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トンネルの向こう

第329話

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 クロノポリスっていう場所がなんなのか、ここがなんのために作られたのか、話を聞く限りじゃ、いまいち理解できなかった。


 “未来のために作られた場所”


 女はそう言う。

 隕石が落ちてくるのを見た。

 世界の形が変わった。

 そういう断片的な記憶の中に、この場所の秘密があると言う。

 信じられないわけじゃなかった。

 大げさすぎるこの場所も、バカみたいにでかい扉も。

 ここがショッピングモールなんかじゃないのはわかってる。

 ましてや、公共の場なんかでも。

 でも、やっぱり…


 世界が滅ぶ。

 それは何回考えても同じだ。

 未来で科学装置が発明されただの、世界の形が変わっただの、考えただけで頭が痛くなる。

 そんなの作り話か何かだろ?

 つい、そう思ってしまって…


 「着いたで。ここに資料がある」


 細い通路を渡った先に、パソコンルームのような部屋が現れた。

 たくさんのパソコンがある。

 埃ひとつない小綺麗なタイル床と、数式が並ぶホワイトボード。

 写真や資料が、机の上に散乱していた。

 書棚にはぶ厚いファイルが何冊もあった。

 部屋の角に立てかけられたコートハンガー。

 ガラス製のローテーブルに、使用されていない灰皿。

 冷蔵庫も置いてある。

 電子レンジも、テレビも。

 ここに誰かいたのか?

 私物らしきものが、チラホラとあった。

 読みかけの雑誌や、封の空いたタブレット。

 ただ、それにしたって小綺麗だな…

 全然散らかってない。

 冷蔵庫には水も入ってない。

 椅子は、新品同様だし。
 


 「つい最近まで、誰かがおったとは思う」

 「ふーん」

 「この部屋は量子コンピュータ室と繋がっとる。つっても、コントロール室とはまた別の場所やけど」

 「変なフィギュア。誰の机?これ」

 「さあ、知らん」

 「めちゃくちゃパソコンがあるけど、何に使うん?」

 「研究室の試験的なデータを管理しとる。そこに地図があるやろ?ここは「E」っていう区画や。メインコンピュータルームは北側にある。ガラスの向こうを見てみ?メインコンピュータを稼働させとる機械の一部が見えるから」


 部屋の壁際には窓があって、その向こうに、広々とした吹き抜けの空間が続いていた。

 向こうの空間が丸見えだった。

 それくらい、窓のスペースが広々としていた。

 一体何があるんだ…?

 そう思いながら覗き込むと、そこには異様な光景が。

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