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まだ、寝てたいんだけど

第35話

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 「いつか、一緒に行こうって約束した」

 「へ?」

 「海の向こうに広がる、まだ見たこともない世界に」


 女の言葉は、水面の表面を泳ぐようにやさしく響いた。

 透き通っていた。

 なんて言うのかわからないけど、なんとなくそう思ったんだ。

 まっすぐ向かってくるボールが、少しも曲がる気配がないように。


 「せやから、あんたの力が必要や」

 「俺の…力?」

 「キーちゃんの夢を叶えることができるのは、あんたしかおらん」


 アイツの夢。

 世界でいちばん速いストレート。


 俺は約束してた。

 アイツの代わりにマウンドに立って、いつか、甲子園の舞台に行く。

 アイツに憧れてたから。

 また、一緒にグラウンドに立ちたいって思ったから。


 だけど、最近になって感じるようになった。

 もしかしたらもう、千冬とは会えないかもしれない。

 もう一緒に、グラウンドには立てないかもしれない。

 だんだん怖くなってきていた。

 野球に触れるたび。

 マウンドに立つたび。

 新しい春がきて、桜が散るたびに。


 
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