【完結】いずれ忘れる恋をした

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【4章】隠しキャラ攻略

2.

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「はあ、雨強くなってきやがった…。なあ嬢ちゃん、トロン、ってこの店で合ってるか?」 

夢は夢じゃなかった。 

目の前の男性を見上げてそう思う。 

「……嬢ちゃん?おい、どうした?怖がらせたなら謝る、だから泣くなほら」 

好きだ、どうしようもなくこの男性ひとが好きだ。 

あれは間違いなく私の記憶。詳しくは分からないけど、分からなくたって良い。 

「はい、そうです。…いらっしゃいませ、ドラクさん」
「…嬢ちゃん、俺の事知ってんのか」
「あっ…馴れ馴れしく呼んですみません…。以前、お見かけしたことがあるんです」
「そういうことか、気にすんな。これからもそう呼んでくれ」
「はい、ありがとうございます!
…それで、うちにどんなご用ですか?」
「ああ、実はここの息子のマディと約束を__」 

こうしてまた会えたことが何よりも嬉しい。
ただ、それだけ。それだけで幸せだった。 


________







ああ、世界はなんて残酷なのだろう。



「!おう!トロンの嬢ちゃん、奇遇だな!」



王都へ買い出しに行った日のことだった。市場の近くの広場で仲睦まじく腕を組んで歩く2人の男女。男性はこちらに気が付くと手を上げた。


行きたくない。挨拶をしたくない。
そんな思いは捨てて、私は駆け寄る。


「ドラクさ……イルマーニ様、本当ですね!お久しぶりです、元気にされてました?」
「…、ああ、もちろん!」 

呟きかけた名前を言い直して、笑顔で返す。
それに気が付いた彼が複雑そうな顔をしたけれど、私の表情に何かを感じたのか、それについて言及することはなかった。 

「ふふ、お元気そうで良かったです。
…お隣の女性は、聖女様で間違いございませんか?」
「ええ。聖女と呼ばれるのは未だに不釣り合いな気がするけれど」 

綺麗な女性だ。とても、綺麗な。 

「……でも、何で分かったんだ?」
「お二人が婚約されたと伺いましたから。イルマーニ様と腕を組んで歩かれているということは、聖女様かと」 

この度はおめでとうございます、そんな私の言葉に照れた様子で頬を掻く彼と頬を染める彼女が目を合わせて微笑み合う。


大丈夫、心を殺すのは慣れてしまったから。
あと少し頑張ってね、私の表情筋。 

「…庶民のみすぼらしい格好でご挨拶申し上げること、どうかお許しください。
初めまして。隣町の"トロン"という喫茶店で働いております、シーリルと申します。イルマーニ様は3年ほど前から何度かうちに足を運んでくださっています。」
「ご丁寧にありがとうございます。でも、そんな堅苦しい挨拶、なさらなくて良いんですよ」 

慌てたように両手を小さく振って"顔を上げて"と言う聖女様。



この女性に、私なんかが適うわけないじゃないか。



この方は容姿だけじゃない。才能も、実績もある、本当に素晴らしい聖女様なのだ。 

あの"魔力欠乏症"を予防する方法、更には治す薬まで開発されて、庶民にも手の届く値段で売るように手配してくださったのだから。この若さで。それだけで上級爵位を与えられておかしくない功績なのだが、彼女のしたことはそれだけではない。 

3年前、予言通りに召喚され、国を救ったお方。 

本当にこの女性は素晴らしい方なのだ。
そして、それに釣り合うものをドラクさんは持っていて。


記憶とは少しずつずれていく現実。
ドラクさんがうちに来る回数は少なくなっていった。 

もちろんドラクさんは私のように不思議な記憶があるわけでもなく。

そして、私の耳に届いた、聖女様とドラク=イルマー二様が婚約したという話。


「…いえ、聖女様がなさった偉業の数々は間違いなくこの世界を救ってくださいましたから、そういう訳にも参りません。…私はただの平民で、無力で…何かしたくても、救いたくても……見ていることしか、できませんでしたから。……本当に、ありがとうございます」
「嬢ちゃん…」
「…あなた もしかして……」 

「っ、改めて、イルマーニ様と聖女様が結婚されたこと、心からお祝い申し上げます。ゲルにいらっしゃった際は、是非うちの店にもお越しくださいませ。
……では、仕事がありますので…。
御前失礼致しました。お二人の未来に幸あれ」 

「…ありがとな」
「ありがとうございます。必ず伺いますね」


表情筋に鞭を打ち、にこりと笑った。 

深くお辞儀をして、逃げるように細い道へ曲がる。
ずる、と壁に預けた背中が下へ落ちて、私は膝を抱えて座り込んだ。 

ドラクさん、すごく幸せそうだった。
あんな表情は私は1度も見たことがなかった。 記憶の中の私も。

聖女様も、お綺麗で、品に溢れていて、彼女の芯の強さがそのまま美しさとして表れているのが分かったし、ドラクさんのことを愛しているんだと、瞳が、表情が、明確に伝えていた。
巷では美女と野獣なんて言われているけれど、私からしたらお似合いの2人で。


「……馬鹿みたい」


膝を濡らすのが涙から雨に変わっても、私はその場を動くことができなかった。
それは彼が店に飛び込んで来た_彼に出会った2年半前のあの日のような激しい雨で。 

「………本当に、馬鹿」 

小さな呟きは、雨の音にかき消された。




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