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まだ、寝てたいんだけど

第34話

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 「私たちはこの海で知り合ったんや」

 「え?」


 渾身のストレート。

 バシィッという音が、グローブの中で弾ける。

 力いっぱいに振りかぶって、女は投げてきた。

 グローブの奥で左手が痺れた。

 めちゃくちゃ、…いい球。


 「この場所に、キーちゃんはよく来てた。偶然すれ違ったんや。同じように水平線を見てたら、たまたま目が合って」


 千冬がよくこの海に来ていたのは知ってる。

 アイツは、海が好きだったから。

 昔はここでよくキャッチボールをしていた。

 アイツが言い出したんだ。

 「一緒にてっぺんまで行くぞ」って、街の坂道を駆けり。


 「それで…?」


 この場所でたまたま会って、そのあとは?

 単純に気になった。

 詳しい経緯はまあ置いておいて、どんな風に友達になったのかと思い。


 「キーちゃんから聞いたことない?」

 「…なにを?」

 「いつか、誰も行ったことがない場所に行ってみたい。そう、言ってたこと」


 知ってる。

 千冬は、いつも遠い景色を見てた。

 街の坂道を下るとき、線路の上を歩くとき、——どんな時もだ。

 いつも空を見てた。

 アイツは憧れてたんだ。

 背の高い積乱雲の向こう側で、新しい明日がやってくること。

 その岬に立ちたくて、走ってた。

 誰よりも速く、足を動かしていたいと言っていた。
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