9 / 24
【2章】イベント未回収
4.
しおりを挟む
太陽がジリジリと肌を焦がす。少し苦手な季節。
カランコロン。ベアのベルが鳴る。
「いらっしゃいませ!…あら、あの時の」
「よう嬢ちゃん。傘、返しに来たぜ」
また来るって約束したしな、と、あの日貸した傘を持つ手とは逆の手の小指を見せて 二カリと笑ったのは、およそ1ヶ月半前の雨の日、弟の約束を果たしに来た男性だった。
「ご来店ありがとうございます」
近くに寄って、席に案内しようとした時、彼は"その前に"と言って私に傘を渡し、後ろのポケットからスっと何かを抜き出した。
「マディに」
「わ…、可愛いひまわり……」
彼の大きな手に握られていた一輪の花のラッピング。それは小さなサイズのひまわりだった。
________
前にしてくれたように写し絵の前で手を合わせた彼は、横に置かれた花瓶にそっとそれを差す。
「ありがとうございます」
「これはだれが描いたんだ?」
「私です」
「…マディは、あんたのことが大好きだったんだな」
そう言って私に振り返って頭の上に手を置く彼。
胸がぎゅうと締め付けられるのを感じる。ディーは家族みんなのことが大好きだといつも言っていたけれど、いっとう私に懐いていたから。
"シーねえちゃん!大好きだよ!!"
「…そう、ですね」
弟の残像が私の脳裏を過ぎる。思わず俯いた私の頭を、置かれたままだった大きな手が少し雑に撫でた。
兄さんといい、この人といい、私の頭の位置はそんなに丁度良いところにあるのだろうか。
そんなことを思っている間に手を退けてくれたら良かったのだけど。
なでなでなでなで。
「……。あのー…」
「ん?」
「ん?ではなくてですね、何故ずっと私の頭を撫でているんですか…」
「可愛いからだな」
「は………」
店内がザワつく。今お店にいるのは、私が生まれる前からこの店を贔屓にしてくれている常連さんがちらほら…
「あらあら、シーリルちゃんにも遂に春が来たのねえ」
「儂もこれでいつでも逝けるのぉ…」
なんて言うのが聞こえる。
私と店の未来を案じてくれている優しいおばあちゃん達に、違います!!!と、怒鳴れるわけもなく。
聞こえていないのか気付いていない振りをしているのか_彼のニヤニヤした笑い方を見るに恐らく後者だが_そんなのはどうでも良い。私は撫で続ける手を掴んで頭から剥がし、営業スマイルを浮かべた。
「はは、冗談がお上手で。席へご案内しますね、おじさま」
この人はだめだ。危険分子だ。きっと私が嫌がっていないのを分かっているのだろう。からかっているんだ。この年齢層の男性特有の距離の詰め方、"嬢ちゃん可愛いね"、みたいな。典型的なそれだ。少しでもかっこいいと思った私が馬鹿で…はない、実際かっこいいのだけど。だから余計にタチが悪いのだ。
そう思いつつ頬は変わらず熱を持ってしまうのだから嫌になる。恋はしない。そう、恋はしない。
嫌味を込めたおじさま呼びに 彼が横を向きながら口元を押さえて身体を震わせて、明らかに"笑いを堪えています"という反応を見せる。
何よ!!そして何でそんな様子が可愛く見え…、っ可愛くない!!
