【完結】いずれ忘れる恋をした

文字の大きさ
10 / 24
【3章】1人目攻略完了

1.

しおりを挟む
「…あれからもう、1年が経つのね」 

墓前に花を供えながら母さんが言う。その声は穏やかで、でも、父さんはそんな母さんを支えるように肩に手を添えて そっとさすっていた。


私の背にある十字架。重すぎるそれは、家族が何を言おうとも軽くなることはない。 

「…シーも、少しずつ 自分を責めないようにしてね」
「辛くなったら、すぐに父さんか母さん…もちろんエィフィルやティビーでも良い。溜め込まないできちんと言いなさい。……お前が背負う必要なんて、どこにもないんだから」 

私を挟んで座る兄と姉が父の言葉に頷いて、優しい色を浮かべているであろう瞳を私に向けているのが分かる。 

「………うん、ありがとう」


もう少しここにいるから 先に帰ってて。そう告げると、両親は私の頬にキスをして去っていった。兄は大きな手で私の頭を優しく撫でて、姉は痛いくらいに強く私を抱き締めて、帰って行く。 

そんな家族の愛が、私を責めない家族の優しさが、逆に私には身を裂かれるほどに 痛くて辛い。 

________



「いらっしゃいませ、ドラクさん」
「おう、いつもの頼む」
「はい!かしこまりました」


店の扉を潜って来たのは今や常連のドラクさん。冒険者として生計を立てている男性だ。 

今はこの街周辺で仕事をしているそうで、とある縁があってうちに訪ねてきて以降、時折立ち寄ってくれるのだ。 

「母さん、アイスコーヒーとナポリタン大盛りお願いしまーす」
「はーい」 

厨房へ注文を伝える間に、ドラクさんは弟の絵の前に1輪の花を生けていた。来る度に毎回手を合わせてくれる彼は、見た目によらず かなり律儀な人だと思う。 

________


「お待たせしました、いつものです」
「ありがとな」 

皿とグラスを置くと、礼を言ったドラクさんが私を見た。身体の大きな彼は、座っても私を少しだけ見上げるくらいの差しかない。つまり、他のお客さんより目線が近いのだ。 

「何です?」 

じっと見つめられて心臓が跳ねる。トレイを胸に抱えてそう問うと、 

「いや、やっぱりあんたの笑顔良いなと思ってな」 

なんてさらりと言われるものだから、更に心臓が大きく鳴った。
ただでさえ好みの見た目の男性なのだ。確かに年の差はあるけれど、その事実と私の恋心は全く関係のないもので。 

「知ってるか?嬢ちゃんが笑うから、ここには人が集まるんだって」
「お店に貢献できているのなら嬉しい限りです」 

しかしこの気持ちを伝えたところで彼がそれを受け入れてくれるわけもないし、伝える気もない。 

「さ、冷める前に食べちゃってください」
「おう。いただきます」
「ごゆっくりどうぞ!」 

背を向けて厨房の方へ戻ると、ニコニコした母さんと心なしかムスッとした顔の父さんが迎えてくれた。今は昼のピークを超えたところで、店にはぽつぽつとお客さんがいる程度。 

「うふふふ」
「うう…認めないからな…ぶつぶつ…」
「もう、そんなんじゃないってば」
「あら、残念。あのお客さんが来てからずっとあんなに可愛い顔してたのにー?」
「気のせいだよ。だって私は結婚するつもりないもの」
「…シーリル…」
「大丈夫、私の後に継ぐ子はちゃんと見つけて育てるから!あと父さん、ドラクさんのこと悪く言わないで。毎回ディーにお花持ってきてくれる良い人だよ」
「…すまん」

複雑そうな顔をした両親を安心させるように微笑んで、力こぶをつくる動きをする。 

「じゃあ私もお昼食べてくるね」
「上に父さんの試作品もあるからそれ食べて良いわよ」
「やった!父さん、後で感想伝えるね」
「シーは厳しいからな…、お手柔らかにな」 

2階に上がる前に振り返ると、何故かこちらを見ていたドラクさんと目が合う。私はドキッとした気持ちを隠して会釈をしてから歩を進めたのだった。母さんに変なことを言われた後だったから余計にドキッとしたけど、ちゃんと自然に笑えていたかな。さっきの会話、聞こえてないと良いけど。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

捨てられた者同士でくっ付いたら最高のパートナーになりました。捨てた奴らは今更よりを戻そうなんて言ってきますが絶対にごめんです。

亜綺羅もも
恋愛
アニエル・コールドマン様にはニコライド・ドルトムルという婚約者がいた。 だがある日のこと、ニコライドはレイチェル・ヴァーマイズという女性を連れて、アニエルに婚約破棄を言いわたす。 婚約破棄をされたアニエル。 だが婚約破棄をされたのはアニエルだけではなかった。 ニコライドが連れて来たレイチェルもまた、婚約破棄をしていたのだ。 その相手とはレオニードヴァイオルード。 好青年で素敵な男性だ。 婚約破棄された同士のアニエルとレオニードは仲を深めていき、そしてお互いが最高のパートナーだということに気づいていく。 一方、ニコライドとレイチェルはお互いに気が強く、衝突ばかりする毎日。 元の婚約者の方が自分たちに合っていると思い、よりを戻そうと考えるが……

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

あなたがそのつもりなら

素亭子
恋愛
リリアーナはランス侯爵からの求婚をうけて結婚したが、わずか一年で夫は愛人を持った。リリアーナの仕返しの話です

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

契約結婚のススメ

文月 蓮
恋愛
 研究一筋に生きてきた魔導士のレティシアは、研究を続けるために父に命じられた結婚をしかたなく承諾する。相手は社交界の独身女性憧れの的であるヴィラール侯爵アロイス。だが、アロイスもまた結婚を望んでいなかったことを知り、契約結婚を提案する。互いの思惑が一致して始まった愛のない結婚だったが、王の婚約者の護衛任務を受けることになったレティシアとアロイスの距離は徐々に縮まってきて……。シリアスと見せかけて、コメディです。「ムーンライトノベルズ」にも投稿しています。

貴方の側にずっと

麻実
恋愛
夫の不倫をきっかけに、妻は自分の気持ちと向き合うことになる。 本当に好きな人に逢えた時・・・

婚約破棄したら食べられました(物理)

かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。 婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。 そんな日々が日常と化していたある日 リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる グロは無し

処理中です...