天才美少女に造られた万能魔導兵器になった俺!

こどもじ

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世界を覆う闇

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どうやら俺はロボに生まれ変わってしまったらしい。

その結論に至ったのは、レラちゃんと名乗る女の子の手を握り返した拍子に、自分の手を見てしまった時である。

レラちゃんの、柔らかく暖かな生き物らしい手に比べて、自分の無機質でゴツゴツとした金属の手。

こんな体温も脈拍も感じられず、鋼のパーツでゴテゴテに覆われた手足を見て、自分が普通の人間だなんて信じるやつはどこにも居やしないだろう。

いや、それだけならまだ鎧を着ているだけかもと悪あがきが出来ただろう。

だが、声もなんかおかしいのだ。常にボイスチェンジャーのような二重エフェクトが掛かっており、まるで夏場に扇風機に向かって話しかけているような違和感を感じる。

何の因果か、前世の記憶を持って生まれ変わったはいいが、自分がロボになるとは露ほども想定していなかった。

今の俺の目的は、この俺を造ったらしいご主人様――レラ=スピネルちゃんの命令を忠実に遂行すること。それに備える為に今は、機能を最低限に抑えた待機スリープ状態と言ったところだ。

レラちゃんは、とても嬉しそうにキャッキャとはしゃぎながら、呆然と立ちすくむ俺の手を引いて鏡の前まで連れてきてくれた。

どうやら生まれたばかりの俺に、自分の姿を見せてやろうと言う心遣いであるらしい。

その時鏡越しに見た俺の姿は、子供の頃テレビで憧れていたスーパーヒーローにそっくりだった。

アレらは中に人が入っているが、アイ〇ンマンや宇宙刑事を更に厳つくして、どこかエキゾチックな雰囲気を纏わせたとでも表現すべきだろうか。

全身を覆う白銀色の光沢を放つ金属製の鎧の他に、体表を走る紋様のようなものが、時折緑色に光りながら関節などの節目節目に張り巡らされている。

その紋様はどことなく縄文土器に似ていて、先端科学よりどちらかといえば古代文明的な趣があり、通好みのシブいデザインだなと思ってしまった。

いい加減そこそこの年になってヒーロー物は卒業したが、それでも相変わらずかっこいいと思ってしまうあたり、男というのは結局いつまで経ってもこういうのが好きなのだ。

ロボと言っても体の大きさ自体は、前世での俺の身長とそう大差は無い。レラちゃんの身長が一二〇センチそこそこだとすれば、俺の身長はそれプラス六〇センチほど。

この体は相当人間に寄せて作られているらしく、となりで手を握ってくれているレラちゃんの手の柔らかさや、ちびっ子特有の高い体温まで直に伝わってくるのだからまったく驚きであった。

「えへへ……すごくかっこいいよ、トリムルティ」

そう言って手を握りながら嬉しそうにはにかみむレラちゃんに、俺は思わず心の中で胸を押さえながらのたうち回る。

こんな可愛い顔で嬉しそうにそんなこと言われてしまったら、童貞の俺は好きになるに決まってるだろ!

残念ながらロボットには表情がないので笑顔が出来ない。なので、喜びを表す代わりに軽く頷いておいた。

駄目だ。既にこの生活も悪くないかもとか思い始めている自分がいる。

レラちゃんは可愛い。完全な自由がないというのは多少不便だが、この子に命令されるのならロボット的にはむしろ破格の待遇と言えるかも知れない。

欲の皮突っ張った政治家の親父や、むさ苦しい軍人のおっさんにこき使われるよりは遙かにマシだ。

俺がそう自分を納得させている横で、レラちゃんは急にきっ、と真剣な顔に変わり、俺の無機質な手を頬に寄せた。

「トリムルティ……君は、この地上に生きるすべての人々の希望なんだ。君の力があれば、この世界を覆う闇をきっと振り払うことが出来るよ。僕と父さんが、すべてを賭けて造り上げた、君ならきっと――」

そう言って、俺の硬い手の平を頬ずりしながら、レラちゃんはぽろぽろと涙を流す。

俺は彼女の唐突の変わりように、なんとも言えぬ居心地の悪さを感じながら、じっとその姿を見下ろしていた。

……ああ、なるほど。どうやら結構、重い世界に来てしまったらしい。

まだ生まれたばかりで何も分からぬまま、いきなりそんなことを言われても困る。

そもそも一気に情報量を詰め込まれたおかげで、考えも何も纏まっていないのだ。

だが、俺の心を揺るがすまでもなく、自分の意思とは無関係に口が動いて、勝手に返答をしてしまっていた。

『――イエス、マスター。あなた様のご意思のままに』

そう言ってその場に膝を突く俺の体に、少女は瞳に涙を浮かべたまま、にこりと微笑み返した。

創造主ご主人さまの命令は絶対。

これが被造物の哀しい性さがって奴か……。

(……ってかこれ、俺の意識要らなくない?)

そう自分の存在意義に疑問を感じつつ、俺は膝をついたままじっと泣き顔の少女と見つめ合っていたのである。

* * *


どうせ断れないんだから前向きに頑張ろうよ!