________
「そう言えば、予言通り聖女様が召喚されたみたいですね」
「あー…、ああ、そうみたいだな」
お冷を置きながら世間を賑わせている話題を出すと、彼は少し歯切れの悪い返事をした。何故かは分かるわけもない。しかし、詮索はしない。するべきでない。
"聖女様が召喚された"
その報せが国中に回ったのは彼と出会った2日後のことだった。
「おじさまは聖女様をご覧になったことあります?」
「…っふ、ドラク」
「はい?」
「俺の名前だ。そういや教えてなかったな」
「ドラク様、ですね」
「様はいらねえ」
「…じゃあ、ドラクおじさん、で」
「……なあ」
「なんです?」
「っぷ…、いや何でもねえよ、嬢ちゃん」
「…シーリルです」
「はっは!おう、知ってる」
さっき聞こえたしな、悪戯っ子の如く笑った彼は水を飲み、"前と同じの頼む"と言った。
ほーらやっぱり気付いてない振りしてた!!!と、彼の鼻を思いっ切りつまんでやりたいと思った私は悪くない。
カランコロン。ベアのベルが鳴る。
「いらっしゃいませ!…あら、あの時の」
「よう嬢ちゃん。傘、返しに来たぜ」
また来るって約束したしな、と、あの日貸した傘を持つ手とは逆の手の小指を見せて 二カリと笑ったのは、およそ1ヶ月半前の雨の日、弟の約束を果たしに来た男性だった。
「ご来店ありがとうございます」
近くに寄って、席に案内しようとした時、彼は"その前に"と言って私に傘を渡し、後ろのポケットからスっと何かを抜き出した。
「マディに」
「わ…、可愛いひまわり……」
彼の大きな手に握られていた一輪の花のラッピング。それは小さなサイズのひまわりだった。
________
前にしてくれたように写し絵の前で手を合わせた彼は、横に置かれた花瓶にそっとそれを差す。
「ありがとうございます」
「これはだれが描いたんだ?」
「私です」
「…マディは、あんたのことが大好きだったんだな」
そう言って私に振り返って頭の上に手を置く彼。
胸がぎゅうと締め付けられるのを感じる。ディーは家族みんなのことが大好きだといつも言っていたけれど、いっとう私に懐いていたから。
"シーねえちゃん!大好きだよ!!"
「…そう、ですね」
弟の残像が私の脳裏を過ぎる。思わず俯いた私の頭を、置かれたままだった大きな手が少し雑に撫でた。
兄さんといい、この人といい、私の頭の位置はそんなに丁度良いところにあるのだろうか。
そんなことを思っている間に手を退けてくれたら良かったのだけど。
なでなでなでなで。
「……。あのー…」
「ん?」
「ん?ではなくてですね、何故ずっと私の頭を撫でているんですか…」
「可愛いからだな」
「は………」
店内がザワつく。今お店にいるのは、私が生まれる前からこの店を贔屓にしてくれている常連さんがちらほら…
「あらあら、シーリルちゃんにも遂に春が来たのねえ」
「儂もこれでいつでも逝けるのぉ…」
なんて言うのが聞こえる。
私と店の未来を案じてくれている優しいおばあちゃん達に、違います!!!と、怒鳴れるわけもなく。
聞こえていないのか気付いていない振りをしているのか_彼のニヤニヤした笑い方を見るに恐らく後者だが_そんなのはどうでも良い。私は撫で続ける手を掴んで頭から剥がし、営業スマイルを浮かべた。
「はは、冗談がお上手で。席へご案内しますね、おじさま」
この人はだめだ。危険分子だ。きっと私が嫌がっていないのを分かっているのだろう。からかっているんだ。この年齢層の男性特有の距離の詰め方、"嬢ちゃん可愛いね"、みたいな。典型的なそれだ。少しでもかっこいいと思った私が馬鹿で…はない、実際かっこいいのだけど。だから余計にタチが悪いのだ。
そう思いつつ頬は変わらず熱を持ってしまうのだから嫌になる。恋はしない。そう、恋はしない。
嫌味を込めたおじさま呼びに 彼が横を向きながら口元を押さえて身体を震わせて、明らかに"笑いを堪えています"という反応を見せる。
何よ!!そして何でそんな様子が可愛く見え…、っ可愛くない!!
