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新入部員

第70話

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 すぐ近くのスーパーマーケット、『Aコープ』。

 献立はいつも、スーパーに着いてから考える。

 なぜならこの時間はタイムセールで生鮮品が安くなってるからだ。

 当たり外れはあるが、めちゃくちゃ大当たりの時もある。

 とりあえず肉が欲しい。

 最近は焼き魚とか質素な晩メシばっかで飽き飽きしてた。

 おかんの料理って毎回淡白なんだよな。

 シンプルでいいんだが、捻りがない。

 これっぽっちも。

 だから自分で作るときくらいは思いっきりハメを外そうと思っている。

 ということで今日は肉。

 野菜はある程度揃ってるから、大根だけ買い足してすき焼きにしよう。

 女はしゃぶしゃぶの方が良いと言ってきたが、無視無視。

 作ってもらえるだけありがたいと思えよ?

 まじで。


 食材を買い終えた後、帰り道で女に尋ねた。

 単純なことだ。

 この前聞いた気がするが、どうも納得ができなかった。

 

 「なんで親と喧嘩したん?」

 「え?…ああ、気になる?」


 そりゃ気になると言えば気になる。

 「逃げてきた」って言ってたが、よっぽどのことがないとそんなことにはならないだろう。

 なんかあったんだろ?

 絶対。

 思い詰めたような顔してたし。


 「別に」

 「教えてくれてもよくね?」

 「なんで?」

 「…あのな、わざわざ家に泊めてやってるんやぞ?会って間もないお前を」


 女は「ああ、そうか」と妙に納得した顔をして、ポンと手を叩いた。

 話したくないことがあるんだったら別に良いけど、理由くらいは聞かせて欲しい。

 無理にとは言わないが。
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