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やっと森から出られそうですよ、神様
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ハーピーと出会ってから、さらに3日が経った。
ハーピーはもちろん私たちの仲間に加え、『サクラ』と名付けた。
漢字で書くと、『桜』。
瞳が日本の桜を連想させるような、綺麗な薄ピンクの色をしていたからこの名前にした。
名付けるとやっぱりカチリと繋がった感覚がして、サクラの感情が伝わってきた。もう悲しみや不安、恐怖といった感情はなく、安心といった感情が流れてきてホッと息を吐いた。
クリクリした目でこちらを見てくる小さな彼をスペースの開いたリュックの中に入れて、彼らと共に森の中を歩いていた。
食料は半分を切って、疲れも出てきた。
幸いサバイバルブックが手元にあり、食べられる木の実などは分かっていた。しかし、近くに川はない。
水は食料より少なくなっていた。
(いつまでもこの状況のままは正直キツイ……)
コハクやサクラには心配させまいと笑顔を見せていたが、内心は焦っていた。
(きっとこの子たちも私の不安や焦りが伝わってる。早くなんとかしないと……。せめて人に会えれば……)
そんな思いで森を歩いていると、遠くに何かが見えた。
(人!?いや、あれは……)
こちらに気が付いたのか、鋭い視線が私たちに突き刺さった。
―――ケンタウロス。
人間の上半身に馬の体を持った、空想上の生き物。
こちらを警戒しているように睨む瞳は焦げ茶で肌は浅黒く、長く伸びた髪は私と同じく黒い。
下にある黒い毛並みの馬の体を見ると右側の前足に違和感があった。
(患部が腫れてる……。捻挫か、もしくは骨折か……)
右足を庇うように座っているケンタウロスは、矢を引いた弓を構えてこちらに向けた。
ギリギリと引き攣る弦の音がこちらまで聴こえてくる。
ケンタウロスと私たちの距離はおよそ3メートル。
私は足を止めてコハクを背後に隠した。
(言葉が通じるか分からないけど、敵意がないことは伝えないと……!)
「打たないで!私たちはあなたの敵じゃない!」
両手を上げながら叫び、そっとしゃがみ込む。
コハクにサクラを抱き上げるように心の中で伝えると、コハクから了解の意を感じ、サクラからは大きな不安を感じた。
日が経つにつれ、コハクとサクラの感情や考えていることが分かるようになってきた。
きっかけが名づけだというのは分かっていた。そして、彼らと何らかの契約を結んだのではないかということも。
不思議と不安とか恐怖とかはなかった。感情や思考がお互い分かることにも嫌悪感はなかった。彼らへ思うことは、彼らがとても大切だということ。そして同時に、家族のように思っていること。守らなければいけない存在だということ。
(もし私が矢に打たれたら、あなたたちは逃げて)
コハクから強い拒否が伝わってきた。サクラからは大きな悲しみと不安、そして母親へと縋りつくような感情。
それに涙が出そうになったが、気を強く持つ。
(私はあなたたちがとても大好きなの。だから、生きてほしい。何とか穏便に済ますために努力するけど、もし無理ならあの背の高い草むらに向かって走って。絶対に、振り向いてはダメだよ)
私はそれだけを伝えて、ケンタウロスに意識を向けた。
未だ弓矢をこちらに向けるケンタウロスに、敵意がないことを示すためにリュックの中にあるナイフを取り出して、それをケンタウロスのほうへ転がした。
「武器はそのナイフだけ。私たちはあなたを傷つけない。自分の命に誓って」
両手を上げて跪いたまま、じっとケンタウロスを見つめる。
しばらくして、じっと私の目を見つめ返していたケンタウロスが弓矢を降ろした。
だが完全に警戒を解いたわけではないようで、じっとこちらを注視している。
「あの、怪我をしているの?」
ケンタウロスの前右足に視線を向けながら、問いかける。
(心なしか、呼吸も早い気がする。捻挫や骨折による発熱があるかもしれない)
私はリュックの中から救急キッドを取り出し、ケンタウロスへと声を掛けた。
「応急処置、手当をさせてください。私は、あなたを助けたい」
