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【3章】1人目攻略完了
3.
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「弟さん?」
そう訊ねたのは早速お店に来てくれた"グランドキャニオン"の1人、マリーさん。
「…はい。マディです。2年ほど前に、魔力欠乏症で」
「……そう」
「ドラクさんはマディが生きていた頃に約束したからってこの店に来てくださったんです。来る時は必ずああしてお花を1輪持ってきて手を合わせてくださいます」
4人がけのテーブルに付いた3人の前に水入りのグラスを置きながら告げる。3人の目線は弟の写し絵の前で手を合わせるドラクさんに向いていた。
「そういうことだったんスか」
「弟はずっと、私と一緒に店をやるんだって言っていたんです。兄のように強く、姉のように好きな人と結婚して、私と店をやるんだって…。でも、私のせいで………すみません、こんな話してしまって」
「ううん、良いのよ。辛い話をさせてしまってごめんなさい」
「一緒に店やるって夢、ちゃんと叶えられてんじゃねえか」
「え…」
マリーさんの言葉に続けて、はっきりした声でそう言ったのはドラクさんだった。
「マディは、そこに、いるだろ。ちゃんと」
そこ、と言いながら店の一角を指す彼は、私を見て優しく笑った。その表情にどうしようもなく感情が揺さぶられる感覚がして。緩みそうになる涙腺を叱るように1度ぎゅうと目を瞑った。
息を吐いて、目の前の男性を見上げる。私はいつもと同じく笑えているだろうか。
「…そうですね。叶えられていたら、嬉しいです。
…では、ご注文が決まりましたらお呼びください!」
「おう、分かった」
背を向けて、トレイを抱え 歩く。
私は、どうしようもなく彼のことが好きだ。
________
時は流れ、ドラクさんと出会ってから約3年が経った。
今日は学園の卒業式の日。
聖女様はこの世界を、この国を救ってくださった。
弟のように命を落とす子はぐっと減ることだろう。
聖女様は卒業後、半年前に婚約した王太子様の側近の方と結婚するらしい。
時が経つにつれて、私の気持ちも少しずつ癒えてきたのか、家族に寄りかかることもできつつある。
まだ…いや、これからも"私のせいだ"という気持ちはなくならないだろうけど、3年前に比べたらずっと落ち着いた。
それは家族と、それから、ドラクさんのおかげだ。
そして彼はこの国を離れ、世界中を冒険することにしたのだと言う。あの仲間たちと一緒に。
優しい彼はわざわざ別れを言いに来てくれた。
店の外。3月の温い風が頬を撫で、髪をなびかせる。
言わなきゃ後悔する。だから、
「ドラクさん、好きです」
「……有難いが、それには応えられねえよ」
「知ってます。でも、どうしても伝えたくて。困らせてしまってごめんなさい」
「…いや、俺の方こそ悪いな」
「また、機会があればお立ち寄りください。
…どうかお元気で」
「ああ。じゃあな、嬢ちゃん」
大きな背中が遠ざかって行く。憎らしいほど綺麗に晴れた空の下、私は1人、ぽつりと呟いた。
「さようなら、ドラクさん」
そう訊ねたのは早速お店に来てくれた"グランドキャニオン"の1人、マリーさん。
「…はい。マディです。2年ほど前に、魔力欠乏症で」
「……そう」
「ドラクさんはマディが生きていた頃に約束したからってこの店に来てくださったんです。来る時は必ずああしてお花を1輪持ってきて手を合わせてくださいます」
4人がけのテーブルに付いた3人の前に水入りのグラスを置きながら告げる。3人の目線は弟の写し絵の前で手を合わせるドラクさんに向いていた。
「そういうことだったんスか」
「弟はずっと、私と一緒に店をやるんだって言っていたんです。兄のように強く、姉のように好きな人と結婚して、私と店をやるんだって…。でも、私のせいで………すみません、こんな話してしまって」
「ううん、良いのよ。辛い話をさせてしまってごめんなさい」
「一緒に店やるって夢、ちゃんと叶えられてんじゃねえか」
「え…」
マリーさんの言葉に続けて、はっきりした声でそう言ったのはドラクさんだった。
「マディは、そこに、いるだろ。ちゃんと」
そこ、と言いながら店の一角を指す彼は、私を見て優しく笑った。その表情にどうしようもなく感情が揺さぶられる感覚がして。緩みそうになる涙腺を叱るように1度ぎゅうと目を瞑った。
息を吐いて、目の前の男性を見上げる。私はいつもと同じく笑えているだろうか。
「…そうですね。叶えられていたら、嬉しいです。
…では、ご注文が決まりましたらお呼びください!」
「おう、分かった」
背を向けて、トレイを抱え 歩く。
私は、どうしようもなく彼のことが好きだ。
________
時は流れ、ドラクさんと出会ってから約3年が経った。
今日は学園の卒業式の日。
聖女様はこの世界を、この国を救ってくださった。
弟のように命を落とす子はぐっと減ることだろう。
聖女様は卒業後、半年前に婚約した王太子様の側近の方と結婚するらしい。
時が経つにつれて、私の気持ちも少しずつ癒えてきたのか、家族に寄りかかることもできつつある。
まだ…いや、これからも"私のせいだ"という気持ちはなくならないだろうけど、3年前に比べたらずっと落ち着いた。
それは家族と、それから、ドラクさんのおかげだ。
そして彼はこの国を離れ、世界中を冒険することにしたのだと言う。あの仲間たちと一緒に。
優しい彼はわざわざ別れを言いに来てくれた。
店の外。3月の温い風が頬を撫で、髪をなびかせる。
言わなきゃ後悔する。だから、
「ドラクさん、好きです」
「……有難いが、それには応えられねえよ」
「知ってます。でも、どうしても伝えたくて。困らせてしまってごめんなさい」
「…いや、俺の方こそ悪いな」
「また、機会があればお立ち寄りください。
…どうかお元気で」
「ああ。じゃあな、嬢ちゃん」
大きな背中が遠ざかって行く。憎らしいほど綺麗に晴れた空の下、私は1人、ぽつりと呟いた。
「さようなら、ドラクさん」
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