俺がそう半ばやけくそに決意を固めている横で、レラちゃんが淡々と、今世界が置かれている危機的状況を説明してくれた。

地上は今、五〇年前に突如現れた、"暴食者デボア"という名の異形の怪物によって滅亡寸前にまで追い込まれているらしい。

その怪物は、とにかく何でも食う。

人間や動物はもちろんのこと、虫や草、植物の葉っぱや根っこまで何でも。唯一食べないのは、石や砂などといった無機物だけらしい。

そしてとにかく増える。細胞分裂や無性生殖でも増えるかと思えば、人間や他の動物の腹に寄生して、卵を植え付けたりして増えることも出来るのだとか。

その侵攻する勢いの凄まじさに、世界で生き物の住める地域は極めて少なくなっており、今や地上の八割は奴らに食い荒らされ、その他の生き物たちは、残る二割で寄り添うように縮こまって生きているのだとか。

以前までは、地上は人間と魔物、エルフとドワーフ、天使や悪魔などといった仲の悪い種族同士の血みどろの戦場と化していたが、デボアが出現して以降、その異常な侵攻速度に対抗するために、どの種族も互いのわだかまりを捨てて一致団結して事に挑んでいるらしい。

もはやなりふり構っていられないと言うことなのだろう。外からの脅威が来て、初めて互いに手を取り合う事が出来るとはなんとも皮肉な話だ。

一応はデボアと融和を目指し、共存の道を探ろうとする種族もいくつかはあったらしい。

だがそのすべてが無駄だった。それを試みた種族は、今ではすべて住処を追い出され散り散りになって滅亡しているという。

デボアには言葉が通じない。言語という概念がない。理解出来る知性というものがあるのかすら怪しい。

彼らにあるのは際限の無い食欲だけだった。

目に映るモノは動物だろうと植物だろうと関係なく喰らい尽くし、女には種族構わず子種を植え付けて、ひたすらその数を増やし続ける。

文明を築いて生活を営むようなことも無く、ただただ欲望のままに暴れ狂って地上を食い荒らすだけの無駄な存在。

デボアの支配する勢力圏はすぐに草の一本も残らない渇いた砂漠と化し、そこでは飢えたデボア同士が腹を満たす為に、互いに貪り合う、地獄のようなおぞましい光景が広がっているらしい。

これではすべての種族から敵視されるのも無理はなかった。完全に地上の癌だ。

かつての人間にとっては、魔物こそが悪の象徴であり、絶対的な敵対者であった。

だが今思えば、星という大きな枠組みで考えれば、魔物もまた友人であると人々は改めて気づかされたのだという。

魔物の支配する地上は、人間にとっては暮らし辛いであろうがそれは彼らの在り方に基づいて、暮らしやすいように作り替えた世界の形の一つに過ぎない。

デボアの作り出す砂漠のように、誰も生き存えることが出来ず、彼ら自身も共食いで滅んでいくような破滅的な世界の在り方は、きっとこの世の誰しもが望んではいなかった。

よってデボアは、この地上に住まうすべての生き物の絶対的な敵として、満場一致で認められたのである。

「"デボア"は……剣で斬っても、槍で突いてもすぐに傷が修復する。それどころか、下手に半分に切ったら二体に増えて、かえって事態が悪化することもあるんだ。奴らに対抗するには、超高火力で体組織の一つ一つまで完全に焼き尽くすしかないっ!」

そう早口で熱弁するレラちゃんに、俺は体を動かせないまでも心の中でふんふん、と相づちを打つ。

どうやら使命感に燃えているらしい。

みたところ小学生ぐらいの女の子なのだが、口調から考えるにかなり頭は良さそうだ。

……ってか、こんな凄い機体を一人で組み立てるぐらいだし、俺より相当賢いかも。

ファンタジー御用達設定の、エルフは長生きで見た目通りの年齢じゃない説も考えたが、話しを聞く感じ性格はかなり子供っぽい気がする。

「……そこでっ! 生み出されたのが、君なんだ。僕と父さんの知識と技術の集大成、『トリムルティ』! きみは、古代遺跡に残っていた超文明の遺産を活用した、これまでの戦いの常識を覆す、"万能魔導兵器"なんだよ!」

そう言うとレラちゃんは、演説するかのように拳を握りしめながら、つぎに悔しそうに唇を噛みしめた。

「残念ながらこの研究は……世間から認められず、父さんは無能研究者の烙印を押されたまま体を壊して死んでしまった。だから僕が、皆を助けて、貶められた父さまの名誉を晴らすっ! その為にトリムルティ、きみの力を貸して欲しいんだ」

『イエス、マイマスター。御心のままに』

レラちゃんの言葉に、俺の口が間髪入れず無機質な返事を返す。

だからね? 最初から俺に拒否権無いんだって。

まあ俺も別に嫌って訳じゃない。今の話聞くと、人情としてなんとかして助けてあげたいな、とは思う。

偉そうに上から命令されてる訳でもなく、女の子に涙ながらにお願いされてるんだからなおさらだ。

ただそれが出来れば、の話だ。

レラちゃんは俺をもの凄く強い風には説明してくれるけど、実際戦ってみないことには俺がどれだけやれるのかまったく分からない。

せっかく記憶を持ったまま生まれ変わったのに即効で死ぬのは流石に避けたい。

だけど、どうせ巻き込まれるんだったら前向きに頑張った方がまだ良いよねっていう、そんなやけくそじみた覚悟で、自分を騙して戦う決意を固めている真っ最中なのだ。

なんだか、異世界に来たって色々期待してたんだけど、この状況はなんかちょっと俺が思っていたのと違う気がして仕方ない。

もっとこう、イージーでチートで奴隷ハーレムな、ウハウハな状況を想定していたんだが、俺の考えが少し甘かったのかも知れない。

何処を見ても先行き不透明すぎて、何一つこれだと思えるような要素が見えない。ただその中で、一つだけ頑張る理由があるとすれば――

「ありがとう! わたしと一緒にがんばろう、トリムルティっ!」

今はこの笑顔を守る為に出来る限りはやろうって、ただそれだけだ。
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