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夢が覚めないうちに

第259話

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 「時間は常に前に進んどる。せやから、一度過ぎ去ったものを、元に戻すことはできん」

 「…なにが言いたいんや?」

 「あんたの知っとる“キーちゃん”は、この世界にはおらん。あんたがどれだけ会いたいと思っても、1つの現実を、そう簡単に変えることはできん」


 そんな…ばかな。

 意味がわからない。

 だって現に、こうして…


 「千冬はここにおるやんけ!お前俺に、千冬を助けるって言うたよな?助けるために、この世界に連れてきたんやろ!?」


 女は首を横に振る。

 半ば、不安そうな面持ちで。

 じゃあこれはどういうことだよ!?

 この「世界」は!?

 彼女は??

 “助ける”って、つまりそういうことだろ!?


 「たしかにここは、キーちゃんが事故に遭わんかった世界線や。せやけどあんたが言うように、キーちゃんを助けるためにここに連れてきたわけちゃう」

 「…どういうことや??」

 「ここはあくまで可能性の1つに過ぎん。つまり、あんたがおる世界とは、ある意味無関係な世界や」


 無関係…って?

 助けるためじゃない?だって?

 …どういうことだ?

 ってか、そもそも俺が聞いてんのは、目の前に千冬がいるってことだ。

 ここがどんな世界かは知らないが、その事実に変わりはないだろ。

 だから——


 「キーちゃんはここにはおらん。少なくとも、あんたの隣には」


 言ってる意味がわからない。

 千冬が…いない?

 何言ってんだ?

 ちゃんと目ぇついてんのか?

 どう考えても今、目の前に——



 ゴオオオオオオオオ…



 耳を疑うような轟音が、海の方から聞こえてきた。

 風は無い。

 空の流れも。

 空気の乱れも。

 まだ、——どこにも。

 足元が揺れる。

 視界がグラつく。


 …地震?

 …いや、でも、まさか——



 ドドドドドドドッ



 立ってるのもやっとなくらいの巨大な揺れが、地面の底からやってきた。

 焦って何かに掴もうとした。

 けど、手すりも何も無い。

 思わず地面に手をつけて、膝をついた。

 そうでもしないと、思うように立っていられなかったからだ。


 ビルが揺れている。

 信号機も。

 歩道橋も。


 音が段々と大きくなってきた。

 雨足が強くなるかのようなスピードで、少しずつ速く、近づいてくる。


 交差点の上の人たちは、微動だにしていなかった。

 地面に吸い付いたかのような隙間のなさで、ぴったり固定されたまま硬直している。

 それだけじゃない。

 街全体を揺るがすほどの振動が目前まで迫っているのに、停止した街の輪郭は時間を切り取ったように静かなままで、どこまでも“止まっていた”。

 地面は確かに揺れていた。

 足の底が弾かれるほど、強く。

 地面に繋がっているあらゆる物体が、巨大な揺れの波に“干渉”していない。

 そんな“変化のなさ”を目の当たりにしながら、地面に這いつくばる。

 波。

 振動。


 そして——
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