勇者を討伐した魔王様は魔力を封じられた為に解雇される。

吉樹

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第2章 『エルフ国編』

第12話 「魔王様、ようやく世界樹を攻略する」

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「いっけえええええええええええええええええーーーーー!!!!」



 マリエムの絶叫と共に、蒼雷を纏う一条の矢が放たれた。

 私たちと交戦中の黒エルフは一瞬だけ反応が遅れるも、床から伸ばした枝で防ごうとする。
 確かに、ただの弓矢ならばそれだけで簡単に防ぐことができただろう。
 しかしその矢は、私の蒼雷で強化されているのだ。


 ──結果。


 防御する枝は、次々とあっさり貫通。

 一瞬の遅滞なく黒エルフの防御網を突破した蒼雷矢が、狙い違わず黒エルフの頭部に突き立っていた。



『GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』



 人ならざる絶叫。
 その意味の成すところは、痛みか怒りか。
 いずれにしても。
 その意味を詮索する必要もなく。


「これで終わりだ!!」


 動きが止まった間隙を逃す私ではなく、一気に踏み込み、黒エルフの頭を切り飛ばしていた。

 頭が宙を飛ぶ黒エルフと、一瞬だけ視線が合う。

 意外なことに、その双眸には怒りではなく、悲哀の念を帯びていた。
 倒されたことが悲しいのか、他に何かあるのかは知らないが。
 そもそもが、この黒エルフの目的すら、知らないのである。
 そして──興味もなかった。


(お前が倒されるのは必然だ。同情はしない)


 私が冷酷なのではなく、この黒エルフの末路は自業自得なのだ。

 黒エルフの頭部が床に落ちると、それと同じくして残っていた胴体──樹木が、さあっと砂に。


『レイ…ク…イさ、ま……』


 途切れ途切れに誰かの名を呟いた頭部が、次の瞬間には胴体と同じく砂へと。
 そのか細い呟きは、間近にいた私の耳にしか聞こえていなかったようで。
 生き残った白エルフたちがその場に思い思いに尻もちをつき、互いに生還を喜び合い始めた。


「終わった……か」
「助かったぁ~~……」
「お前も無事だったか!」
「お互い、ボロボロだなぁ」
「俺……無事に村に帰れたらあの子に告白するんだ……!!」
「ちょ!? 馬鹿かお前! 勝手に変なフラグを立てるな!」
「勘弁してくれよ、死亡フラグとか」
「なんにしても生き残ったぞーー!」


 たちまちその場は、安堵の息と歓声の渦に。 


「やったよ……私!」
「お疲れ様、マリエム」


 緊張の糸が切れたのかペタンと座り込む妹の肩に、ビトレイが優しく手を置く。


「やれやれ……最後に、美味しい所をもっていかれたのう」
「まあいいじゃないですか。終わったんですから」


 面白くなさそうに呟くドラギアの下へと移動していたレイが、苦笑い。


「価値のある部位を残さないとは……くたびれ設けですね」
「ほんとに、何にも残ってないですね」


 砂と化している黒エルフの亡骸を見てアテナが嘆息し、警戒しながら確認するダミアンも同意する。

 それぞれがそれぞれの反応を示す中、私は黒エルフの頭部だった砂に視線を落としていた。


(最期に呟いたあの名前……まさか……)


 完全に聞き取れたわけじゃなかったが、思い当たる名前に目ぼしはあったのだ。
 とはいえ、確証があるわけじゃないので、憶測で勝手な事は言えないだろう。
 死に際に、憧れているだけの人物の名を呟いただけかもしれないからだ。


(生き証人はもういない。そして証拠もない以上、下手な事は言えないか)


 喜びと安堵の雰囲気の中、私だけが顔をしかめていたのだった。



 ※ ※ ※


 皆が見守る中、ドラギアが台座に”核”を収める。

 これといって大きな変化を感じることが出来なかったのは、ここが室内だからだろうか。
 せいぜい変化を感じられたといえば、台座に収められたオーブが、すうっと宙に浮いたことくらいだろう。

