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Episode01:You should marry with him
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就業時間になっても、その日の仕事は片付かず、萌衣は一旦オフィスを出て祖母に電話をかける。
本来であれば、もう帰りの支度が出来ていても良かったはずなのだが、データ処理の仕事を先輩から頼まれてしまったのだ。
明日までの提出書類に割く時間がなくなってしまったので、結局残業をして書類を作らなくては明日の仕事が回らなくなってしまう。
こういう時、縁故入社である萌衣の立場は弱い。
はっきりと断れる性格であればよかったのだが、押しに弱いところもあるため、押し切られてしまった。
ROSSETTO日本支社は、萌衣の祖母が所有している敷地を使っているため、そのおかげもあって彼女の持っているスペックでは決して入れないような大企業に入社できたのである。
堂々とすればいいのだが、縁故入社という引け目が萌衣の中のどこかにあった。
努力しても元々優秀な人達とは違うのだ。
だからこそ、少しでもできる仕事は頑張ってこなしたい。
そう思って、入社してから五年間努力した。
しかし、一向に満足できる成果は出せていない。
「もしもし?おばあちゃん?」
「ああ、萌衣さん。遅いわよ。あなた、私を何時間待たせるつもりなの?さっさと支度してきなさい」
絹江が萌衣をこの会社に入れたのも、良い結婚に繋がると思ったからだった。
まさか営業職で入社するとは思っていなかったらしく、秘書検定も取っていなかった萌衣に非常に呆れ気味だったことを今でも鮮明に覚えている。
まったく萌衣の意見を聞く気のない返事に、萌衣は「ごめん。残業があるから、今夜は無理」と情けない声で伝えた。
「何を言っているの。上司に言って帰らせてもらいなさい。今時は、時短で仕事する時代のよ」
今時の価値観を、結婚にも持ってきてくれればいいのだが、萌衣の苦労など知る由もないのだろう。
「いやいや、無理だから。そんなことしたら、明日の仕事に支障が出るから」
「じゃあ、今から十五分以内で終わらせなさい。あなた自分の人生と仕事とどちらが重要だと思っているの?」
ごもっともです。としか言えないが、あの冷酷上司が許してくれるかどうか。
待っていますからね、と祖母は電話を切ってしまった。
「ああ、もう!」
癇癪を起しても仕方がないと、苛立つ気持ちを抑えつけて、萌衣は自分のデスクに戻った。
「あと一時間は余裕でかかるよな……」
小さくため息をついて、キーボードを撃ち込む。
締め切りが分かっている営業報告書を後回しにした萌衣が悪い。
提出は明日の昼までなのだが、明日は朝一で他部署との会議が入っており、その会議が終わった後は、取引先の会社に行かなくはならないのだ。
明日の朝は、会議の書類の印刷や準備に回したい。
どう考えても、今この書類をやらないとアウトなのである。
会社の方針として、書類いを自宅に持って帰ることは情報漏洩阻止のため、固く禁じられている。
確かに、自宅に会社の書類を持って帰ると休める気がしないのだが、こういうピンチの時に、非常に困ってしまう。
本日も要領が悪かったのは、萌衣だけだったようで、オフィスの中は彼女一人が残っていた。
本来であれば、もう帰りの支度が出来ていても良かったはずなのだが、データ処理の仕事を先輩から頼まれてしまったのだ。
明日までの提出書類に割く時間がなくなってしまったので、結局残業をして書類を作らなくては明日の仕事が回らなくなってしまう。
こういう時、縁故入社である萌衣の立場は弱い。
はっきりと断れる性格であればよかったのだが、押しに弱いところもあるため、押し切られてしまった。
ROSSETTO日本支社は、萌衣の祖母が所有している敷地を使っているため、そのおかげもあって彼女の持っているスペックでは決して入れないような大企業に入社できたのである。
堂々とすればいいのだが、縁故入社という引け目が萌衣の中のどこかにあった。
努力しても元々優秀な人達とは違うのだ。
だからこそ、少しでもできる仕事は頑張ってこなしたい。
そう思って、入社してから五年間努力した。
しかし、一向に満足できる成果は出せていない。
「もしもし?おばあちゃん?」
「ああ、萌衣さん。遅いわよ。あなた、私を何時間待たせるつもりなの?さっさと支度してきなさい」
絹江が萌衣をこの会社に入れたのも、良い結婚に繋がると思ったからだった。
まさか営業職で入社するとは思っていなかったらしく、秘書検定も取っていなかった萌衣に非常に呆れ気味だったことを今でも鮮明に覚えている。
まったく萌衣の意見を聞く気のない返事に、萌衣は「ごめん。残業があるから、今夜は無理」と情けない声で伝えた。
「何を言っているの。上司に言って帰らせてもらいなさい。今時は、時短で仕事する時代のよ」
今時の価値観を、結婚にも持ってきてくれればいいのだが、萌衣の苦労など知る由もないのだろう。
「いやいや、無理だから。そんなことしたら、明日の仕事に支障が出るから」
「じゃあ、今から十五分以内で終わらせなさい。あなた自分の人生と仕事とどちらが重要だと思っているの?」
ごもっともです。としか言えないが、あの冷酷上司が許してくれるかどうか。
待っていますからね、と祖母は電話を切ってしまった。
「ああ、もう!」
癇癪を起しても仕方がないと、苛立つ気持ちを抑えつけて、萌衣は自分のデスクに戻った。
「あと一時間は余裕でかかるよな……」
小さくため息をついて、キーボードを撃ち込む。
締め切りが分かっている営業報告書を後回しにした萌衣が悪い。
提出は明日の昼までなのだが、明日は朝一で他部署との会議が入っており、その会議が終わった後は、取引先の会社に行かなくはならないのだ。
明日の朝は、会議の書類の印刷や準備に回したい。
どう考えても、今この書類をやらないとアウトなのである。
会社の方針として、書類いを自宅に持って帰ることは情報漏洩阻止のため、固く禁じられている。
確かに、自宅に会社の書類を持って帰ると休める気がしないのだが、こういうピンチの時に、非常に困ってしまう。
本日も要領が悪かったのは、萌衣だけだったようで、オフィスの中は彼女一人が残っていた。
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