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トンネルの向こう

第330話

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 高さも奥行きもある空間。

 人が通れそうなほど太いダクト。

 パソコンルームの小綺麗な床や壁が嘘みたいに、その“場所”は黒ずんでいた。

 汚いわけじゃない。

 ましてや、散らかっているわけでも。

 視線を傾けた先にあったのは、ゾッとするほどの冷たい質感だった。

 人の気配がない。

 それは見たままの印象だった。

 人の気配が無いのはさっきからだが、そういう意味じゃないんだ。

 感じたのは、そういうことじゃない。

 もっと深い、何か。

 穴の中を覗き込んだ時のような、海の底から持ち上がってくる藍色のような、不気味さ。

 それがあった。

 
 機械…?


 一瞬それがなんなのかは分からなかった。

 直径何十メートルもある。

 天井からぶら下がっている円盤型の金属と、配線。

 太い鉄骨と、奇妙な電子部品。


 巨大なドーナツ型の機械が、部屋の中央に設置されている。

 めちゃくちゃデカくて、床一面を覆っていた。

 吸い込まれそうになってしまった。

 なんだこの物体…

 リングの中央には箱型の大きい機械装置があり、外側には太い配管のような金属パイプが、円に沿って均等に取り付けられていた。

 パイプはそのまま壁の中に繋がっている。

 どこに繋がっているのかは知らないが、1本1本がリングの部品と接続されていて、接続部には青い表面が見えた。

 上から見ると、蜘蛛の巣のような形状になっていた。

 リングの中央だけでなく、つなぎ目にも箱型のボックスがあり、電子機器が剥き出しになっている。

 空間自体が回路みたいな作りになっていた。

 ゲーム機が壊れた時に中を開いて見たことがあるけど、あの感じ。

 作り自体は全然違うけど、パッと見それっぽいなって思った。

 人の血管のように張り巡らされているコード。

 複雑な機構が組み込まれた外観。

 それこそ、生き物のようにも見えた。

 細かい部品で埋め尽くされた、機械仕掛けの時計みたいに。


 パソコンルームと機械がある部屋は、かなりの高低差があった。

 ちょうど見下ろす形で、ドーナツ型の機械が見えた。

 今自分がいる所がいちばん低い場所かと思ったが、そうじゃないみたいだ。

 地下の構造がどうなってんのか知らないが、地図を見る限り、まだまだ下に階層がありそうだった。

 つい、自分が地面の中にいるっていうことを忘れてしまう。

 だってこの窓の向こうも、かなり下まで掘削されてる。

 下手したら3階くらいの高さがある。

 窓のすぐ外には簡易式の渡り通路があって、下まで行けるようになってた。

 向かい側の壁にも行けるみたいで、どうやら、ここと同じような部屋が奥に広がってるみたいだった。

 電気はついてなかった。

 下側のフロアにも同じく部屋が。

 通路も見えた。

 上からはよく見えないが。
 



 
 
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