じっとケンタウロスの目を見ながら訴えると、彼は「なぜだ」と言葉を口にした。
私はそれに驚いて目を見開くと、彼は構わず続けた。
「なぜ、人間が、俺を助ける」
「……あなたを放っておけないからです」
「助けて、お前に何の得がある。恩を着せて、何か要求するつもりだろう」
「違います……!見返りは何も求めません。ただ、あなたが心配なんです」
「人間の手を借りるなど……」
「では、あなたは、生きるチャンスがあるのにそれを見逃して、死ぬというのですか?」
真剣な目で彼を見れば、彼はしばらく黙った後長い溜息を吐いた。
「好きにしろ、人間。ただ、変な真似をすれば、殺す」
殺気を込めた目で睨まれ一瞬身が竦んだが、負けずに見つめ返した。
ふっと視線を外して途端に辛そうに顔を歪めたケンタウロスに、救急キッドを持って近づいた。
コハクとサクラにはリュックの後ろにいるように指示し、私は彼の手当てを始めた。
「骨は折れていますか?」
「……いや、思いっきり捻っただけだ」
「分かりました。今から処置を施しますが、痛いかもしれません。少しの間、我慢してくださいね」
彼に軽く症状を聞いて、取り出した湿布を右前足の患部に貼った。
息を詰める彼に「次は固定します。痛いと思うので、この布を噛んでいてください」と白い布を噛ませた。
捻ったのは足首の部分なので、その部分を圧迫させるように包帯を巻き付ける。
荒い息を吐きながら耐えている彼に、「頑張ってください……!」「もう少しで終わりますよ!」と時節声を掛けながら処置を終わらせた。
「お疲れさまです。無事、終わりました」
自身の額に滲んだ汗をぬぐいながら、彼の口に噛ませていた布を取り除いた。
「大丈夫ですか?お水飲みますか?」
「……ああ」
リュックから取り出した水を、一応毒味の意味で目の前で少し飲んでから彼に差し出した。
相当喉が渇いていたのだろう、ごくごくと500mlのペットボトルの水を飲み切った彼は息を吐いた。
空になったペットボトルを貰い、オレンジ色に染まりだした空を見た。
「もうすぐ日が暮れます。今日はもう、野宿しましょう。ご飯を作りますから、少し待っていてください」
そう言って、私は夕飯の準備に取り掛かった。
コハクとサクラに声を掛けて、手伝ってもらう。
枯葉と枝を集めてもらい火を熾し、金網を置いてお湯を沸かした。
今日は怪我人(?)がいるのでレトルトシチュー(大容量が二つ)だ。
ケンタウロスの彼には温めたシチューと非常食用のパン(一応、目の前で一口ずつ毒味をした)とスプーンを渡して、私たちは温めた包装米飯をシチューの中に入れて分け合って食べた。
美味しそうに食べるコハクとサクラには道中摘み取った果物も剥いて与えると、どちらも嬉しそうに笑って食べた。
「お前、魔物を使役しているのか?」
食べ終わる頃にケンタウロスの彼に質問され、その内容に内心顔を顰めた。
「使役はしていません。彼らは私の家族です」
「家族だと?」
「彼らには命令はしません。お願いをすることはありますが、嫌がることは絶対にしません」
毅然とした態度でそう答えれば、彼は少し黙ったのち再び口を開いた。
「俺はブラオン。この先にある、村に住んでいる」
「私はチセ。ゴブリンの子がコハクで、ハーピーのほうがサクラです」
「……お前、この森に何しに来た」
「……旅をしていて、彼らとはこの森で出会いました。今は森を抜けようとしているのですが、どこへ向かっているのかも分からず……。水も食料も半分を切っているので、少し焦っているところです」
そう淡々と説明すると、彼は目を見開いた。
「貴重な食料と水をこの俺に使ったのか……?」
「ええ。『旅は道連れ、余は情け』。困っている人がいれば、助けます。こういう行いは、回りまわって自分に返ってくると言いますから」
「……」
私の言葉に黙ってしまったブラオンさんを一瞬見てから、いつも飲むコーヒーを作った。
「ブラオンさん、お茶でも飲みますか?よかったら作りますが」
「……なぜそんなに余裕そうにしているんだ」
「焦っても、良い方向へ行くとは思えませんから」
「俺に、助けを求めないのか」
「『見返りは何も求めない』と先ほど言ってしまいましたから。なんだか言いづらくて……」
