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【3章】1人目攻略完了
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「あ」
「おう、トロンの嬢ちゃんじゃねえか」
それは、明日の仕込みに足りない材料を至急買いに出た時のこと。見覚えのある姿が向かい側から歩いてきて、無意識のうちに前髪を整える。
「こんにちは、ドラクさん。お仕事帰りですか?」
「まあな」
見上げて問うと、短く答えたドラクさん。すると、一緒にいた人達が私を見て我慢しきれないというように口を開いた。
「ねえねえドラクさんこの子誰すか?」
「まさか、こんな少女に手出してるんじゃ、」
「違えよ。行きつけの喫茶店の看板娘だ」
「あんた、喫茶店なんて洒落たとこ行くのね…」
「……似合わない」
「お前らな…」
テンポの良い会話といつもと違うドラクさんの姿に胸が高鳴りつつ、くすりと笑う。
「ふふ、こぢんまりした店ですが、ぜひいらしてくださいね」
「ええもちろん!今度行かせてもらうわね」
「こんなニコニコの可愛い子がいる店あったなら教えてくださいよ、ドラクさん」
「ほんとほんと」
「好き勝手言いやがって…。はあ、今度な」
「お待ちしてます」
私がそう告げた後、彼はキョロキョロと周りを見てから私を見た。
「そういや、嬢ちゃんは1人で買い物か?」
質問の意図が分からなかったが、深い意味もないだろうと納得して首を縦に振り、"明日の仕込みに足りないものがあるので日が暮れる前にと思いまして"と答えたのだが。
「…危ない」
「本当、ガイの言う通り。この時期すぐに日が落ちちゃうから女の子1人じゃ危ないわ、私達も一緒に行っても良いかしら」
「てか絶対について行くっスよ!?」
ドラクさんと一緒にいた3人が口々にそう言って私に詰め寄るものだから、私は1歩後ろへ引いてしまった。
「え、でもみなさんお仕事終わりでお疲れでは、」
「大丈夫っスよ!俺ら体力には自信あるんで!さ、行きましょ!」
さっと私の隣に並び背中を押した、人懐っこそうな男の人。距離の近さに驚いて、思わずドラクさんを見ると、彼は無言で男の人を私から引き剥がしてさっきまで男の人がいた場所_私の隣_に位置取った。
「おわっ、ちょ、ドラクさん?」
「そうだな、それが良い」
「じゃあお言葉に甘えて…。ありがとうございます」
「まあ…。ふふ、申し遅れたわ。ドラクがリーダーのパーティー、"グランドキャニオン"のマリーよ」
「同じくルークっス!」
「………ガイ」
「シーリルです…って、グランドキャニオンって、え、じゃあ、ドラクさんって、イルマー二侯爵家の…」
褐色の肌に綺麗な銀髪ロングのお姉さんの自己紹介を皮切りに、他の2人も自己紹介をしてくれたのだが、衝撃的な事実が発覚してしまった。
彼らは国内で名前を知らない人はほぼいない有名なパーティーだったから。リーダーのドラク=イルマー二様は現イルマー二侯爵家当主のお兄様で、貴族の血筋ながら冒険者としてその手腕を発揮しているというのは有名な話だ。
私も名前だけは知っていた。しかし彼らは名前は有名だけどあまり積極的に表に出てこないというのもあって、顔を知る機会がなかった。だから今まで気が付かなかったのだ。貴族の方がリーダーというだけで、パーティーメンバーの名前も曖昧だったから、ドラクさんとも結びつかなかった。
そういえば、私が休みで父さんと母さんが店にいる時にドラクさんが来たらしく、店を閉めた後に彼について聞かれたっけ。あの時は何故聞くのかと思ったしそれを訊ねたけれど、2人にはぐらかされたのだ。
両親は知っていたのかもしれない。ドラクさんのことを。
