剣も魔法も使えない平凡男の成り上がり〜好きな人に振られた悔しさで山を一日十万回殴ってたらいつの間にか世界最強の拳を手に入れてた〜

おったか

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07.身だしなみを整えよう

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 数日歩き続けて、ようやく街に到着した。
 この街がある国の名前は『ユーテリア王国』というようだ。
 全く聞いたことのない国だった。
 どうやら本当に故郷から遠く離れたところに俺はいるらしい。

 しかし見知らぬ街というのはどこかワクワクする。

 燦燦と降り注ぐ日差しの下、立ち並ぶ露店、それに集まるたくさんの人々。街は賑わいを見せていた。

 知らない国なので、全く知らない人だらけだった。
 だがそれがいい。
 人間関係をリセットしたかった俺にとってはちょうどいい環境だ。

「ふんふんふーん」

 俺は鼻歌を歌いながら街を歩いた。
 とりあえず、換金所を探そう。
 倒した魔物の素材を売って、まとまったお金を手に入れなければ。

 換金所はすぐに見つかった。

 俺は換金所の建物に入り、ここ数日に狩った魔物の素材を換金所のおっちゃんに差し出した。
 おっちゃんは俺から受け取った素材を鑑定し始めた。

「ふむ。バッファールの牙が数本に、ラビットウルフの毛皮と、ベガタイガーの牙もあるな。あとはEランク以下の魔物の素材か。よし十五万Gでどうだ?」

 十五万Gか。悪くない。それだけあれば一か月は暮らしていける。

「おーけー。その値段で売るよ」
「毎度あり」

 俺はおっちゃんから十五万Gを受け取り、店を出た。

 十五万Gゲットだぜ。
 お金も手に入ったことだし、次はどうしようか。

 換金所の前で突っ立って考えていると、ふと周囲からやけに視線を受けていることに気が付いた。
 周囲の人は俺を見てヒソヒソと何かを話して、そして俺を避けるように立ち去っていく。
 なんだ?
 俺の顔に何かついてるのか?

 そして俺は気づいた。

 俺、山篭り始めてから一回も風呂入ってねぇ……。
 しかも髭も剃ってないし、髪の毛も伸びっぱなしだ。
 やっべ……。どう見ても浮浪者の見た目だ俺……。
 そりゃ通行人もドン引きするわな……。

 まず身だしなみを整えないと……。

 俺はお風呂屋を探した。


***


 お風呂屋を探す途中、川があったので一旦川で水浴びをした。
 おかげでだいぶ汚れや匂いが取れた。

 そしてその後、ちゃんとお風呂屋にも行った。

 久々の温かいお湯に感動しつつ、お風呂を堪能する。

「いやー、さっぱりした」


 お風呂を出て、ぽっかり湯上り気分で街を歩く。
 時刻は夕暮れ時になっていた。

 あとは……、この伸び切った髪の毛を切りに行くか。

 俺は床屋に入った。

「この伸び切った髪をばっさり切ってもらえませんか? 細かい髪型とかはお任せします。あ、できればギル・アルベルトよりかっこよくしてください。ついでにこの髭も全部剃ってもらえると助かります」

 と床屋のおっちゃんに注文してみた。

「あいよ」

 とおっちゃんは簡潔に返事をして俺の髪の毛を切り出した。
 おいおい、俺の注文にツッコミ無し?
 かなりツッコミ要素満載の注文だったと思うんだけど……。

 ちょっと淡泊すぎやしませんか?

 大丈夫かこのおっちゃん……。丸坊主にされたりしないだろうな……。

 まあその時は変な注文をした自分を恨むけどさ……。

 ふと、鏡越しにカレンダーが目に入った。
 カレンダーの日付は俺が故郷を飛び出したあの日から二年半後の日付を示していた。
 そうか。
 俺は二年半もあの山に篭ってたのか。
 なっが……。
 しかも毎日同じことをひたすら……。
 我ながらよくやったもんだわ……。

 なんてことを考えていると、だんだんと睡魔が襲ってきた。
 やべ、旅の疲れで眠くなってきた……。
 一旦寝るか。
 俺は目を閉じた。


「終わったぞ」

 眠っていた俺はおっちゃんに肩を揺すられ目覚めた。
 目の前の鏡には、短く刈り込んだ黒髪に、引き締まった顔つきの男が映っていた。
 これが俺……?
 なんか別人なんだけど。

 髪型とかの問題以前に、骨格変わってね?
 以前よりも顔つきが引き締まったというか、男らしくなったというか。
 目つきも鋭くなっている。
 前はもっとだらしない感じの顔だったと思うんだが。

 これも山篭りで得られた成果なのだろうか。
 まあ内面的にも、肉体的にも色々と変化はあったし、その変化が顔に表れていたとしてもおかしくはないか。

 あと、髪色変わってるんだけど!?
 ありきたりな金髪だった髪色が、珍しい綺麗な黒髪になっている。

 なんだこれ、魔法か!?
 しかし髪の毛の色を変える魔法も技術も聞いたことがない。

「おっちゃん、どうやって髪の色変えたんだよ……?」
「あんたに一番似合う色だ」

 とおっちゃんは短く返事をした。

 質問の答えになってねえ……。
 嬉しいけど……。

 まあ髪色の変え方は企業秘密といったところか。

 しかし実際、黒髪は俺の顔にとても似合っていた。金髪よりも遥かにいい。
 俺に黒髪が似合うことを見抜いていた。このおっちゃんやるじゃねえか……。マジで何者。

 俺は改めて、生まれ変わった自分の顔を見る。

 うん。
 俺的にギル・アルベルトよりもイケメンだと思う。
 満足だ。

「ありがとうございます。素晴らしい出来栄えです」

 と俺はおっちゃんに礼を言った。

「ああ」

 とおっちゃんはぶっきらぼうに言う。
 なんか……、このおっちゃんかっこいいな。
 床屋としての技術はもちろん、髪の色を変えるという魔法のような技術を持っているのにもかかわらず、自分の腕をひけらかさないその態度。
 俺も見習いたいものだ。

 おかげでだいぶ身なりは整った。
 あとは……、このボロボロの服を買い替えるか。

 俺は服屋へと向かった。
 服屋で自分に合った服を探す。
 動きにくくなるのは困るので、動きやすそうな長ズボンとシャツを選んだ。髪色に合わせて色は黒で揃えてみた。
 よし。
 全身真っ黒になってしまったが、まあいいだろう。

 これで身だしなみは完璧だ。

 夜も更けてきたので、俺は宿屋を探して街を歩いた。

 あれ? なんかおかしいぞ……。

 身だしなみはキチンと整えたはずなのに、まだ周囲からの視線を感じる。
 今度は特に女性からの視線だ。
 なぜか女性が俺の方をチラチラと見て、なにやら女性同士でコソコソと話をしている。

 なんでだ……。
 まだ臭いのかな俺……。
 俺は自分の身体をすんすんと嗅いでみた。
 まだ石鹸の匂いがした。自分ではいい匂いと思うんだけど……。

 ちくしょう、臭くてごめんなさい……。

 俺は逃げるように宿屋を探した。
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