 ドラギア自身、少しだけキョロキョロと周囲を見回した後、小さく吐息。


「終わったの」


 白エルフたちからも、安堵の吐息が漏れてくる。
 そんな中で、やはり実感が持てないのか、マリエムが小首を傾げた。


「お兄ちゃん、ほんとに、これで世界樹の暴走は終わったの?」
「僕に聞かれても……クレアナードさん、どうなんでしょうか?」
「私に聞かれても返答に困るんだが……アテナ、同じ精霊同士、何か感じることはないのか?」
「無茶振りしないでもらえませんかね? 精霊といっても根本的には人間とそれほど変わりないのです。ですから、そのように考えてもらえば、同じ人間だからと別の人間の内心の変化など、わからないでしょう?」


 ごもっともなことを言ってくるアテナに、私は反論する言葉を持たない。
 その変わりにドラギアへと視線を向けるも、当の彼女もそれほど実感はない様子だった。


「儂もわからんよ。そもそもが、今回のような事自体が初めてのことなんじゃからの」
「とはいえ、”核”が台座から外れたことで世界樹が暴走したのですから、元に戻せば暴走も収まるとは思いますが……」


 レイがそう述べてくるものの、他の白エルフたちも確信は持てない様子。
 周囲を見回したり、壁や床を触ったり。
 しかしその場にいる誰もが、確たる証を見つけられないみたいだった。


「まあ、やることはやったんだ。で、ドラギア。この後はどうする?」


 私が問うと、彼女は「ふむ」と小さく頷く。


「とりあえず数名をこの場に残し、いちど麓の村に戻ろうかの。その後で、改めて世界樹内の地図の再作成、”核”についての精密な調査、内部に残された者たちの救出、同じ事態が起こらないような仕組みを作る、といった具合かのう。それ以外にもやらねばならぬことが山ほどあるが……まあ、いま言っても仕方なかろう」


 王として、責任者としての立場でそう述べた後、ドラギアは私へと近寄ると、小声で訊ねてきた。


「クレアナードや。お前さんは、これから何か予定でもあるのかの?」
「ん? 別に予定なんてないが」
「ならばちょうどよい。儂からの依頼を受けてみる気はあるかの?」
「依頼だと……?」


 周りに聞こえないような小声で依頼を聞かされた私は、先ほども述べた通り予定などないので、そして私自身も気になることもあり、彼女からの依頼を引き受けることにする。


「おお、引き受けてくれるか。助かるぞ。現状、儂ら白エルフが下手に動くわけにはいかぬからのう」
「なんだかんだいっても、やはり貴女も”王”なんだな」
「カッカッカ。持ち上げすぎじゃよ。儂は単に、事の真相を知りたいだけじゃよ」
「……知ってどうする?」
「後は、政治的取り引きじゃろうて。そうなれば儂の出る幕はなく、宰相の出番じゃろうな」
「なるほどな」


 その後、私たちは白エルフの志願者半数を残し、帰路を取ることに。
 やはり暴走が収まったおかげなのか魔獣の発生頻度は通常に戻っており、帰路上にいる負傷者たちと合流を果たしながら、それほどの危険もなく無事に世界樹の外へと。
 場所は、南のサウス村側だった。
 本隊と一緒に行動した以上、本隊の出発点となるのは当然といえるだろう。


「ではクレアナードや。依頼の件、頼むぞ?」
「わかっている。ただ、あまり期待はしないでほしい。いまの私は、ただの冒険者のひとりだからな」
「カッカッカ。それこそわかっておるわ。だからこそ、自由に動けるお前さんに依頼するんじゃからの」

 にこやかに笑うドラギアは、思い出したように自分の髪飾りを外すと、それを私に渡して来る。

「これは?」
「報酬の前払いじゃ」
「ずいぶんと気前がいいな」
「なに。儂にとってはそれほど価値のあるものじゃないからのう」
「なるほど。で、効果を聞いてもいいか?」
「周囲の魔力を自動的に取り込み、蓄積。そして装備者の意のままのタイミングで、一度だけ攻撃魔法を防ぐ結界を張る代物じゃ。どうじゃ? いまのお前さんにしたら、けっこう使える魔道具じゃろう?」
「……確かにな。それで、一度だけの使い捨てなのか?」
「まさか。儂が身に着けておったものじゃぞ? 再び魔力を取り込んで蓄積すれば、永続的に使えるわい」
「まじか」


