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【2章】イベント未回収
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「…あれからもう、1年が経つのね」
墓前に花を供えながら母さんが言う。その声は穏やかで、でも、父さんはそんな母さんを支えるように肩に手を添えて そっとさすっていた。
私の背にある十字架。重すぎるそれは、家族が何を言おうとも軽くなることはない。
「…シーも、少しずつ 自分を責めないようにしてね」
「辛くなったら、すぐに父さんか母さん…もちろんエィフィルやティビーでも良い。溜め込まないできちんと言いなさい。……お前が背負う必要なんて、どこにもないんだから」
私を挟んで座る兄と姉が父の言葉に頷いて、優しい色を浮かべているであろう瞳を私に向けているのが分かる。
「………うん、ありがとう」
もう少しここにいるから 先に帰ってて。そう告げると、両親は私の頬にキスをして去っていった。兄は大きな手で私の頭を優しく撫でて、姉は痛いくらいに強く私を抱き締めて、帰って行く。
そんな家族の愛が、私を責めない家族の優しさが、逆に私には身を裂かれるほどに 痛くて辛い。
________
弟が死んで1年。
家族が帰った後、私は1人、ただぼーっと弟の墓を眺めていた。
何か。何かを忘れている気がする。
それが何かは分からない。けれど確実に何かを忘れている。
考えるのをやめて、またぼーっとし始めて、どれくらいの時間が経っただろう。
そろそろ行こうかと思った時、暖かい風が私の髪をさらっていった。
"…手だけ合わさせてもらっても良いか"
知らない男の人の声が聞こえて、私は周囲を見回した。
誰もいない。
「…はい。もちろん。」
その声は妙に私を安心させて、私はそっと、そんな返事を風に乗せた。まあ、幻聴だとは思うけれど。
再び風が柔らかく吹いて、まるでそれは私に返事をしているようで、不思議な感覚だった。
________
「そう言えば今日、これから王都に向かうらしい 王都学院の新入生…ああほら、領主様のとこの息子さんを見かけたのよね」
「16歳…もうそんなご年齢か…、今年は王太子殿下や王都の騎士団長の息子も入学されるらしいからな、なかなか豪華な面々が揃ってる」
「予言では聖女様が今年現れるみたいだし」
「それはどうだか」
私を待っててくれていた兄さんと姉さんがそんな世間話をするのを聞き流す。
私は来月には成人で もう学院に入るような年齢ではないし、貴族の社交界には縁のない世界に住んでいるから、あまり興味はないのだけど、
「聖女様…ねえ…、召喚された日には大変だよね、きっと」
ご本人も、周りも、この国も、この世界も。
「良い方に回ってくれるならどうでも」
「そうね。聖女様だもの、きっと大丈夫よ」
「だからあまりそういうの信じすぎるなと言っただろう」
「やあねえ、女のロマンよ」
そうよね、シー?と同意を求めてきた姉さんの可愛い白い頬をつついて、空を見上げる。
「…救って、くれたら良いけどね」
墓前に花を供えながら母さんが言う。その声は穏やかで、でも、父さんはそんな母さんを支えるように肩に手を添えて そっとさすっていた。
私の背にある十字架。重すぎるそれは、家族が何を言おうとも軽くなることはない。
「…シーも、少しずつ 自分を責めないようにしてね」
「辛くなったら、すぐに父さんか母さん…もちろんエィフィルやティビーでも良い。溜め込まないできちんと言いなさい。……お前が背負う必要なんて、どこにもないんだから」
私を挟んで座る兄と姉が父の言葉に頷いて、優しい色を浮かべているであろう瞳を私に向けているのが分かる。
「………うん、ありがとう」
もう少しここにいるから 先に帰ってて。そう告げると、両親は私の頬にキスをして去っていった。兄は大きな手で私の頭を優しく撫でて、姉は痛いくらいに強く私を抱き締めて、帰って行く。
そんな家族の愛が、私を責めない家族の優しさが、逆に私には身を裂かれるほどに 痛くて辛い。
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弟が死んで1年。
家族が帰った後、私は1人、ただぼーっと弟の墓を眺めていた。
何か。何かを忘れている気がする。
それが何かは分からない。けれど確実に何かを忘れている。
考えるのをやめて、またぼーっとし始めて、どれくらいの時間が経っただろう。
そろそろ行こうかと思った時、暖かい風が私の髪をさらっていった。
"…手だけ合わさせてもらっても良いか"
知らない男の人の声が聞こえて、私は周囲を見回した。
誰もいない。
「…はい。もちろん。」
その声は妙に私を安心させて、私はそっと、そんな返事を風に乗せた。まあ、幻聴だとは思うけれど。
再び風が柔らかく吹いて、まるでそれは私に返事をしているようで、不思議な感覚だった。
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「そう言えば今日、これから王都に向かうらしい 王都学院の新入生…ああほら、領主様のとこの息子さんを見かけたのよね」
「16歳…もうそんなご年齢か…、今年は王太子殿下や王都の騎士団長の息子も入学されるらしいからな、なかなか豪華な面々が揃ってる」
「予言では聖女様が今年現れるみたいだし」
「それはどうだか」
私を待っててくれていた兄さんと姉さんがそんな世間話をするのを聞き流す。
私は来月には成人で もう学院に入るような年齢ではないし、貴族の社交界には縁のない世界に住んでいるから、あまり興味はないのだけど、
「聖女様…ねえ…、召喚された日には大変だよね、きっと」
ご本人も、周りも、この国も、この世界も。
「良い方に回ってくれるならどうでも」
「そうね。聖女様だもの、きっと大丈夫よ」
「だからあまりそういうの信じすぎるなと言っただろう」
「やあねえ、女のロマンよ」
そうよね、シー?と同意を求めてきた姉さんの可愛い白い頬をつついて、空を見上げる。
「…救って、くれたら良いけどね」
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