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Episode09:I can't marry you

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 遊園地の中にあるイタリアンレストランは、イタリアのベネツィアをモデルにしている。

 窓から見える景色には、人工的な川が流れており、ゴンドラに乗った客とスタッフが楽しそうな表情を浮かべていた。

「ここ新製品が出るらしいから、コメントが欲しいのよね」

 まだ新製品のコメントを収集していないのがあったのだと、相沢はスマートフォンのメモのページを開いてコメントの準備をする。

「分かりました」

「ワイン飲んじゃお。仕事中だけど、これ仕事だし」

 レビューしないといけないしねと、相沢が悪戯っぽい笑みを浮かべて店員に赤ワインを注文していたので、萌衣もそれにならって赤ワインをもう一杯注文する。

 新商品の料理が並び、定番のマルゲリータピザもついでに注文した。

 よく考えれば、朝からほとんど何も口にしていない。

 目の前に熱々の料理が並ぶと、途端に空腹が萌衣を襲った。

「さ、清水さん。食べましょ!私もお腹がすいたわ」

 乾杯もそこそこに二人でピザ、ラザニア、シーザーサラダに、パスタを平らげていく。

 あまりに萌衣がガツガツ食べるので、相沢は調子に乗ってデザートプレートまで注文してしまった。

「清水さん、意外に食べるのね。見ていて気持ちがいいくらいの食いっぷりね」

「今日は食べた方です。もう苦しい」

 食後のコーヒーで、気持ちを落ち着かせていると、不思議とネガティブだった気持ちも少し消えていくのを感じた。

「清水さん。逃げたっていいのよ」

 突然相沢がまじめな口調で言い始めたので、萌衣は驚いて顔を上げた。

「え……」

「いえ、なんとなく。清水さんって、なんか自分で自分のことを追いつめるタイプに見えたから。逃げないで立ち向かうことも勇気だけれど、撤退して自分の安全地帯に逃げてくるのも勇気だと思うから」

 相沢には萌衣が何かあったことなどお見通しのようだった。

 それもそうだ。

 こんな平日の白昼堂々にすっぴんにサングラスをかけて、一人で遊園地でぼーっとしていれば、何かあったのだろうと思うのも当然だ。

「ありがとうございます……」

「余計なおせっかいね。ごめん。歳とってくると余計なおせっかいを焼きたくなるのよ」

「いえ、そんなこと……。今日私、相沢さんに会わなかったらちょっとやばかったかもしれません」

 萌衣の言葉に「確かに、死んだような表情してたものね」と相沢は深く頷く。

 はっきり言葉を投げてくるが、何があったのかは聞いてこないのは、相沢なりの優しさだった。

 会計を済ませて、解散をする。

 料理のコメントを言っていなかったと気が付いた時には、もう相沢の姿は見えなくなっていた。

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