そう思うと、何だか仲間外れにされたような、子供扱いされたような、世間知らずと言われたような、いろんな気持ちが混ざる。 私の様子を見て、銀髪ロングのお姉さん…マリーさんが口を開いた。
「ねえドラク、そんな自己紹介もしてなかったの?」
「する必要ねえだろうが」
「こんな驚いちゃって可哀想っス…」
「い、い、今まで大変なご無礼を…!!!」
ドラクさんの方を見て頭を下げようとするとそれを手で制されてしまった。
「あーあーあー、気にすんな、大丈夫だから」
「でも、そんな、ただの平民が、」
「こうなるから言わなかったんだよ」
「気持ちは分からないでもないけどさーあ」
「嬢ちゃん、俺は身分とか無しであんたの店に行ってる。最初はマディとの約束を果たすためだったが、今は好きで行ってんだ。特別扱いは求めてねえし、権利を振りかざすようなことは絶対にしねえ。約束する。だからいつも通り頼む」
「そうよ、そういうのドラクが1番嫌ってるやつだもの。気にしなくて良いわ」
「…ただの冒険者ドラクとして見てやれ」
「……うう、努力…します」
「はっは、頼んだぜ」
震えながらそう答えた私に、ドラクさんは楽しそうに笑ったのだった。
「……うっわそんな顔初めて見た……ドラクさん、その子に手出すのは犯罪級っスよ」
「そんなんじゃねえよ、娘みたいなもんだ」
「…、ふふ、良くして頂いてます」
「ほら、親も心配すんだろ、さっさと行くぞ」
「はい、そうしましょう」
"娘みたいなもん"
そうだ。年の差があるという事実は私の恋心に関係はないけれど、彼にとっては関係のあることで。
「………地雷」
「可哀想に、こんな男に引っかかって…。何が良いんだか分かんないけど顔は良い方…なのかしら」
「シーリルちゃんの気持ちに気付いてないでしょあれ。罪深いっスね、ドラクさん」
自分の気持ちを隠して笑うのに精一杯だった私は、後ろを歩く彼らのそんな言葉は聞こえなかった。
「おう、トロンの嬢ちゃんじゃねえか」
それは、明日の仕込みに足りない材料を至急買いに出た時のこと。見覚えのある姿が向かい側から歩いてきて、無意識のうちに前髪を整える。
「こんにちは、ドラクさん。お仕事帰りですか?」
「まあな」
見上げて問うと、短く答えたドラクさん。すると、一緒にいた人達が私を見て我慢しきれないというように口を開いた。
「ねえねえドラクさんこの子誰すか?」
「まさか、こんな少女に手出してるんじゃ、」
「違えよ。行きつけの喫茶店の看板娘だ」
「あんた、喫茶店なんて洒落たとこ行くのね…」
「……似合わない」
「お前らな…」
テンポの良い会話といつもと違うドラクさんの姿に胸が高鳴りつつ、くすりと笑う。
「ふふ、こぢんまりした店ですが、ぜひいらしてくださいね」
「ええもちろん!今度行かせてもらうわね」
「こんなニコニコの可愛い子がいる店あったなら教えてくださいよ、ドラクさん」
「ほんとほんと」
「好き勝手言いやがって…。はあ、今度な」
「お待ちしてます」
私がそう告げた後、彼はキョロキョロと周りを見てから私を見た。
「そういや、嬢ちゃんは1人で買い物か?」
質問の意図が分からなかったが、深い意味もないだろうと納得して首を縦に振り、"明日の仕込みに足りないものがあるので日が暮れる前にと思いまして"と答えたのだが。
「…危ない」
「本当、ガイの言う通り。この時期すぐに日が落ちちゃうから女の子1人じゃ危ないわ、私達も一緒に行っても良いかしら」
「てか絶対について行くっスよ!?」
ドラクさんと一緒にいた3人が口々にそう言って私に詰め寄るものだから、私は1歩後ろへ引いてしまった。
「え、でもみなさんお仕事終わりでお疲れでは、」
「大丈夫っスよ!俺ら体力には自信あるんで!さ、行きましょ!」