「馬鹿なッ!助けたお前が俺に遠慮してどうするんだ。それこそ、『生きるチャンスがあるのに死を選ぶのか』?お前は」
「いえ……、そうですね。あなたの言う通りです、ブラオンさん」
私はふぅと息を吐くと、正座をして彼に頭を下げた。
「お願いします、ブラオンさん。見返りを求めないといった手前とても言いづらいのですが、助けていただきたいです。森の出口を教えていただけませんか」
「……ここは、”迷いの森”。出方を知るもの以外は出られないようになっている、まじないのかかった森だ」
「……」
「お前、”旅をしている”と言っていたな。本当はこの森の先にある俺たちの村を見つけようとしていたんじゃないのか?」
「いいえ。この森の先に村があるだなんて、私は知りませんでした」
「……この森には、人間の骨がいくつもある。そいつらは、俺たちの村を見つけようとして死んだ奴らだ。この森の獣に襲われ、喰い殺された者。そして、森から抜け出せなくなって餓死した者だ」
そんな恐ろしい森にいたのか、と冷や汗が頬を伝う。
「お前は、俺を助けた。だから、恩を仇で返すつもりはない。だが、俺たちの村で妙な真似をしてみろ。再び、この森にお前たちを捨ててやるからな」
先ほど見せたものより強い殺気を見せられ、私は恐怖に固まった。
「わかり、ました。絶対にそんなことは、しません。私の命に誓って。ですが、どうか、お願いです。森へ捨てるのは私だけにしてください。この子たちは私の家族です。どうか、お慈悲を」
震えながらもそう言い切れば、彼はすっと目を細めたのち殺気を解いた。
「いいだろう。もしものことがあった場合、その魔物たちは迷いの森とは別の森へ帰す」
「ありがとう、ございます」
恐怖と緊張から解放され、私はよろけた。
「ぎゃぅ!」
「ピィッ!」
慌てたように駆け寄ってきたコハクとサクラを抱きしめる。
彼らも私と同様震えていた。
「ありがとう、コハク。サクラも。私は大丈夫だから」
ブラオンさんは抱き合う私たちを静かに見つめた後、「寝る」とひとこと言って背後の木へ凭れ掛かりながら目を閉じた。
動かなくなったブラオンさんに、私たちも寝ようと後片付けをしてから寝袋を敷いてそこへ潜り込んだ。
「ぎゅぅ……」
「ピィ……」
「おやすみ、みんな。また明日……」
そう言ってふたりを抱きしめながら、眠りについた。
ハーピーはもちろん私たちの仲間に加え、『サクラ』と名付けた。
漢字で書くと、『桜』。
瞳が日本の桜を連想させるような、綺麗な薄ピンクの色をしていたからこの名前にした。
名付けるとやっぱりカチリと繋がった感覚がして、サクラの感情が伝わってきた。もう悲しみや不安、恐怖といった感情はなく、安心といった感情が流れてきてホッと息を吐いた。
クリクリした目でこちらを見てくる小さな彼をスペースの開いたリュックの中に入れて、彼らと共に森の中を歩いていた。
食料は半分を切って、疲れも出てきた。
幸いサバイバルブックが手元にあり、食べられる木の実などは分かっていた。しかし、近くに川はない。
水は食料より少なくなっていた。
(いつまでもこの状況のままは正直キツイ……)
コハクやサクラには心配させまいと笑顔を見せていたが、内心は焦っていた。
(きっとこの子たちも私の不安や焦りが伝わってる。早くなんとかしないと……。せめて人に会えれば……)
そんな思いで森を歩いていると、遠くに何かが見えた。
(人!?いや、あれは……)
こちらに気が付いたのか、鋭い視線が私たちに突き刺さった。
―――ケンタウロス。
人間の上半身に馬の体を持った、空想上の生き物。
こちらを警戒しているように睨む瞳は焦げ茶で肌は浅黒く、長く伸びた髪は私と同じく黒い。
下にある黒い毛並みの馬の体を見ると右側の前足に違和感があった。
(患部が腫れてる……。捻挫か、もしくは骨折か……)
右足を庇うように座っているケンタウロスは、矢を引いた弓を構えてこちらに向けた。
ギリギリと引き攣る弦の音がこちらまで聴こえてくる。
ケンタウロスと私たちの距離はおよそ3メートル。
私は足を止めてコハクを背後に隠した。
(言葉が通じるか分からないけど、敵意がないことは伝えないと……!)
