愛を求めて

魔女になりたい作者は蝋梅の花を愛でる

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どういうことですか、神様

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目が覚めれば森の中。
そして、そばには『あなたのものです』と書かれた紙きれのついた、それなりの大きさのリュックサックがあった。
困惑しながら自身の頬を抓れば、しっかり痛かった。
……夢ではなさそうだ。
再びそばに置いてあるリュックに視線を移す。
安全ピンで留められた紙をピッと引きはがしてまじまじと見る。
まるで機械で書かれたかのような綺麗な字で『あなたのものです』と書いてある。
他に得られる情報はないかと裏返したりじっくりと見てみたりしたが、それ以外は何も書かれてはいなかった。しかも、調べ終わった瞬間に紙は突然燃えて消えた。
仕方なくリュックの中身を確認する。
水、食料、ライター、薬や包帯などが入った救急キッド、寝袋、キャンプ用の調理器具セット、サバイバルブック、大きめのナイフが入っていた。
ちなみにいつも飲んでいるうつ病の薬は入っていなかった。
「神様、いったい何がしたいのさ……」
思わずそうポツリと呟くと、心地良いそよ風が頬を優しく撫でていった。
目を閉じて一度深呼吸をすると、目を開けてリュックを背負って立ち上がった。
「ここがどこか分からないけどせっかくの機会だし、とりあえず生きてみるよ」
自分以外に誰もいない空間にそう言葉を放つと、歩き出した。