________
「そう言えば、予言通り聖女様が召喚されたみたいですね」
「あー…、ああ、そうみたいだな」
お冷を置きながら世間を賑わせている話題を出すと、彼は少し歯切れの悪い返事をした。何故かは分かるわけもない。しかし、詮索はしない。するべきでない。
"聖女様が召喚された"
その報せが国中に回ったのは彼と出会った2日後のことだった。
「おじさまは聖女様をご覧になったことあります?」
「…っふ、ドラク」
「はい?」
「俺の名前だ。そういや教えてなかったな」
「ドラク様、ですね」
「様はいらねえ」
「…じゃあ、ドラクおじさん、で」
「……なあ」
「なんです?」
「っぷ…、いや何でもねえよ、嬢ちゃん」
「…シーリルです」
「はっは!おう、知ってる」
さっき聞こえたしな、悪戯っ子の如く笑った彼は水を飲み、"前と同じの頼む"と言った。
ほーらやっぱり気付いてない振りしてた!!!と、彼の鼻を思いっ切りつまんでやりたいと思った私は悪くない。
0
あなたにおすすめの小説
行き遅れ王女、重すぎる軍団長に肉で釣られる
春月もも
恋愛
25歳、独身、第四王女システィーナ。
夜会でも放置されがちな行き遅れ王女の前に、ある夜突然現れたのは、ローストビーフを差し出す重すぎる第三軍団長だった。
形のない愛は信じない。
でも、出来立ての肉は信じてしまう。
肉に釣られ、距離を詰められ、気づけば下賜され、そして初夜へ。
これは、行き遅れ王女が重たい愛で満たされるまでの、ちょっとおかしなお話。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
雪の日に
藤谷 郁
恋愛
私には許嫁がいる。
親同士の約束で、生まれる前から決まっていた結婚相手。
大学卒業を控えた冬。
私は彼に会うため、雪の金沢へと旅立つ――
※作品の初出は2014年(平成26年)。鉄道・駅などの描写は当時のものです。
【旦那様は魔王様 外伝】魔界でいちばん大嫌い~絶対に好きになんて、ならないんだから!~
狭山ひびき
恋愛
「あんたなんか、大嫌いよ!」ミリアムは大きく息を吸い込んで、宣言した。はじめてアスヴィルと出会ったとき、彼は意地悪だった。二度と会いたくないと思うほど嫌っていたのに、ある日を境に、アスヴィルのミリアムに対する態度が激変する。突然アスヴィルは、ミリアムを愛していると言い出したのだ。しかしミリアムは昔のまま、彼のことが大嫌い。そんなミリアムを振り向かせようと、手紙やお菓子、果ては大声で愛を叫んで、気持ちを伝えようとするアスヴィル。果たして、アスヴィルの気持ちはミリアムに届くのか――
※本作品は、【旦那様は魔王様!】の外伝ですが、本編からは独立したお話です。
閉じ込められた未亡人は、当主となった義息と契約する。
黒蜜きな粉
恋愛
借金の肩代わりとして後妻に入った私は、
妻と呼ばれながら屋敷の離れで「いないもの」として暮らしていた。
ある雪の日、夫が事故死したと告げられる。
だが、葬儀に出ることすら許されず、私は部屋に閉じ込められた。
新たに当主となった継子は言う。
外へ出れば君は利用され奪われる、と。
それが保護であり、同時に支配なのだと理解したとき、
私はその庇護を条件付きの契約に変えることを選ぶ。
短いお話です。
※第19回恋愛小説大賞にエントリーしております。
女王は若き美貌の夫に離婚を申し出る
小西あまね
恋愛
「喜べ!やっと離婚できそうだぞ!」「……は?」
政略結婚して9年目、32歳の女王陛下は22歳の王配陛下に笑顔で告げた。
9年前の約束を叶えるために……。
豪胆果断だがどこか天然な女王と、彼女を敬愛してやまない美貌の若き王配のすれ違い離婚騒動。
「月と雪と温泉と ~幼馴染みの天然王子と最強魔術師~」の王子の姉の話ですが、独立した話で、作風も違います。
本作は小説家になろうにも投稿しています。
愛する人は、貴方だけ
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
下町で暮らすケイトは母と二人暮らし。ところが母は病に倒れ、ついに亡くなってしまう。亡くなる直前に母はケイトの父親がアークライト公爵だと告白した。
天涯孤独になったケイトの元にアークライト公爵家から使者がやって来て、ケイトは公爵家に引き取られた。
公爵家には三歳年上のブライアンがいた。跡継ぎがいないため遠縁から引き取られたというブライアン。彼はケイトに冷たい態度を取る。
平民上がりゆえに令嬢たちからは無視されているがケイトは気にしない。最初は冷たかったブライアン、第二王子アーサー、公爵令嬢ミレーヌ、幼馴染カイルとの交友を深めていく。
やがて戦争の足音が聞こえ、若者の青春を奪っていく。ケイトも無関係ではいられなかった……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる