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【2章】イベント未回収
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太陽がジリジリと肌を焦がす。少し苦手な季節。
カランコロン。ベアのベルが鳴る。
「いらっしゃいませ!…あら、あの時の」
「よう嬢ちゃん。傘、返しに来たぜ」
また来るって約束したしな、と、あの日貸した傘を持つ手とは逆の手の小指を見せて 二カリと笑ったのは、およそ1ヶ月半前の雨の日、弟の約束を果たしに来た男性だった。
「ご来店ありがとうございます」
近くに寄って、席に案内しようとした時、彼は"その前に"と言って私に傘を渡し、後ろのポケットからスっと何かを抜き出した。
「マディに」
「わ…、可愛いひまわり……」
彼の大きな手に握られていた一輪の花のラッピング。それは小さなサイズのひまわりだった。
________
前にしてくれたように写し絵の前で手を合わせた彼は、横に置かれた花瓶にそっとそれを差す。
「ありがとうございます」
「これはだれが描いたんだ?」
「私です」
「…マディは、あんたのことが大好きだったんだな」
そう言って私に振り返って頭の上に手を置く彼。
胸がぎゅうと締め付けられるのを感じる。ディーは家族みんなのことが大好きだといつも言っていたけれど、いっとう私に懐いていたから。
"シーねえちゃん!大好きだよ!!"
「…そう、ですね」
弟の残像が私の脳裏を過ぎる。思わず俯いた私の頭を、置かれたままだった大きな手が少し雑に撫でた。
兄さんといい、この人といい、私の頭の位置はそんなに丁度良いところにあるのだろうか。
そんなことを思っている間に手を退けてくれたら良かったのだけど。
なでなでなでなで。
「……。あのー…」
「ん?」
「ん?ではなくてですね、何故ずっと私の頭を撫でているんですか…」
「可愛いからだな」
「は………」
店内がザワつく。今お店にいるのは、私が生まれる前からこの店を贔屓にしてくれている常連さんがちらほら…
「あらあら、シーリルちゃんにも遂に春が来たのねえ」
「儂もこれでいつでも逝けるのぉ…」
なんて言うのが聞こえる。
私と店の未来を案じてくれている優しいおばあちゃん達に、違います!!!と、怒鳴れるわけもなく。
聞こえていないのか気付いていない振りをしているのか_彼のニヤニヤした笑い方を見るに恐らく後者だが_そんなのはどうでも良い。私は撫で続ける手を掴んで頭から剥がし、営業スマイルを浮かべた。
「はは、冗談がお上手で。席へご案内しますね、おじさま」
この人はだめだ。危険分子だ。きっと私が嫌がっていないのを分かっているのだろう。からかっているんだ。この年齢層の男性特有の距離の詰め方、"嬢ちゃん可愛いね"、みたいな。典型的なそれだ。少しでもかっこいいと思った私が馬鹿で…はない、実際かっこいいのだけど。だから余計にタチが悪いのだ。
そう思いつつ頬は変わらず熱を持ってしまうのだから嫌になる。恋はしない。そう、恋はしない。
嫌味を込めたおじさま呼びに 彼が横を向きながら口元を押さえて身体を震わせて、明らかに"笑いを堪えています"という反応を見せる。
何よ!!そして何でそんな様子が可愛く見え…、っ可愛くない!!