 その効果に、私は素直に驚きを覚えた。
 使い捨てならばともかく、永続的ともなると、この魔道具のランクはA相当と言ってもいいだろう。

「いいのか? こんな高価なものをもらっても」
「高価……か。本来のお前さんならば、まったく必要のないものじゃったろうな?」
「……だな」
「まあ、そんなに気にするな。報酬の前払いと、今回の礼というふたつの意味があるからの」
「ちょっと待て。そうなると、この魔道具だけなのか? お前の依頼の報酬は?」
「弱体化してガメつくなったのかの?」
「もらえるものはもらっておかないとな。タダでリスクを背負うほど、いまの私に余裕はない」
「なるほどの。まあ、よいわ。そうじゃのう……では、成功報酬として、これくらいでどうじゃ?」


 提示された額は、かなりの破格といえた。
 金銭感覚が狂っているのか、それとも、それだけこの依頼の重要度が高いのか。
 いずれにしても……


「ふむ……こちらに依存はない」


 納得した私は、受け取った髪飾りを髪の毛に付ける。
 なんとなくしっくりくる感触があるのは、魔道具ゆえのことかもしれない。


「ほほう……馬子にも衣装じゃのう」
「クレアナード様……魅力がさらに上がりましたよ!」


 目を細めるドラギアと興奮気味のレイに、私は苦笑い。


「私は外見は気にしないからな。多少変だとしても、効果を得られるのならば気にはしない」
「へ、変じゃないです! とっても似合ってます!」
「私はノーコメントとさせて頂きましょうかね」


 頬を赤らめてくるダミアンと、いつも通りの態度をしてくるアテナ。

 兄弟エルフは、やはり白エルフ王の手間ということもあってから、緊張しているのか表現を控えており。


「ではの、クレアナード。任せたぞ」
「ああ、確かに引き受けた」


 こうして私たちは、白エルフ王ドラギアと別れることに。

 その後、私たちがまず向かった先は、隊陽動私たちの出発点である、西のウェスト村である。
 なぜこの村に向かったかといえば、世界樹攻略前に名前を登録した村に帰還することで、生存者と行方不明者の確認を行うためだ。
 そして、報酬の受け渡しである。

 世界樹の暴走が収まった以上、これといって何事もなく、私たちはウェスト村へと到着する──


「おっ? 生きてたんだな!」


 素直に驚いた声にそちらに振り向けば。
 気楽な様子でひらひらと手を振る竜人の姿があった。



 ※ ※ ※



「あ!!! あんたらは私たちを見捨てたクズ姉妹!!!!」


 怒りの絶叫をあげたのは、言うまでもなくマリエムである。


「よくもまあのうのうと顔を出せたわよね!!!!??」
「ちょ、ちょっと落ち着こうよ? マリエム?」
「でもお兄ちゃん!! こいつらのせいで──」


 今にも飛び掛かりそうな勢いの妹を、ビトレイが慌てて押さえる。
 気持ちは妹と同じながらも、さすがに相手が悪い。
 このまま飛び掛かったとしても、返り討ちにあうのが目に見えているため、必死に止めているのだ。


