私を信じてはくれなかった婚約者の事なんて忘れたい。

瑠渡

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番外編 ラウル殿下

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僕はこのミュウル国の、第2王子

小さい時から国のため、民のために研鑽するように陛下に言われている


立太子すれば、なかなか動けなくなることもあり、早くから周辺国へ留学し、他国の情勢を見ることが国の為、ひいては僕の糧になると思っている。

僕の右腕のように控えているのは、側近のロイスだ。
文官になり、あっという間に頭角を表し、僕の執務室勤務になった。
仕事もできるが全て無難にこなしてしまう。
顔は甘いマスクで王宮でも有名人だ。
文官の中でも侍女の中でも、惚れている令嬢は多い。
そんなロイスなのに、まだ婚約者がいない。
いや、いたのだ。だがロイスがやらかして、婚約者が他国へ行ってしまい婚約を解消になってしまったらしい。
あまり詳しくは教えてもらってないが、女絡みだと、宰相から少し聞いている。



実は僕もまだ婚約者が決まっていない。
もちろん貴族からの打診はあるし、学園に行けば自惚れだが目立つ顔をしているせいで、令嬢が我先にと近くに来ては、自分を推してくる。
だが惹かれる人はまだいない。
できれば、王になる僕を導いてくれる人がいい。

学園2年になり、宰相からハーサン国へ留学どうですか?と聞かれた。 行ってみたいと思っていた国だ。
何もかも整っている国のような気がするし、学園の評価も高いと言う話だ。
「是非」と返事をし、1年間の留学が決まった。
ロイスはハーサン国へも同行する。 
それは元婚約者を探しているからだ。
他国へ留学が決まると必ず「私を連れて行ってください」と言う。
学園1年目で2回他国へ短期の留学へ行ったが、見つけることはできず、婚姻していてもおかしくない年齢になっているので、焦っているようだ。
ハーサン国へ着き、学園長室でクラスの担任を紹介されたが、ロイスを見るとあきらかに様子がおかしく、動揺しているように見える。
担任となるセシリア先生も顔がひきつっている。もしかしてこの人が?
………僕は確信した。ロイス、やっとだな。


クラスへ行き、クラスメイトに紹介され席へ座る。
席の近くの令嬢達が何か悲鳴のような声を出しているがいつもの事だ。
どの国へ行っても同じ現象だし、休み時間になると僕を真ん中に何人か令嬢が来ては話しかけてくる。
僕は王子らしく、当たり障りのない返事と、微笑むことにしている。

1人の令嬢が、「はじめまして、クラス委員長のクロエ、ナーズマナと申します。殿下に勉強の進み具合の資料を作りましたので読んでおいてください。それとこれからのクラスの活動も書いてあります」と、僕の机に置いた。

凛とした佇まいと、穏やかな声色が心地良い。
「ありがとう。」と声をかけ、顔を見る。
その時、僕の心の声がした。
(あぁ、僕の)と。
普段そんなことはしないのだが、立ち上がり握手を求めた。
驚きがあったのだろう。
頬が少し紅潮し、それでもはにかみながら手を取ってくれた。
手を握った瞬間、尚更確信した。

直ぐにロイスに彼女を調べろと伝えた。
だが僕はミュウル国の王子だ。 迂闊には行動できないし、彼女がどういう人かを見極めないといけない。
なのでこの留学期間は、接触しないことにした。


1年間の留学期間が終わり、国へ帰ることになった。
クラスに溶け込んでいた僕との別れを、皆が寂しがってくれた。
僕も辛かったが国の為の留学で、私情を挟まないのが鉄則だ。
収穫は沢山あったし、何よりクロエ嬢に少なからず僕の良い印象を持たせて、留学を終えられる事ができたことが良かった。
クラスの壇から、お別れの挨拶は簡単にすませた。
1人1人の顔を見ていく。
クロエ嬢の時だけ、目で愛でた。
少し驚いた顔をしたような気がするが、ぼくが直ぐに視線を逸らしたので気のせいだと思ったかもしれない。

国へ着いて陛下に留学の成果と、自分の妃にしたい人を見つけたと話した。
陛下は驚いていたが、直ぐに家とクロエ嬢の人となりを調べると言われた。
王立学園に戻ったが、また短期の留学へ行くことになった。
ハーサン国のクラスメイトからの手紙は留学のせいで返事が書けず、随分と減ってしまっていた。
クロエ嬢からは1回だけ参考になればと、
ハーサンの歴史の本が届いた。
ありがとうの一言と、ミュウル国特産ののショールをお礼に送った。