真上にあった太陽がだいぶ傾いた頃、私はまだ森の中にいた。
ほぼ獣道といっていいほどの道を歩いては時節休憩して、足を進めていた。
休憩時には水分を取りながら、リュックの中にあるサバイバルブックを読んだ。
まだ森から抜け出せる気配がないので野宿することになるだろう。なので、野宿するにあたって重要な項目を読んだ。
「日が沈む前に野宿できる場所を探さないと。できれば少し開けた場所がいいけど……」
そう呟きながら歩いていると、日が沈み始めた。
まだちょうどいい場所を探し出せていないことに内心焦りと不安を感じながら歩いていると、突然開けた場所に出た。
「ここならいいかな……。日が沈む前に火を熾さなきゃ」
急いで枯葉や乾いた木の枝を拾ってきて、サバイバルブックに載っていた通りに火を熾す。
火の温かみある灯りに内心ホッとしながら、お腹が空いたので夕飯の準備を始めることにした。
金網を火の上に設置して水を入れた小鍋をその上に置く。沸騰したところで、レトルトカレーと包装米飯を入れて温める。温め終わったら鍋を火から外して、二つを慎重に取り出した。
湯気の立っているレトルトカレーの封を切り、その中にご飯を入れる。
「いただきます」と挨拶をして、スプーンで掬って食べた。
「おいしい……」
いつもなら食欲が湧かなくてまともに食べられないのに……。たくさん歩いたせいかな?
ぱくぱくと食べ進めていると、背後でガサリと草の擦れる音がした。
それに驚いてバッと音のした方を見ると、爛々と輝く二つの目がこちらを見ていた。
「ぎゃぅ……」
「ご、ゴブリン……?」
出てきたのはファンタジーやラノベでよく登場するゴブリンであろう生き物だった。
肌は緑色で大きな耳は尖っている。くりくりとした目は蜂蜜色で愛嬌のある感じがする。爪は長く鋭い。口からは牙が覗いていた。
ゴブリンといえば人を襲ったりすることで有名で、討伐対象としてよく描写されている。
そんな危険生物に突然対面した私は、どう対処するべきなのか分からず冷や汗を流した。
下手に動いてはいけない気がして何もせずにじっとした。
すると、そのゴブリンはクンクンと鼻を動かした。
(匂いを嗅いでる?カレーライスの匂いに反応しているのかな……?)
しばらくそうしていたゴブリンは私の手元にあるカレーライスに視線を注ぎ始めた。
「ぎゅぅ……」
私とカレーライスとを交互に見ながらソワソワとし出したゴブリンを見て、私は思案した。
(もしかして、この子お腹空いてるだけなのでは?)
こちらを襲おうとする様子はなく、私とカレーライスを見ながら切なげに鳴いている。
(どうしよう。リュックにいくつか食べ物が入ってるけど、動いても大丈夫かな……?)
動くことに躊躇していると、『ぐ~ぎゅるるるるる』とゴブリンのお腹の音が聴こえた。
「ぎゅぅぅ……」
お腹を押さえてペタリとその場に座り込んでしまったゴブリンを見て、私は意を決してリュックの元へゆっくりと向かった。
リュックの中から取り出したチョコレートバーを持って、中腰で慎重にゴブリンへと近づく。
ゴブリンから少し離れたところでチョコレートバーの封を切り中身を取り出すと、ゴブリンに差し出した。
首を傾げてこちらをみるゴブリンに私は「食べていいよ」と頷いた。
恐る恐る匂いを嗅いだゴブリンは食べ物と認識したのか、チョコレートバーを私の手から受け取りパクリと食べた。
「ぎゃう~♪」
美味しかったのか垂れていた耳をピンと立て、嬉しそうに笑うゴブリンに思わず微笑んだ。
チョコレートバーをぺろりと食べてしまったゴブリンはまだ物足りないのか、空っぽになった両手を見て「ぎゅぅ……」と切なそうに鳴いた。
それを見た私は今度はミックスフルーツバーを手に取り、中身を出して差し出した。
じっとこちらを見るゴブリンに「いいよ」と微笑んだ。
ゴブリンはそれにパッと顔を明るくさせると、ミックスフルーツバーを嬉しそうに受け取った。
モグモグと食べるゴブリンを温かい目で見ながら、自分も食べかけのカレーを食べた。
あのゴブリンに危険性はないだろうし大丈夫だろうと背を向けて食べていると、ゴブリンがポスンと隣に座ってきた。
満足したらどこかに行くだろうと思っていた私は、そのゴブリンの行動に目を丸くした。
ゴブリンは私と目が合うと嬉しそうに「ぎゃう!」と笑った。
(こちらに敵対している感じはしない。どちらかというと、懐いてる……?)
「まぁ、こちらに被害がないならいいか……」とカレーを綺麗に平らげると、マグカップを取り出しインスタントコーヒーを小鍋にあるお湯を使って作った。
コーヒーの匂いを楽しみながら飲んでいると、服の裾を引っ張られた。
「ぎゃう?」
コーヒーを見て首を傾げているゴブリンに私は少し思案して、リュックの中から何故かもう一個あるマグカップを取り出すと、紅茶のティーバックを入れてお湯を注いだ。
出来上がった紅茶に蜂蜜を少し入れてかき混ぜ、その工程をじっと見ていたゴブリンに差し出した。
キョトンとしているゴブリンに「飲んでいいよ」と頷く。
マグカップを受け取ったゴブリンは匂いを嗅いでから恐る恐る口をつけた。
「ぎゃう~~~♪」
まるで「おいしい~~~♪」と言っているかのような反応に噴き出して笑うと、ゴブリンはこちらを見て嬉しそうに笑った。


ご飯も食べ終わりすることもないので、リュックから寝袋を取り出して寝る準備を始めた。
寝袋を地面に敷いて中へと潜り込み、ふぅと息を吐いた。
ゴブリンはそれを不思議そうに見ていたが、しばらくして傍へ来て私の隣に横になった。
私の方を向いて丸くなり目を閉じているゴブリンを見て、「ねえ」と声を掛けた。
ぱちりと目を開けて蜂蜜色の瞳をこちらに向けてくるゴブリンに、私は寝袋の端に体を寄せ、自身の懐を指さした。
「今は焚火があるから大丈夫かもしれないけど、消えたらたぶん冷えるよ。だから、ここにおいでよ」
そう柔らかく微笑みながら言うと、ゴブリンはじっとこちらを見た後ゆっくりと寝袋に入ってきた。
私の懐におさまってこちらを伺うように見上げてくるゴブリンの頭を優しく撫でた。
「君がいてくれて助かったよ」
「ぎゃぅ……?」
不思議そうに小首を傾げたゴブリンを見て、私は笑みを零すとゴブリンをぎゅっと抱きしめた。
「寂しくないし、あったかいから……」
抱きしめられたことに驚いたように固まっていたゴブリンだったが、優しく背中を撫でるとぎゅっと抱きしめ返してくれた。
「ありがとう……おやすみ……」
そう呟いて私は瞼を閉じ、夢の中へ落ちていった。
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