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Episode04:I worried about you
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「何弱気なことを言ってんのよ。自信持ってよ」
「でも、私、縁故入社ですし。ブラウン部長も気を使って……」
政略結婚相手だから、仕事に華を持たせた方がいいと思ったのだろうか。
自分で口にして、ハッとする。
やるからには、絶対に成功させたい。
しかし、萌衣は祖母が土地を持っていて、この会社のビルも経営しており、更にはジャンの結婚相手だ。
この仕事もジャンが持ってきた仕事で、萌衣が自ら動いて手に入れた仕事ではない。
ネガティブな思考が、感情が、仕事にまで影響してくる。
すごいのは、絹江やジャンであり、萌衣ではない。
あの人は縁故入社だから。
きっとすぐに結婚して辞めるでしょ。
今まで陰で叩かれていた言葉が、脳裏に蘇る。
「清水さんさ……」
呆れたような口調で、田口がため息をつきながら言った。
「……」
「あのイギリス人鬼部長が、そんな贔屓で仕事を割り振ると本気で思ってる?」
田口の静かな質問に、萌衣は口を噤んだ。
ジャンが、日本支社に来た際に、今の働き方では、日本支社は潰れると、祖母の権力を使って社内ルールを一新したのだ。
その頃の会社は、ほとんどが当時の取締役のやりたい放題で、残業は当たり前、おべっかを使った人間が上へ登り、偉くなる状態で、社員満足度も非常に低かった。
ジャンが来たことで、社員に正当な評価をという流れができたことは、彼の功績の一つだった。
「思ってないです……」
ジャンという後ろ盾があるということが、萌衣にとっての安心でありプレッシャーだ。
「大きな仕事を前にして、プレッシャー感じてるのは分かるけど、あえてハッキリ言ってあげる。あの人は、実力のない社員に、こんな大きな仕事任せたりしない。縁故入社だろうが、たたき上げだろうが条件は一緒よ」
うじうじしている萌衣の不安を吹き飛ばすように、田口は言った。
「すみません……」
「いや、私が変な話を清水さんにしちゃったから、変にネガティブにさせてこっちこそごめん」
「いえいえ、そんな!」
「清水さんが五年間頑張って働いているのを認めている人間は、部長の他にもけっこういるのよ。作る資料だって丁寧だしさ」
あまりに真剣な表情で田口が言うので、萌衣は顔が赤くなってしまった。
一生懸命頑張ってきた姿を見てくれている人がいたのだと、それがなによりも嬉しかった。
「あと、もう一つ噂話を聞いてもいいですか?」
「噂話?どんな?」
田口なら信用できるかもしれないと、萌衣は意を決して質問を投げかける。
「ブラウン部長って、社内で手当たり次第女性に手を出しているという噂って本当ですか?」
「どこ情報?それ?」
「えっと……荒巻さんから」
「ああ、なるほどね。そんな噂流れてないよ。人気は確かにあるみたいだけど、あんな堅物冷酷男にちょっかいかける女子なんて、この会社にほとんどいないわよ。それに、あんな目立つ人がそんな派手に社内でやったら、今頃大変なことになってるでしょうね」
田口の言葉に、萌衣は少しだけホッとした。
どうやら、荒巻は何か勘違いをしているようだった。
それと同時に、あの優しい顔を知っているのは、自分だけなのだと思うと、少しだけ優越感のようなものが胸の中にこみ上げてきた。
「まさか、清水さん。ブラウン部長に惚れちゃった?」
「ち、違いますよ!」
からかうように言われて、萌衣は慌てて首を横に振った。
「顔が真っ赤。清水さん分かりやすい。そうだよね。自分を認めてくれた上司なんて、かっこよく見えちゃうよね」
からかいながら席に戻っていく田口に「ちょっと、田口さん!」と萌衣は慌てて追いかけいた。
「でも、私、縁故入社ですし。ブラウン部長も気を使って……」
政略結婚相手だから、仕事に華を持たせた方がいいと思ったのだろうか。
自分で口にして、ハッとする。
やるからには、絶対に成功させたい。
しかし、萌衣は祖母が土地を持っていて、この会社のビルも経営しており、更にはジャンの結婚相手だ。
この仕事もジャンが持ってきた仕事で、萌衣が自ら動いて手に入れた仕事ではない。
ネガティブな思考が、感情が、仕事にまで影響してくる。
すごいのは、絹江やジャンであり、萌衣ではない。
あの人は縁故入社だから。
きっとすぐに結婚して辞めるでしょ。
今まで陰で叩かれていた言葉が、脳裏に蘇る。
「清水さんさ……」
呆れたような口調で、田口がため息をつきながら言った。
「……」
「あのイギリス人鬼部長が、そんな贔屓で仕事を割り振ると本気で思ってる?」
田口の静かな質問に、萌衣は口を噤んだ。
ジャンが、日本支社に来た際に、今の働き方では、日本支社は潰れると、祖母の権力を使って社内ルールを一新したのだ。
その頃の会社は、ほとんどが当時の取締役のやりたい放題で、残業は当たり前、おべっかを使った人間が上へ登り、偉くなる状態で、社員満足度も非常に低かった。
ジャンが来たことで、社員に正当な評価をという流れができたことは、彼の功績の一つだった。
「思ってないです……」
ジャンという後ろ盾があるということが、萌衣にとっての安心でありプレッシャーだ。
「大きな仕事を前にして、プレッシャー感じてるのは分かるけど、あえてハッキリ言ってあげる。あの人は、実力のない社員に、こんな大きな仕事任せたりしない。縁故入社だろうが、たたき上げだろうが条件は一緒よ」
うじうじしている萌衣の不安を吹き飛ばすように、田口は言った。
「すみません……」
「いや、私が変な話を清水さんにしちゃったから、変にネガティブにさせてこっちこそごめん」
「いえいえ、そんな!」
「清水さんが五年間頑張って働いているのを認めている人間は、部長の他にもけっこういるのよ。作る資料だって丁寧だしさ」
あまりに真剣な表情で田口が言うので、萌衣は顔が赤くなってしまった。
一生懸命頑張ってきた姿を見てくれている人がいたのだと、それがなによりも嬉しかった。
「あと、もう一つ噂話を聞いてもいいですか?」
「噂話?どんな?」
田口なら信用できるかもしれないと、萌衣は意を決して質問を投げかける。
「ブラウン部長って、社内で手当たり次第女性に手を出しているという噂って本当ですか?」
「どこ情報?それ?」
「えっと……荒巻さんから」
「ああ、なるほどね。そんな噂流れてないよ。人気は確かにあるみたいだけど、あんな堅物冷酷男にちょっかいかける女子なんて、この会社にほとんどいないわよ。それに、あんな目立つ人がそんな派手に社内でやったら、今頃大変なことになってるでしょうね」
田口の言葉に、萌衣は少しだけホッとした。
どうやら、荒巻は何か勘違いをしているようだった。
それと同時に、あの優しい顔を知っているのは、自分だけなのだと思うと、少しだけ優越感のようなものが胸の中にこみ上げてきた。
「まさか、清水さん。ブラウン部長に惚れちゃった?」
「ち、違いますよ!」
からかうように言われて、萌衣は慌てて首を横に振った。
「顔が真っ赤。清水さん分かりやすい。そうだよね。自分を認めてくれた上司なんて、かっこよく見えちゃうよね」
からかいながら席に戻っていく田口に「ちょっと、田口さん!」と萌衣は慌てて追いかけいた。
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