「打たないで!私たちはあなたの敵じゃない!」
両手を上げながら叫び、そっとしゃがみ込む。
コハクにサクラを抱き上げるように心の中で伝えると、コハクから了解の意を感じ、サクラからは大きな不安を感じた。
日が経つにつれ、コハクとサクラの感情や考えていることが分かるようになってきた。
きっかけが名づけだというのは分かっていた。そして、彼らと何らかの契約を結んだのではないかということも。
不思議と不安とか恐怖とかはなかった。感情や思考がお互い分かることにも嫌悪感はなかった。彼らへ思うことは、彼らがとても大切だということ。そして同時に、家族のように思っていること。守らなければいけない存在だということ。
(もし私が矢に打たれたら、あなたたちは逃げて)
コハクから強い拒否が伝わってきた。サクラからは大きな悲しみと不安、そして母親へと縋りつくような感情。
それに涙が出そうになったが、気を強く持つ。
(私はあなたたちがとても大好きなの。だから、生きてほしい。何とか穏便に済ますために努力するけど、もし無理ならあの背の高い草むらに向かって走って。絶対に、振り向いてはダメだよ)
私はそれだけを伝えて、ケンタウロスに意識を向けた。
未だ弓矢をこちらに向けるケンタウロスに、敵意がないことを示すためにリュックの中にあるナイフを取り出して、それをケンタウロスのほうへ転がした。
「武器はそのナイフだけ。私たちはあなたを傷つけない。自分の命に誓って」
両手を上げて跪いたまま、じっとケンタウロスを見つめる。
しばらくして、じっと私の目を見つめ返していたケンタウロスが弓矢を降ろした。
だが完全に警戒を解いたわけではないようで、じっとこちらを注視している。
「あの、怪我をしているの?」
ケンタウロスの前右足に視線を向けながら、問いかける。
(心なしか、呼吸も早い気がする。捻挫や骨折による発熱があるかもしれない)
私はリュックの中から救急キッドを取り出し、ケンタウロスへと声を掛けた。
「応急処置、手当をさせてください。私は、あなたを助けたい」
じっとケンタウロスの目を見ながら訴えると、彼は「なぜだ」と言葉を口にした。
私はそれに驚いて目を見開くと、彼は構わず続けた。
「なぜ、人間が、俺を助ける」
「……あなたを放っておけないからです」
「助けて、お前に何の得がある。恩を着せて、何か要求するつもりだろう」
「違います……!見返りは何も求めません。ただ、あなたが心配なんです」
「人間の手を借りるなど……」
「では、あなたは、生きるチャンスがあるのにそれを見逃して、死ぬというのですか?」
真剣な目で彼を見れば、彼はしばらく黙った後長い溜息を吐いた。
「好きにしろ、人間。ただ、変な真似をすれば、殺す」
殺気を込めた目で睨まれ一瞬身が竦んだが、負けずに見つめ返した。
ふっと視線を外して途端に辛そうに顔を歪めたケンタウロスに、救急キッドを持って近づいた。
コハクとサクラにはリュックの後ろにいるように指示し、私は彼の手当てを始めた。
「骨は折れていますか?」
「……いや、思いっきり捻っただけだ」
「分かりました。今から処置を施しますが、痛いかもしれません。少しの間、我慢してくださいね」
彼に軽く症状を聞いて、取り出した湿布を右前足の患部に貼った。
息を詰める彼に「次は固定します。痛いと思うので、この布を噛んでいてください」と白い布を噛ませた。
捻ったのは足首の部分なので、その部分を圧迫させるように包帯を巻き付ける。
荒い息を吐きながら耐えている彼に、「頑張ってください……!」「もう少しで終わりますよ!」と時節声を掛けながら処置を終わらせた。
「お疲れさまです。無事、終わりました」
自身の額に滲んだ汗をぬぐいながら、彼の口に噛ませていた布を取り除いた。
「大丈夫ですか?お水飲みますか?」
「……ああ」
リュックから取り出した水を、一応毒味の意味で目の前で少し飲んでから彼に差し出した。
相当喉が渇いていたのだろう、ごくごくと500mlのペットボトルの水を飲み切った彼は息を吐いた。
空になったペットボトルを貰い、オレンジ色に染まりだした空を見た。
「もうすぐ日が暮れます。今日はもう、野宿しましょう。ご飯を作りますから、少し待っていてください」
そう言って、私は夕飯の準備に取り掛かった。
コハクとサクラに声を掛けて、手伝ってもらう。
枯葉と枝を集めてもらい火を熾し、金網を置いてお湯を沸かした。
