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ライバル

第119話

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 「とにかく、1995年のあの日に、何もかも変わってしまったんや」

 「あの日って…、地震のあった日??」

 「そうや」


 変わったって、…なにが?

 俺は、あの日に何が起こったのかを知らない。

 地震があって、街は崩壊したそうだ。

 当時の写真が、ネットとか新聞に掲載されてる。

 それを見て、何があったかを想像することしかできない。


 震災で多くの人が亡くなった。

 婆ちゃんもそうだ。

 大ちゃんは震災で家を無くし、それが原因で両親は離婚した。

 小学校の頃の友達も、近所のおばさん家も、あの日、大事な人を亡くした。

 それを想像でしか、語ることができない。


 あの日に街が変わったのは事実だろう。

 もしも地震がなければ、まだ婆ちゃんは生きてた。

 きっと今も元気で、くしゃくしゃの笑顔で隣にいて…


 「あの日に私は生まれた。“運命”が変わったんや」

 「…運…命…?」

 「…私も困っとんや。どう説明しようかと思ってな」


 頭をかきながら、困惑した表情を見せる。

 …まったく

 難しくしてるのはそっちなんだから、ちゃんとまとめてくれよ。

 一応、信じようとは思ってんだから。


 「この前も言うたけど、私が野球をやっとんのは…」

 「…やっとんのは?」


 ボールを握ったまま、女はこっちを見ていた。

 なにか言いかけて、立ち止まったまま。

 その様子を目で追いかけながら、俺は思い出していた。

 あの時俺に会いに来て、“俺の力が必要だ”って、女は言ってた。

 奇妙だった。

 そんなこと、今まで面と向かって言われたことはなかったし。
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