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深淵からの使者
第224話
しおりを挟む飛翔体は散り散りになりながら、天守閣の上空で生き物のように激しくうねった。
無数の「線」が勢いよく迸りながら、その一本一本が意思を持ったように空間の中を泳いでいく。
線は細く、目まぐるしい速度で、稲妻の如く大気中を駆けていった。
糸のように軽やかな軌道。
ゴムのように伸縮する波。
一度弾けた場所から重力に逆らうように泡立ち、無数に散らばった「黒」が逆巻いていく。
まるで“蛇”だった。
——いや、それをなんと例えるかは、目の当たりにした者によって多様な変容を見せるだろう。
真琴の目には、空中でバラバラに蠢く無数の線が、蛇のように素早く、空をうねり歩いているように見えた。
明らかに「動き」がおかしい。
飛翔体がただのエネルギー体であれば、時間の経過とともに徐々に減衰し、消失していくはず。
シールドを破壊する役目を終え、あとは消え去るのみ。
しかし、「消失」することはおろか、魔力が増大していることに気づいた。
ただし、そんなことはあり得なかった。
それが遠隔で操作する“魔法”であるにせよ、目前で起きた魔力の“変化”は、説明し難いほどの急激なエネルギーの変化を伴っていた。
まるで飛行を終えたミサイルが、目標地点で起爆した時のような激しいエネルギーの“放出”があった。
視線が咄嗟に動いたのはそのためだ。
弾けた飛翔体の外面的な「変化」は、あくまで認識の後に起きた事象に過ぎなかった。
爆発。
弧を描くように伸び上がる「線」が、空高々に飛翔していく。
そうして激しいうねりの最中、急速に軌道を変え、ある“一点”へとエネルギーが収束した。
数え切れないほどの無数の放物線が、規則正しい動きを保ちながら、空の表面に慌ただしく回転する。
線と線が交錯し、1つの「形」を紡いでいく。
渦を描くような、「球面」を。
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