今日は怪我人(?)がいるのでレトルトシチュー(大容量が二つ)だ。
ケンタウロスの彼には温めたシチューと非常食用のパン(一応、目の前で一口ずつ毒味をした)とスプーンを渡して、私たちは温めた包装米飯をシチューの中に入れて分け合って食べた。
美味しそうに食べるコハクとサクラには道中摘み取った果物も剥いて与えると、どちらも嬉しそうに笑って食べた。
「お前、魔物を使役しているのか?」
食べ終わる頃にケンタウロスの彼に質問され、その内容に内心顔を顰めた。
「使役はしていません。彼らは私の家族です」
「家族だと?」
「彼らには命令はしません。お願いをすることはありますが、嫌がることは絶対にしません」
毅然とした態度でそう答えれば、彼は少し黙ったのち再び口を開いた。
「俺はブラオン。この先にある、村に住んでいる」
「私はチセ。ゴブリンの子がコハクで、ハーピーのほうがサクラです」
「……お前、この森に何しに来た」
「……旅をしていて、彼らとはこの森で出会いました。今は森を抜けようとしているのですが、どこへ向かっているのかも分からず……。水も食料も半分を切っているので、少し焦っているところです」
そう淡々と説明すると、彼は目を見開いた。
「貴重な食料と水をこの俺に使ったのか……?」
「ええ。『旅は道連れ、余は情け』。困っている人がいれば、助けます。こういう行いは、回りまわって自分に返ってくると言いますから」
「……」
私の言葉に黙ってしまったブラオンさんを一瞬見てから、いつも飲むコーヒーを作った。
「ブラオンさん、お茶でも飲みますか?よかったら作りますが」
「……なぜそんなに余裕そうにしているんだ」
「焦っても、良い方向へ行くとは思えませんから」
「俺に、助けを求めないのか」
「『見返りは何も求めない』と先ほど言ってしまいましたから。なんだか言いづらくて……」
「馬鹿なッ!助けたお前が俺に遠慮してどうするんだ。それこそ、『生きるチャンスがあるのに死を選ぶのか』?お前は」
「いえ……、そうですね。あなたの言う通りです、ブラオンさん」
私はふぅと息を吐くと、正座をして彼に頭を下げた。
「お願いします、ブラオンさん。見返りを求めないといった手前とても言いづらいのですが、助けていただきたいです。森の出口を教えていただけませんか」
「……ここは、”迷いの森”。出方を知るもの以外は出られないようになっている、まじないのかかった森だ」
「……」
「お前、”旅をしている”と言っていたな。本当はこの森の先にある俺たちの村を見つけようとしていたんじゃないのか?」
「いいえ。この森の先に村があるだなんて、私は知りませんでした」
「……この森には、人間の骨がいくつもある。そいつらは、俺たちの村を見つけようとして死んだ奴らだ。この森の獣に襲われ、喰い殺された者。そして、森から抜け出せなくなって餓死した者だ」
そんな恐ろしい森にいたのか、と冷や汗が頬を伝う。
「お前は、俺を助けた。だから、恩を仇で返すつもりはない。だが、俺たちの村で妙な真似をしてみろ。再び、この森にお前たちを捨ててやるからな」
先ほど見せたものより強い殺気を見せられ、私は恐怖に固まった。
「わかり、ました。絶対にそんなことは、しません。私の命に誓って。ですが、どうか、お願いです。森へ捨てるのは私だけにしてください。この子たちは私の家族です。どうか、お慈悲を」
震えながらもそう言い切れば、彼はすっと目を細めたのち殺気を解いた。
「いいだろう。もしものことがあった場合、その魔物たちは迷いの森とは別の森へ帰す」
「ありがとう、ございます」
恐怖と緊張から解放され、私はよろけた。
「ぎゃぅ!」
「ピィッ!」
慌てたように駆け寄ってきたコハクとサクラを抱きしめる。
彼らも私と同様震えていた。
「ありがとう、コハク。サクラも。私は大丈夫だから」
ブラオンさんは抱き合う私たちを静かに見つめた後、「寝る」とひとこと言って背後の木へ凭れ掛かりながら目を閉じた。
動かなくなったブラオンさんに、私たちも寝ようと後片付けをしてから寝袋を敷いてそこへ潜り込んだ。
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幸運スキル仕事を始めたかな。ちょっと心配な主人公さんですね。
誤変換?報告おば、 この森のけ者に→この森の獣に
スマホで読んでるのですが、一文で改行入れて頂くと読みやすいです。
これは、良いゴブリン(゜ロ゜)‼️