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バトルフェスティバル 地区予選編③

第107話

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 ザザザザザザザッ


 地形の変遷による環境の変化。

 カーティスは後退しながらも、魔力の出力量を惜しまない。

 回転する渦が水平方向へと伸びる。

 リンは崩壊したシールドの表層から目を逸らさなかった。

 直線上に後退するカーティスの足取りを追跡する。

 追撃する雷の粒子。

 空気中を伝播する電流の熱波。


 崩壊するシールドの外殻が、その綻びを空間に零していた。

 リンはその“スキ“を逃さなかった。

 低い重心からのステップ。

 それは重厚な波動を生み、瞬く間に地面を“掴む”。


 バンッ


 叩くというよりも”打つ”。

 強烈な「一歩」の踏み出しは低い軌道を保ちながらも、確かな推進力を運んでいた。

 地面の変形など意にも介さず、カーティスとの間合いを詰める。

 砂塵を利用した膜。

 その防御への「魔力」の具現化は流れる動作の中に絶えず“動き続けていた”。

 しかし超電導の特性を持つリンの前には、「時間」が足りない。

 リンの攻撃によって崩壊したシールドの修復を捨て、後退するまでの“距離”。

 この「距離」の間に注いでいたカーティスの魔力流域は、地面から持ち上がる砂や石の原子間を結び、渦状の防護壁を生み出し続けていた。

 けれども、リンはその魔力流域をも自らの「経路」に変換していた。

 「電流」だ。

 カーティスとの直線距離に漂っている純度の高い流域。

 その「場」を媒介できる媒質こそが、彼女の持つ特性に他ならない。

 リンの特性はその「場」にある魔力の流れを“媒介”できるだけで、決して、それを自らの魔力総量に“置換”することはできない。

 特性が発動している間は、その「場」にある魔力のみを仲介することしかできない。

 だが、それこそが、特性のもっとも長所とされるべき点だった。

 その場にある魔力を「仲介」できる。

 すなわち、水のようにその場の魔力の中に溶け込むことができ、“自由に出入りすることができる”。

 カーティスとの間にある魔力流域は彼女にとっての「通路」でしかなく、「魔法」への具現化、——つまり魔力の出力=実体化が遅れれば、彼女が移動できる領域はより広く、大きくなる。

 シールドが崩壊した間際、彼女はカーティスへと近づく「一歩」の中に自らの魔力を押し込んでいた。

 爆発的に外へと放出された力が彼女の体を押し上げ、——進ませる。

 その前進力を持たせながら、カーティスが魔力を具現化するまでの領域内部へと翔ぶ。

 ほんのわずかな「隙間」でしかなかった。

 判断が遅れれば、再び壁を形成される恐れもあった。

 カーティスは首の根っこを掴まれ、後退する勢いのまま地面の上に押さえ込まれた。

 肉体を掴まれることは、魔力を出力する上での「経路」を阻害される要因にもなる。

 天使は体内の魔力を外へと放出し、「魔法」へと昇華するのが基本原則の一つだからだ。

 動きを拘束される中、至近距離からの電撃が、振りかぶるリンの右腕の最中にあった。

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