________
「そう言えば、予言通り聖女様が召喚されたみたいですね」
「あー…、ああ、そうみたいだな」
お冷を置きながら世間を賑わせている話題を出すと、彼は少し歯切れの悪い返事をした。何故かは分かるわけもない。しかし、詮索はしない。するべきでない。
"聖女様が召喚された"
その報せが国中に回ったのは彼と出会った2日後のことだった。
「おじさまは聖女様をご覧になったことあります?」
「…っふ、ドラク」
「はい?」
「俺の名前だ。そういや教えてなかったな」
「ドラク様、ですね」
「様はいらねえ」
「…じゃあ、ドラクおじさん、で」
「……なあ」
「なんです?」
「っぷ…、いや何でもねえよ、嬢ちゃん」
「…シーリルです」
「はっは!おう、知ってる」
さっき聞こえたしな、悪戯っ子の如く笑った彼は水を飲み、"前と同じの頼む"と言った。
ほーらやっぱり気付いてない振りしてた!!!と、彼の鼻を思いっ切りつまんでやりたいと思った私は悪くない。
カランコロン。ベアのベルが鳴る。
「いらっしゃいませ!…あら、あの時の」
「よう嬢ちゃん。傘、返しに来たぜ」
また来るって約束したしな、と、あの日貸した傘を持つ手とは逆の手の小指を見せて 二カリと笑ったのは、およそ1ヶ月半前の雨の日、弟の約束を果たしに来た男性だった。
「ご来店ありがとうございます」
近くに寄って、席に案内しようとした時、彼は"その前に"と言って私に傘を渡し、後ろのポケットからスっと何かを抜き出した。
「マディに」
「わ…、可愛いひまわり……」
彼の大きな手に握られていた一輪の花のラッピング。それは小さなサイズのひまわりだった。
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前にしてくれたように写し絵の前で手を合わせた彼は、横に置かれた花瓶にそっとそれを差す。
「ありがとうございます」
「これはだれが描いたんだ?」
「私です」
「…マディは、あんたのことが大好きだったんだな」
そう言って私に振り返って頭の上に手を置く彼。
胸がぎゅうと締め付けられるのを感じる。ディーは家族みんなのことが大好きだといつも言っていたけれど、いっとう私に懐いていたから。
"シーねえちゃん!大好きだよ!!"
「…そう、ですね」
弟の残像が私の脳裏を過ぎる。思わず俯いた私の頭を、置かれたままだった大きな手が少し雑に撫でた。
兄さんといい、この人といい、私の頭の位置はそんなに丁度良いところにあるのだろうか。
そんなことを思っている間に手を退けてくれたら良かったのだけど。
なでなでなでなで。
「……。あのー…」
「ん?」
「ん?ではなくてですね、何故ずっと私の頭を撫でているんですか…」
「可愛いからだな」
「は………」
店内がザワつく。今お店にいるのは、私が生まれる前からこの店を贔屓にしてくれている常連さんがちらほら…
「あらあら、シーリルちゃんにも遂に春が来たのねえ」
「儂もこれでいつでも逝けるのぉ…」
なんて言うのが聞こえる。
私と店の未来を案じてくれている優しいおばあちゃん達に、違います!!!と、怒鳴れるわけもなく。
聞こえていないのか気付いていない振りをしているのか_彼のニヤニヤした笑い方を見るに恐らく後者だが_そんなのはどうでも良い。私は撫で続ける手を掴んで頭から剥がし、営業スマイルを浮かべた。
「はは、冗談がお上手で。席へご案内しますね、おじさま」
この人はだめだ。危険分子だ。きっと私が嫌がっていないのを分かっているのだろう。からかっているんだ。この年齢層の男性特有の距離の詰め方、"嬢ちゃん可愛いね"、みたいな。典型的なそれだ。少しでもかっこいいと思った私が馬鹿で…はない、実際かっこいいのだけど。だから余計にタチが悪いのだ。
そう思いつつ頬は変わらず熱を持ってしまうのだから嫌になる。恋はしない。そう、恋はしない。
嫌味を込めたおじさま呼びに 彼が横を向きながら口元を押さえて身体を震わせて、明らかに"笑いを堪えています"という反応を見せる。
何よ!!そして何でそんな様子が可愛く見え…、っ可愛くない!!
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「そう言えば、予言通り聖女様が召喚されたみたいですね」
「あー…、ああ、そうみたいだな」
お冷を置きながら世間を賑わせている話題を出すと、彼は少し歯切れの悪い返事をした。何故かは分かるわけもない。しかし、詮索はしない。するべきでない。
"聖女様が召喚された"
その報せが国中に回ったのは彼と出会った2日後のことだった。
「おじさまは聖女様をご覧になったことあります?」
「…っふ、ドラク」
「はい?」
「俺の名前だ。そういや教えてなかったな」
「ドラク様、ですね」
「様はいらねえ」
「…じゃあ、ドラクおじさん、で」
「……なあ」
「なんです?」
「っぷ…、いや何でもねえよ、嬢ちゃん」
「…シーリルです」
「はっは!おう、知ってる」
さっき聞こえたしな、悪戯っ子の如く笑った彼は水を飲み、"前と同じの頼む"と言った。
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