そしてやっと学園の卒業し、本格的に僕の婚約者選定が始まった。だが僕は心に決めた人がいると重鎮に話し、彼女の資料となる物を提出し、婚約打診の了解をお願いした。
公爵家の1人の者が、自分の娘の方が他国の令嬢より相応しいと、僕に推してきたが、多分娘を推してくるだろうと推測していた僕とロイスは、その娘の人となりと学生の時の態度、成績を全て調べあげ王弟王妃なるのに相応しいかを、重鎮と娘の親に資料を見せて問うた。
学園での事は親も知らないことが多い。
高位貴族だからと、取り巻きをはべらかせ「私はラウル殿下の妃になる予定よ」等とありもしないことを触れ回り、気に入らない令嬢を苛めたり嵌めたりして退学にまでする。書いてある資料を見せれば直ぐに「王妃には相応しくないようだ。」親からは「娘は領地へ行かせて教育をし直します」と、そう言って打診を撤回した。
 
思惑どおり、満場一致でクロエで決まった。
ミュウル国から使者をやり、婚約打診の書簡をクロエへ渡した。
案の定クロエからは「少し考えさせて欲しい」との返事が来た。
だが僕は焦らない。
絶対僕と同じ気持ちだったはずだからだ。それからは手紙攻撃だ。
僕の気持ち、毎日の事、当たり障りない事を書きながら、最後に「会いたい」と書く。
手紙でのやり取りから2ヶ月過ぎた頃、クロエから「私も会いたいです」と返事が来た。
僕は2週間の休みを作り、ハーサン国へお忍びで向かった。(ハーサン国へは連絡済み)
ロイスには内緒で向かったので、後から非難されたが………

ナーズナマ公爵家にはクロエには内緒でと連絡し、公爵閣下に直接クロエを妃と向かえたい事を話した。
僕の熱意が通じたことと、クロエも多分同じ気持ちだろうと、閣下から直ぐに了解を得た。
ただクロエの母上は辛そうで、海外へ行ってしまうと涙されていた。

なにも知らないクロエが呼ばれ、応接室へ入れば僕がいるので、驚きと僕に会えた喜びのような、嬉しい顔で僕を見てくれた。
その姿でクロエの母上は、クロエの気持ちがわかったと言っていた。
自分で婚約の了解を得て戻ったので、宰相にジト目で見られた。何故だ?

ハーサン国へ行って驚愕したことがある。
あまりにもクロエへの婚約打診が多いことだ。
わかってはいたが、あれほど積み上げられた釣書を見てしまうと、焦りから既成事実を作ってしまおうかと、横へずれそうな考えが頭に浮かんだ。

国へ帰り急いで婚約の発表をし、クロエを取られないようにしたが、それでも心配なので急いで準備をし、式を急いだ。

婚姻まで怒涛の日々だったと思う。

そして、今僕の腕の中にクロエがいる。
初夜を向かえ、これから2週間ほど蜜月期間に入る。
僕の腕の中にいるクロエは頬を染め、眠そうにしているが、まだ眠らせてあげられないな。
空が白みはじめた頃、やっとクロエは眠ることができたが、僕はまだ僕を静めることのできないでいた。
朝早くに別室に朝食が来たし、そろそろクロエを起こそうか悩んでいた。
いや朝食を食べて、もう1回とお願いしようかと考えていた時、またノックする音がする。
「チッ」思わず舌打ちが出てしまったが仕方ないことだ。
「なんだ?」と言えば、思わぬ事を言い始めた。「はっ?ロイスは無事なのか?……(静めるには風呂か)……」

「風呂の準備をしてくれ!」側近に伝えた。

蜜月と言うのにクロエと執務室へ向かった。
そこにはサリジュ嬢が待っていた。

宰相から詳しく聞いていたので、サリジュを睨んでしまうのは許してもらいたい。
ロイス家へ一緒に行くように説明し僕たちも向かう。

応接室へ向かえば直にロイスと先生が入ってきた。
(ロイス、ボロボロだ。先生も顔色悪っ)

サリジュには、2人への謝罪と事の説明させた。
僕の口からは、蜜月期間なのにと、恨む言葉が出ても仕方なかろう。

クロエと帰る馬車の中で、「恥ずかしかったです」と言われたが、………僕の正直な気持ちなんだから仕方なかろう。





僕とクロエには今、5人の子供がいる。
これ以上はクロエの負担になるので、子供は諦めることになった。

子供が5人いても、いつも僕の事を気にかけてくれていた。
そんなクロエが愛おしくてたまらない。




流行り病で僕は、48歳の時にこの世を去る。

クロエはその後も、国のため、子供達のために頑張ってくれた。

そして第一王子の子供が即位した年に、クロエは寿命を全うした。



クロエの部屋の机の中から、僕らが送りあった手紙の束と僕の婚約打診の釣書があり、釣書の表にはクロエの字で「ラウルへ。私を愛してくれてありがとう。ラウルに早く会いたい」と書いてあったそうだ。




「クロエ、僕を愛してくれてありがとう」

その言葉は、僕が死ぬ時にクロエに伝えた言葉である






…………………

引き続き番外編書きますので、宜しくお願いいたします










    
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