さっと私の隣に並び背中を押した、人懐っこそうな男の人。距離の近さに驚いて、思わずドラクさんを見ると、彼は無言で男の人を私から引き剥がしてさっきまで男の人がいた場所_私の隣_に位置取った。
「おわっ、ちょ、ドラクさん?」
「そうだな、それが良い」
「じゃあお言葉に甘えて…。ありがとうございます」
「まあ…。ふふ、申し遅れたわ。ドラクがリーダーのパーティー、"グランドキャニオン"のマリーよ」
「同じくルークっス!」
「………ガイ」
「シーリルです…って、グランドキャニオンって、え、じゃあ、ドラクさんって、イルマー二侯爵家の…」
褐色の肌に綺麗な銀髪ロングのお姉さんの自己紹介を皮切りに、他の2人も自己紹介をしてくれたのだが、衝撃的な事実が発覚してしまった。
彼らは国内で名前を知らない人はほぼいない有名なパーティーだったから。リーダーのドラク=イルマー二様は現イルマー二侯爵家当主のお兄様で、貴族の血筋ながら冒険者としてその手腕を発揮しているというのは有名な話だ。
私も名前だけは知っていた。しかし彼らは名前は有名だけどあまり積極的に表に出てこないというのもあって、顔を知る機会がなかった。だから今まで気が付かなかったのだ。貴族の方がリーダーというだけで、パーティーメンバーの名前も曖昧だったから、ドラクさんとも結びつかなかった。
そういえば、私が休みで父さんと母さんが店にいる時にドラクさんが来たらしく、店を閉めた後に彼について聞かれたっけ。あの時は何故聞くのかと思ったしそれを訊ねたけれど、2人にはぐらかされたのだ。
両親は知っていたのかもしれない。ドラクさんのことを。
そう思うと、何だか仲間外れにされたような、子供扱いされたような、世間知らずと言われたような、いろんな気持ちが混ざる。 私の様子を見て、銀髪ロングのお姉さん…マリーさんが口を開いた。
「ねえドラク、そんな自己紹介もしてなかったの?」
「する必要ねえだろうが」
「こんな驚いちゃって可哀想っス…」
「い、い、今まで大変なご無礼を…!!!」
ドラクさんの方を見て頭を下げようとするとそれを手で制されてしまった。
「あーあーあー、気にすんな、大丈夫だから」
「でも、そんな、ただの平民が、」
「こうなるから言わなかったんだよ」
「気持ちは分からないでもないけどさーあ」
「嬢ちゃん、俺は身分とか無しであんたの店に行ってる。最初はマディとの約束を果たすためだったが、今は好きで行ってんだ。特別扱いは求めてねえし、権利を振りかざすようなことは絶対にしねえ。約束する。だからいつも通り頼む」
「そうよ、そういうのドラクが1番嫌ってるやつだもの。気にしなくて良いわ」
「…ただの冒険者ドラクとして見てやれ」
「……うう、努力…します」
「はっは、頼んだぜ」
震えながらそう答えた私に、ドラクさんは楽しそうに笑ったのだった。
「……うっわそんな顔初めて見た……ドラクさん、その子に手出すのは犯罪級っスよ」
「そんなんじゃねえよ、娘みたいなもんだ」
「…、ふふ、良くして頂いてます」
「ほら、親も心配すんだろ、さっさと行くぞ」
「はい、そうしましょう」
"娘みたいなもん"
そうだ。年の差があるという事実は私の恋心に関係はないけれど、彼にとっては関係のあることで。
「………地雷」
「可哀想に、こんな男に引っかかって…。何が良いんだか分かんないけど顔は良い方…なのかしら」
「シーリルちゃんの気持ちに気付いてないでしょあれ。罪深いっスね、ドラクさん」
自分の気持ちを隠して笑うのに精一杯だった私は、後ろを歩く彼らのそんな言葉は聞こえなかった。
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