「ふたりとも、無事に村に帰れていたんだな」


 私が皮肉交じりに言うと、竜人姉──ライカが、にかっと笑って来た。


「アンタらを餌にして逃げたんだ。これでアタシらが逃げ遅れてたら、さすがに笑えないじゃん?」


 悪びれた様子もなく、堂々と言ってくる。
 双子妹のレイカは、謝罪の言葉どころか何も言わずに無言であり、あまつさえ興味なさそうに両目を閉じるのみ。

 そんなふざけた双子姉妹の態度に、さらにマリエムが「ムキー!!!」と奇声を発し、暴れる妹をビトレイが必死に押さえ。

 私は、やれやれとひとつ嘆息


「あの状況だ。君らが逃げ出したことについては、とやかく言うつもりはない」
「へぇ……わかってんじゃん」
「ただ──」


 意外そうに笑むライカにゆっくりと近づいた私は。



「一発くらいは殴らせてもらうぞ」



 蒼雷を帯びた右手を叩き込んでいた。
 直後に上がるは、鈍い音。
 回避か防御か出来たはずのライカが、私の強化された拳を顔面に食らっていたのだ。

 兄弟エルフが驚きに目を見開き、ダミアンは沈黙を守り、アテナも通常運転。
 姉が殴られた光景を目の当たりにする妹のレイカも、これといった反応は示さなかった。

 バチバチと爆ぜる拳を静かに下げると、鼻血を垂らしながらも、ライカが再び白い歯を見せてくる。


「これで──貸し借りなしでいいのかね?」
「……いい性格しているな」
「よく言われるさね」


 苦笑いの私がハンカチを渡すと、それを受け取ったライカが鼻血を拭う。
 怒り心頭だったマリエムもどう反応していいのかわからないようで見守るだけであり。
 レイカはレイカで姉が暴行を受けたというのに、興味なさそうに欠伸ひとつだった。


「っう……それにしてもさ、容赦なさすぎね? これ絶対、鼻の骨折れてるんだけど?」
「こっちは命の危機だったんだ。鼻の骨が折れるくらい、許容範囲だろう?」
「……まあ、そう言われると、アタシに反論の余地はないんだけどねぇ」


 私とライカのやり取りを前に、ようやくマリエムが言葉を発した。


「……え? え……? ちょっと待って? え? クレアさん、もしかしてそれで許しちゃうの?」
「ん? そのつもりで殴ったんだが……? マリエムも一発殴りたいのか?」
「えー? マジデ? もう痛い思いすんの嫌なんだけどなー」
「いやいやいや! そうじゃなくってさ! こっちは命の危機だったんだよ? それなのに、たった一発のパンチで終わりなのってこと!」
「ああ、そのことか」


 本当に嫌そうに顔をしかめるライカを横目に私が口を開こうとすると、姉を守るためかただの気まぐれか、今まで興味なさげだったレイカが言ってくる。


「……冒険者っていうのは、そういうものなんです。命のやり取りは日常茶飯事。ひとつ言えることは、自分の命が最優先ってことです。死んだら、それまでなんですよ」
「でも……でも! 仲間を見捨てるのは、よくないと思うんだけど……!」
「……でグダグダ言うようなら、あなたに冒険者は向いてないと思います。すぐに辞めたほうがいいかと」
「……っ」
「……それに引き換え、クレアナードさんはよくわかっています。評価できます」


 言葉に詰まったマリエムをしり目に、レイカが感心の眼差しを私に向けてきた。
 姉を一発殴っただけで貸し借りなしにした私の手腕を、素直に評価してくれたようである。

 とはいえ……私は正直、戸惑っていたりする。

 単純に私は割り切っていただけであり、冒険者のイロハなど知っているわけじゃないからだ。
 言うまでもないが、私は冒険者に成りたての、まだ新人なのだから。


「クレアさぁん……」


 反論できない悔しさからか、マリエムが助けを求めるように私を見てくるも、私に助け船など出せるわけもない。
 どう答えようかと思っていると、案の定、まるで私の代弁者と言わんばかりの口調と態度で、アテナが淡々とした声で言ってきた。


「クレア様は、虐められることに喜びを見出しているのです。ですから、見捨てられたこと事態がご褒美なのです」
「え……っ」
「まじで? それはちょっと引くなー」
「…………」


 マリエムとライカが驚き、レイカの私を見る目が冷めたものに変化する。
 慣れたのかビトレイは苦笑いであり、ダミアンも口を挟むつもりはないのか苦笑い。

 私は……嘆息である。


「私は、ノーマルだからな」


 いつも通りのアテナの揶揄により、その場の空気はグダグダになってしまうのだった。



 ※ ※ ※

 ※ ※ ※



「ドラギア様。ひとつ伺ってもいいですか?」


 首都へと帰路を取る馬車内において、ドラギアの対面に座るレイがふいに問いかけてきた。
 眠そうにぼーっと窓から外の景色を眺めていた幼女は、「ん?」という感じで視線を彼女へと。


