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武家に転生した娘が恋をした夜
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夜の浜から帰る道、
月明かりがえげつないくらい明るい。
潮の匂いに混じって、彼とさっきまでいた場所の匂いが鼻をくすぐる。
正直、風に背中を押されて歩いてるっていうか、心臓のバックバクを隠すのに必死なだけ。
あなたは相変わらずの塩対応で、ちょっと後ろを歩いてる。
いや、そこは並んで歩こうよ。
でもこの絶妙な距離感が逆に「終わりの近さ」を突きつけてきて、胸の奥がギュッとなる。
言いたいことは山ほどあるのに、
言葉にしようとすると全部「好き」に変換されちゃいそうで何も言えない。
一歩歩くたびに地面を踏む音が「無理、好き、無理」ってリズムで鳴ってる気がした。
ふとした角で振り返ると、あなたはやっぱりそっけなくそこにいた。
でも目が合った。
私をちゃんと見てた。
……はい、優勝。もう立ち止まってる場合じゃない。
雪が降ってきたけど、今の私はたぶん雪が溶けるくらい体温高いと思う。
景色なんて正直どうでもよかった。
浜も、屋敷の影も、全部背景。
世界がどれだけ急いで明日に行こうとしても、私は今、この瞬間のあなたにしか興味がない。
で、しちゃった。口付け。
あなたのまぶたが閉じるのを、至近距離で執念深くガン見した。
この感触、この視界。
脳内にハードディスクがあったら最高画質で永久保存確定。
これが人生最後の記憶になってもいいって、本気で思った。
「……また。」
私の声、震えすぎ。ほとんど神頼みじゃん。
声に出した瞬間、我慢してた感情が決壊しそうになる。
背中に残っているのはさっき触れた時の熱。
まだ、ここにあなたがいた証拠が熱く残ってる。
あーあ。別れの言葉のつもりだったのにちっとも諦めきれない。
振り返ったらたぶんその場で泣き崩れて「行かないで」って言っちゃうから、
私は前を向いた。
重い鉄格子の門をくぐる。
「お堅い武家の娘」としての私に戻らなきゃいけない。
でも、今だけは。
この門をくぐる数秒間だけは、
一人の男にガチ恋して顔を真っ赤にしてる、ただの女の子でいさせてほしい。
手に残ったあなたの温度を、景色にこぼさないようにそっと握りしめる。
明日になれば、また冷たい刀の柄を握る日常が始まる。
それでもいい。今、私の手の中には、確かにあなたがいた。
約束なんてしなかった。
だって、私たちが置かれた状況でそんなの言ったらただの死亡フラグだって分かってたから。
追いかけない。
進むたび、私の足音だけが夜に溶けていく。
「今日」という名の最高の宝物を抱えて私は屋敷に帰る。
門の内側。
真っ暗な板壁に映ったのは、
冷え切った月と、
自分でも引くくらいにとろけて火照りまくった私の顔だった。
月明かりがえげつないくらい明るい。
潮の匂いに混じって、彼とさっきまでいた場所の匂いが鼻をくすぐる。
正直、風に背中を押されて歩いてるっていうか、心臓のバックバクを隠すのに必死なだけ。
あなたは相変わらずの塩対応で、ちょっと後ろを歩いてる。
いや、そこは並んで歩こうよ。
でもこの絶妙な距離感が逆に「終わりの近さ」を突きつけてきて、胸の奥がギュッとなる。
言いたいことは山ほどあるのに、
言葉にしようとすると全部「好き」に変換されちゃいそうで何も言えない。
一歩歩くたびに地面を踏む音が「無理、好き、無理」ってリズムで鳴ってる気がした。
ふとした角で振り返ると、あなたはやっぱりそっけなくそこにいた。
でも目が合った。
私をちゃんと見てた。
……はい、優勝。もう立ち止まってる場合じゃない。
雪が降ってきたけど、今の私はたぶん雪が溶けるくらい体温高いと思う。
景色なんて正直どうでもよかった。
浜も、屋敷の影も、全部背景。
世界がどれだけ急いで明日に行こうとしても、私は今、この瞬間のあなたにしか興味がない。
で、しちゃった。口付け。
あなたのまぶたが閉じるのを、至近距離で執念深くガン見した。
この感触、この視界。
脳内にハードディスクがあったら最高画質で永久保存確定。
これが人生最後の記憶になってもいいって、本気で思った。
「……また。」
私の声、震えすぎ。ほとんど神頼みじゃん。
声に出した瞬間、我慢してた感情が決壊しそうになる。
背中に残っているのはさっき触れた時の熱。
まだ、ここにあなたがいた証拠が熱く残ってる。
あーあ。別れの言葉のつもりだったのにちっとも諦めきれない。
振り返ったらたぶんその場で泣き崩れて「行かないで」って言っちゃうから、
私は前を向いた。
重い鉄格子の門をくぐる。
「お堅い武家の娘」としての私に戻らなきゃいけない。
でも、今だけは。
この門をくぐる数秒間だけは、
一人の男にガチ恋して顔を真っ赤にしてる、ただの女の子でいさせてほしい。
手に残ったあなたの温度を、景色にこぼさないようにそっと握りしめる。
明日になれば、また冷たい刀の柄を握る日常が始まる。
それでもいい。今、私の手の中には、確かにあなたがいた。
約束なんてしなかった。
だって、私たちが置かれた状況でそんなの言ったらただの死亡フラグだって分かってたから。
追いかけない。
進むたび、私の足音だけが夜に溶けていく。
「今日」という名の最高の宝物を抱えて私は屋敷に帰る。
門の内側。
真っ暗な板壁に映ったのは、
冷え切った月と、
自分でも引くくらいにとろけて火照りまくった私の顔だった。
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