し元気が出ましたわ。

いざ、出陣!

「フランドール、今少しお話ししてもいいかしら?」

「もちろんです。」

あら、この子、紅茶を飲んでるのね。

「コーヒーはお好きでないの?」

「いえ、コーヒーは覚醒効果があって、夜眠れなくなってしまうので、出来るだけ飲まないようにしてるんです。」

「確かに、文官達が眠気覚ましの薬代わりに飲んでましたわ。
このコーヒーを開発したのは、フランドールですわよね。
どうやってコーヒーを思いついたの?」

「書庫にあった文献に、覚醒作用のある木の実があると書いてありました。
実際、その実は殆どが種で食べ難い物で、どうにか普段の生活に取り入れられればと思ったのがきっかけです。」

この子の頭、どうなってるの?。

普通、「覚醒作用のあるけど種ばかりの木の実」を、普段の生活に取り入れようだなんて思いもしませんわ。

しかもそれを7歳の時に。

この子の事を知ろうと思って頑張って話しかけたのに、余計分からなくなってしまいました。

天才の考えることは、凡人には理解できません。

「私からも質問させて頂いて宜しいでしょうか?」

えっ、何を聞かれるの!?

難しい事を聞いてこないでよ!?

「えぇ、許可します。」

「ありがとうございます。
王妃殿下は、コーヒーがお好きな様で、甘くした物の方がお好みとお聞きしています。
チョコレートコーヒーはご存知ですか?」

「いえ、存じ上げませんわ。」

「コーヒーの中に、チョコレートを入れて溶かしてしまうんです。
細かく砕いた方が溶けやすいですが、試してみますか?」

え、なにその美味しそうな飲み方!

「ええ、是非お願い致しますわ。」

メイドに細かくチョコレートを砕いてもらって、熱々のコーヒーに入れてよく混ぜると、コーヒーとチョコレートの香りが混ざり合って、なんとも言えない至福感になる。

ミルクと砂糖を少し入れて、一口。

何これ! コーヒーとチョコレート両方の香りと味が一度に口の中いっぱいに広がって、そのまま鼻へ香りが突き抜ける!

凄く美味しい!

「フランドール!凄いですわ!
他にも、コーヒーの美味しい飲み方をご存知?」

「はい、コーヒーに生クリームやバニラアイスを乗せても美味しいですし、パンやクッキーを付けて食べてもいいですよ。」

「まぁ、どれも試してみたくなっちゃいますわ!」



気付いたら、結構な時間フランドールとお話することが出来ました。

ただ、内容は全て食べ物。

私、美味しい食べ物好きですけど、食いしん坊だと思われないかしら。

でも、思ったよりは話しやすい子でしたわ。

とにかく、慣れるまでは食べ物の話をしていれば良いと分かったから、収穫はありましたわ!


結論、フランドールは食べ物が好き。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

親友面した女の巻き添えで死に、転生先は親友?が希望した乙女ゲーム世界!?転生してまでヒロイン(お前)の親友なんかやってられるかっ!!

音無砂月
ファンタジー
親友面してくる金持ちの令嬢マヤに巻き込まれて死んだミキ 生まれ変わった世界はマヤがはまっていた乙女ゲーム『王女アイルはヤンデレ男に溺愛される』の世界 ミキはそこで親友である王女の親友ポジション、レイファ・ミラノ公爵令嬢に転生 一緒に死んだマヤは王女アイルに転生 「また一緒だねミキちゃん♡」 ふざけるなーと絶叫したいミキだけど立ちはだかる身分の差 アイルに転生したマヤに振り回せながら自分の幸せを掴む為にレイファ。極力、乙女ゲームに関わりたくないが、なぜか攻略対象者たちはヒロインであるアイルではなくレイファに好意を寄せてくる。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/466596284/episode/5320962 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/84576624/episode/5093144 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/786307039/episode/2285646

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

王太子妃が我慢しなさい ~姉妹差別を受けていた姉がもっとひどい兄弟差別を受けていた王太子に嫁ぎました~

玄未マオ
ファンタジー
メディア王家に伝わる古い呪いで第一王子は家族からも畏怖されていた。 その王子の元に姉妹差別を受けていたメルが嫁ぐことになるが、その事情とは? ヒロインは姉妹差別され育っていますが、言いたいことはきっちりいう子です。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

処理中です...