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霊術院出のエリート

第181話

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 「ギッ!?」


 先頭を飛んでいたクリーチャーの胴体に矢が直撃する。

 直撃すると同時に、隊列が乱れる。

 市街地への飛行経路。

 その経路からの方向転換を試みたのは、先頭の後に続いていたクリーチャーたちだった。

 地上からの攻撃に対し、切り返したように距離を取る。

 最後尾のクリーチャーは先頭の方向転換の後、ブレーキをかけたように旋回した。

 巨大な”円”が、空に描かれた。


 「キョウちゃん!アイツら撹乱させる気だよ」

 「そんなのは分かってる。チサト、私の矢を全部拾える?」

 「もちのろん!」


 冷気。

 上空に飛び出した一本の矢は、大気中の水蒸気を凍らせながら飛翔していた。

 アーチ状に描かれたその軌道には、白い尾が引かれていた。

 そして——


 弦を引く動作。

 キョウカは狙いを定めていた。

 多方面へと散らばるクリーチャーの追跡。

 彼女は矢を射る時、目ではなく特殊な「視覚」を使う。

 これは他の天使にも言えることだが、天使には空間内のエーテル濃度を視覚化できる能力があり、これをうまく活用すれば、物質を構成する原子力の強度や密度を、3次元的に捉えることができるようになる。

 中にはリンのように独自の「目」を構築し、戦闘に役立たせる天使もいるが、基本的には、あらゆる天使はエーテル粒子で満たされた「世界」を見る。

 天使にとって、あらゆる物質は粒子のつながりの中に見える「点」だ。

 「物質」はミクロの粒子によって構成されている。

 たとえそれが一本の線に見えても、無数の「点」によってそれが構築されていることを知ることができるだろう。

 そしてその視覚の中において、捉えられない“角度=範囲“は無い。
 

 
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