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深淵からの使者

第203話

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 「準備はオーケー?」


 位置についた真琴の耳に、夜月からの無線連絡が入る。

 「オーケーだよ」と、真琴は呟き、息を潜める。

 狙いは一点だった。

 キョウカが展開したシールドは、並大抵の攻撃ではびくともしないだろう。

 ただし、それは逆に言えば、そのシールドが壊れた時は、それ相応の「魔力」を持った魔族が出てくるということでもある。

 “出てきたところを討つ”

 それは単純なようで、理に適った選択の一つでもあった。

 真琴は狙いを定めていた。

 キョウカと違い、真琴の「矢」は複数の敵に対して相性が良くない。

 彼女がもっとも得意とする技、「業火球」は、圧縮された熱エネルギーを矢の中に閉じ込め、それを弾丸のように飛ばすことを特徴としているが、1発1発の威力が高い分連射はできず、広範囲への影響力がそこまで高くない。

 「霧雨」のように、複数の敵や広い範囲に対して強い影響を及ぼせる攻撃は、高度な魔力への変換能力と、体内外に流れる魔力流域の細微な操作能力が必要になる。

 が、真琴はそういった「技」を、あまり多くは使ってこなかった。

 彼女にその能力が備わっていない、というよりは、彼女の「能力」が“自身の戦闘スタイルに影響を及ぼしている”といった見方が正しく、特に彼女の特性である「テンション」は、狭い範囲であればあるほどその効果が発揮されるため、自ずとその傾向に沿った戦い方が構築されていったという側面がある。
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