英雄王と鳥籠の中の姫君

坂合奏

文字の大きさ
31 / 57
episode05:隣国の王 ダットーリオ

5

しおりを挟む

 どのくらい唇を塞がれていただろうか。
 酸欠になるほど情熱的なキスを送られて、リーリエは腰を抜かしてしまっていた。

「俺が君を避けていたのは、刻印を見せれば君は、俺を嫌悪すると思ったからだ」

 しゃがみこんで、クノリスはリーリエの顔を覗き込んだ。
 その表情は、随分と苦しそうだ。

「そんなこと……思わないわ」

 今度は、リーリエがクノリスに口づけた。

 少しずつ唇に触れると、クノリスは無言で応じてきた。

 クノリスの柔らかい唇が、触れる度にリーリエの口から吐息が漏れる。

 どのくらいの間、唇が重なっていただろうか。

「ダットーリオ殿下の妹と婚姻が決まっていたんでしょう?」

 リーリエが静かに問い、クノリスの瞳を見つめると「ダットーリオがなんと言おうと、俺は君と結婚をする。同情なんかで結婚をしてたまるか」と彼は静かに答えた。

「君にその知識を入れたのは誰だ……。決まっていたとしても君を愛人になんかさせない」

「愛人でも構わない。あの国に帰るくらいなら、愛人の方がずっと幸せだもの」

「どうしてそんな風に自分を蔑むんだ。君は王族だ。俺とは違う。誇りを持て」

「王族でも、教養も知識も金も名誉もない、血筋だけの王族よ」

「俺は、妻は一人しか持つつもりはない。君を妻に迎えると決めた。決定は誰になんと言われようと揺るがさない」

 クノリスの言葉に、リーリエが顔を上げた。

「だけど……」

「君だから、背中の刻印を見せることが出来た。ダットーリオが俺の過去を知っているとはいえ、彼の妹に背中の刻印を見せる気にはならない。君だって分かっているだろう。奴隷の子は奴隷。王族の子は王族だ。平等をうたっているが、俺が元奴隷と分かれば、アダブランカ王国の平和だっていつまで続くか分からない」

「だったら、尚更、あなたはダットーリオ殿下の妹と結婚すべきよ。後ろ盾があるもの。国の繁栄には繋がるわ」

「だから、自分は身を引くと?愛人の第二号に収まるというのか?くだらない。そんなことを言う為に、俺にキスをしたっていうのか?」

「違う!キスをしたのは……」

 ダットーリオの言葉が脳裏に蘇る。

「これから全土の奴隷を廃止するために、イタカリーナ王国とアダブランカ王国は協力していく予定なんだ。そのために、私の妹とクノリスの結婚は必須なんだよ。両国がしっかり結ばれれば、その分勢いは強くなる。分かってくれるね」

 話をしながら、リーリエの胸は張り裂けそうだった。

 キスをして初めてリーリエは理解していた。

 クノリスを愛し始めていると。

 グランドール王国の後ろ盾のない自分では、今後クノリスを助けることはできない。

 あのひどい世界から助けてくれたからだけではない。

 この国に来て、優しく接してくれたこと。

 度が過ぎた触れ合いをしてくるときもあるが、いつも楽しそうに慈しむような表情でリーリエを見てくること。
 全てが好きだと気が付いた時には、もう遅い。

 泣きそうな気持を抑えて、リーリエはもう一度だけクノリスにキスをしていた。
 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

学園では婚約者に冷遇されていますが、有能なので全く気になりません。〜学園でお山の大将されてても、王宮では私の方が有能ですから〜

織り子
恋愛
王都カラディナにある国立魔術学園では、満十六歳の生徒たちの社交界デビューを兼ねた盛大なパーティーが開かれていた。 侯爵令嬢タレイア・オルトランは、婚約者である第二王子アスラン・オグセリアの迎えを待つも、結局ひとりで会場へ向かうことになる。 学園では身分の差がないとはいえ、アスランが公然とタレイアを侮辱し続けてきたことで、彼女は生徒たちから冷笑と蔑視の的となっていた。しかしタレイアは、王城で政務を担ってきた聡明さと矜持を失わず、毅然と振る舞う。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

お転婆令嬢は、大好きな騎士様に本性を隠し通す

湊一桜
恋愛
侯爵令嬢クロエは、二度も婚約破棄をされた。彼女の男勝りで豪快な性格のせいである。 それに懲りたクロエは、普段は令嬢らしく振る舞い、夜には”白薔薇”という偽名のもと大暴れして、憂さ晴らしをしていた。 そんな彼女のもとに、兄が一人の騎士を連れてきた。 彼の名はルーク、別名”孤高の黒薔薇”。その冷たい振る舞いからそう呼ばれている。 だが実は、彼は女性が苦手であり、女性に話しかけられるとフリーズするため勘違いされていたのだ。 兄は、クロエとルークのこじらせっぷりに辟易し、二人に”恋愛の特訓”を持ちかける。 特訓を重ねるうちに、二人の距離は少しずつ近付いていく。だがクロエは、ルークに”好きな人”がいることを知ってしまった…… 恋愛なんてこりごりなのに、恋をしてしまったお転婆令嬢と、実は優しくて一途な騎士が、思い悩んで幸せになっていくお話です。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

処理中です...