「なんじゃ?」
「クレアナード様に、何をご依頼なさったんです?」
「ああ、そのことかの」
「もったいぶらずに教えてほしいんですけど?」
「カッカッカ。さすがにクレアナードのことになると、お前さん貪欲になるのう」
「愛しい人の事は、なんでも知りたくなるのが心情です」
「犯罪だけは起こすなよ? 儂の国王特権でもみ消せるかもじゃが、度合いにもよるからの」
「心得ております。だから……今回はおとなしく身を引いて、こうして帰路についているんじゃないですか」


 未練がましい視線を外の景色に向けるレイだが、その脳裏に映っているのは、間違いなくクレアナードの姿だろう。
 男にも女にも興味を持たなかった彼女が、ここまで傾倒するとは思っていなかっただけに、さしものドラギアも内心で苦笑いしてから。


「儂が依頼したのはな、黒エルフ族国への内偵じゃよ」
「黒エルフの……?」
「今回の一件、あの黒エルフの独断とは、ちと思えぬのでな。規模が規模だけにの」


 下手をすれば、白エルフ族国に甚大な被害を及ぼしていたのだ。
 運よくとでもいうべきか、自由の身となっていたクレアナードが居たからこそ、どうにか事なきを得たとはいえ……
 あの黒エルフの独断と判断するのは、時期尚早と言えるだろう。


「ですけど……黒エルフ側からは、正式に無関係だと発表がありましたよ?」
「そんなもの、虚偽かもしれんじゃろうて。認めてしまえば損害賠償どころか、それこそ白と黒の種族戦争に発展してしまいかねん」
「なるほど……あの黒エルフが命令を受けていたのだとしたら、それはつまり、黒エルフ族による策謀。白エルフ族を滅ぼそうと画策した、ということですもんね」
「かといって、白エルフの誰かを黒エルフ領に送り込むわけにもいかんからの」
「そこで、クレアナード様に白羽の矢を立てたということですか」
「まあ、あの”毒婦”には、こちらの意図はすぐに気づかれるかもしれんが、しらばっくれている以上、あちらも表立っての行動はできまいて」
「”毒婦”……」


 その単語に、レイの表情が強張る。
 ドラギアは、小さく肩をすくめた。


「あの女ならばやりかねないが、如何せん証拠がない以上、糾弾もできん。そこでクレアナードに動いてもらって、尻尾を掴もうという魂胆なんじゃよ」
「なんだかんだで、クレアナード様は悪目立ちしますからね」
「そういうことじゃ。さすがに領内で元魔王が動いておれば、無視はできんじゃろう」
「ドラギア様も、そうでしたしね」
「あやつ自身に自覚がなくとも、良くも悪くも、あやつは一度とはいえ魔王の座におった者じゃからのう。無視しろというほうが、無理があるわい」


 話に区切りがついたところでドラギアは、道具袋から水筒を取り出し中身を一口飲んでから。


「それにしても……ダミアン、といったかの? クレアナードのお付きのあの少年は」
「ですね。ダミアン君が何か?」


 レイが小首を傾げると、ドラギアはじゅるりっと、涎を拭う仕草をしてきた。


「なかなか純朴そうじゃったのう。たまには、も良いかもしれん」
「……はあ。また悪い癖ですか。さすがにそれを行うと、クレアナード様のご不興を買いかねないかと」
「カッカッカ。儂に喰われるのが嫌ならば、あやつが先に唾をつければよいのじゃ。何もしないほうが悪いと思わんか?」
「ド・ラ・ギ・ア・様」
「わぁかっておるわ。儂とて、クレアナードとの関係を悪化させたくはないからの」


 半眼で睨んでくるレイにそう答えたものの、ドラギアは思い出す様に両目を細める。


「とはいえ……じゃったのう……」


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