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嘘だろ!?

第85話

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 「後ろを振り向いてみて?」


 …後ろ?


 女の言葉を追うように、恐る恐る後ろを振り向くと、また、あり得ないものが飛び込んできた。


 見覚えがある。

 見たことがある。


 そんな“感覚”に打ちひしがれたのは、俺の中で立ち止まっている“時間“が、バチッと電気が弾けるように流れてきたからだ。

 背の低い体躯に、麦わら帽子。

 裸足の下に履いた水色のサンダルと、大きな瞳。

 それが”誰”かが、わからないわけじゃなかった。

 …でも、あり得ないと思った。

 どうしてここにその「人」がいるのか

 どうして、そこに立っているのか…


 思わず声をあげたんだ。


 「千冬!」


 って。


 目の前にいる少女が、彼女には違いなかったから。



 手を伸ばして、触れようとした。

 だけど、それは影のように光の”外“へと逃げていこうとした。

 どれだけ速く走って近づいても一緒だった。

 触ることができなかった。

 近づくことすらできなかった。

 すぐ目の前にいるはずなのに、まるで鏡の中の物体のように、絶対に超えることができない“境界”があった。

 手が届いた瞬間だった。

 俺の指が貫通したのは。

 …いや、透けていたんだ。

 空気に触れた時のように、そこにはなんの感触もない。

 雨上がりの虹を追いかけて、いつまでもそこにたどり着けない。

 そんな実体のない幻影が、すぐ目の前にあった。
 
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