欲にまみれた楽しい冒険者生活

302ワンガ

ＯＺはハックを家まで送ると、明日はブルネリ公爵主催のパーティに参加するので適当な宿を取って休むことにした。

「拓、何を考えているんだ？」
「今後、ハックに何を教えれば良いのかと思ってね。」

正直、拓が教えられる様な知識はピース神官とトリス神官が教えている。

「だったら、実際に治癒魔法を多く見せてやれば良いじゃないか。」
「そんなので良いのか？」
「良いと思うぞ。ハックも拓の技術を感心しているじゃないか。」
「そっか。それなら俺でもハックに教える事は出来そうだな。
　魔法って具体的なイメージと魔力が有れば何とかなるから、指導と言ってもある程度使える様になると何を教えれば良いのか困るよね。」

ガラは魔法はそういう事で良いのかと思いながらも、今日見ていてハックは拓の治療魔法を見て発見する事が多かったみたいなので問題ないと判断した。

「気が楽になったら、腹が減ってきた。たまには外に食べに行こうよ。」

ガラとレオは拓の様子に笑い、３人で居酒屋へ。
冒険者達が良く使う、安くてボリュームが有り、味はそれなりの店。
ＯＺが入っていくと冒険者達がチラ見をして来る。
結構酔っぱらっている大男が立ち上がり拓の顔を覗き込んで来た。

「あんたが拓さんか？」
「そうだけど、何か用ですか？」

不意を突かれた。太い腕でガッチリと抱きしめられ、唇を奪われた。

「何をする。」

拓が無理やり顔を離すと、大男が自分の回りに浮いた水球を見て

「魔法を抑えてくれ。ちょっとした冗談だ。
　俺の仲間が昨日の賭けに負けてな。自業自得なんだが少し仕返しをしたくなってな。
　それに、ちょっと可愛かったしな。」

両手を挙げて笑っている大男に、拓は溜息しか出てこなかった。
ガラとレオが居る所で唇を奪って来るとは・・・別の場所なら色々と出来たというのに。
拓は水球を消すと

「女将さん、ここに居る人達に酒を。」
「あいよ。３人とも席に座っておくれ。あんた達はビールで良いかい？」

大男が満面の笑みで拓を抱きしめると、またキスをしてきた。
直ぐに唇を離すとウィンクまでしてくる。

「がっはっは。お前等、俺のキスのお陰だぞ。有難く思えよ。」
「酔っぱらい、とっとと席に着きな。」

大男が女将さんに叩かれ、他の冒険者からのブーイングと笑いの中、大男は大きな手で拓の肩を叩いて自分の席に戻った。
全員の席にビールが配られると冒険者達に言われ拓が音頭を取ることに

「では、皆さんの明日からの稼ぎに、乾杯！」
「カイパ～イ」

笑い声とブーイングが起きながら皆がグラスを掲げる。
拓は店の人にもう一杯づつ追加で出す様に言って、自分達の料理を注文した。

「さっきの男、ワンガの事を許してやってくれないか。
　あんた達が来る前まで、自業自得とは言え金を失って殆どの冒険者が愚痴っていたんだ。
　あれでも、ワンガの気遣いなんだよ。」

女将さんがすまなそうに言うが、
確かにＯＺが入って来た時の雰囲気は良いとは言い難かったのでワンガの気遣いは有難かった。
ただ、拓は１人の時だったら楽しめたのにと　ふざけた事を考えていた。

「あれがワンガだったのか。」
「ガラは知っているのか？」
「Ａランク冒険者として有名な男だ。俺よりも実力は上だろうな。」

拓はガラの言葉を聞いて、飲んで笑っているワンガを眺めていた。