【完結】いずれ忘れる恋をした

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【最終章】彼に決めた

4.

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もうすぐ、マディの四周忌。 

ここ数年…弟の1回目の命日あたりから、私は気が付くと誰かの姿を探している。 

店のとある窓際の席、
弟の写し絵の前、
街の中、
店の前の道。 

それが誰かは分からないけれど、私にとって大切な人を探していることは確信していた。 

「3日後は王都で王太子様と聖女様の結婚パレードよ!シーも見に行くでしょ?」
「うん」 

旦那さんと子供たちと共に実家である店を訪ねて来た姉さんは目をキラキラさせてそう言った。 

魔力欠乏症の予防法と薬を開発し、この国に広めた聖女様。
半年前、彼女と王太子様の婚約が発表された。そして、それと同時に卒業式の2日後に結婚式及びパレードをするという発表もされたのだ。明日がその学園の卒業式だから、今日から3日後、そのパレードが行われることになる。 

婚約の報せに国民は皆喜んだ。
聡明で国民に支持される王太子と、言葉通りこの国を救った聖女の結婚。祝福されないわけがなかった。しかも噂によると、想い合って結婚すると言うではないか。 

「まるで恋愛物語みたいで憧れちゃうわ…!」 

子供を2人産んでもなお若々しく、心が乙女な姉は手を組んでうっとりとした表情をする。 

「そういえば、兄さんは街に残るんだっけ?」
「ああ。王都に近い街はかなり人が増えると予想されるからな。今こそ警備隊の活躍時だ」 

にっと笑った兄さんは私の頭をわしわしと撫でる。きっと何年経ってもこれをやめることはないんだろうな。 

「気を付けてね」
「おう、ありがとうな」 

ふと、兄さんよりも大きな手に撫でられたことがある気がして、むず痒い気持ちになる。不思議な感覚に首を傾げながら、きっと小さい頃に父さんに撫でられた記憶だろうと納得したのだった。 

「…まさか、エィがこんなに可愛い人と結婚するなんてなー。仕事馬鹿のくせに」 

姉がニヤニヤしながらそう言う。
兄さんの隣には小柄な女性が並んで立っている。私の18の誕生日に"良い人を見つけた"と言っていたその人と、つい最近結婚したのだ。 

「何だと?」
「もう、姉さん!そんなこと言わないの」
「ごめんごめん。ねえ、シーは良い人いないのー?」 

悪びれもなさそうな様子でそう告げた後、姉は私に問う。 

「うーん…いないなあ、残念ながら。…ごめんね」
「シー、謝る必要なんてこれっぽっちもないのよ。責めてるんじゃないの。ごめんね」

姉さんが私を心配してそう言ったのは分かっている。
謝る姉さんに"うん、分かってるよ。だからそんな顔しないで"と伝えた私は、少し低い位置にある白くてぷにぷにのほっぺを指先でつついた。 

________


翌朝。門出の日にふさわしい快晴だ。 

人通りが少ないうちに、店の前を掃く。 

3月の涼しさと暖かさの混ざった何とも言えない温度の風が吹いて、せっかく集めた砂が舞い上がった。 

その砂を追って目線を上げる。すると、細い道の先に見覚えのある背中が見えた。
ずっと探していた人の背中だ、そう確信した時には駆け出していて、誰なのかも未だに分からないのに必死にその背を追いかける。 

追いつかないまま大通りに出る。人通りは少ないから見つけられそうなのに、その背を見つけることはできなかった。 

「…戻ろう」 

馬鹿みたいだ。誰なのかも分からない人を探すなんて。 

小さく息を吐いた私は元来た道を辿る。 

明後日はパレードの日。人混みが得意ではない私がパレードを見に行くと決めた理由はひとつ。

聖女様と王太子様に"ありがとう"と言いたいから。

大盛り上がり必至のパレードで私の声が届くわけはないと分かっていても、彼女たちに向かってそう言いたいのだ。 

________


店を閉めて、眠る前。 

何故か涙が止まらない。眠ってはいけない気がして、それでも睡魔は襲ってくる。 

眠ったら、また戻ってしまう。

戻るって?

その疑問に答えが出ぬまま、無理やり何かに眠らされるように、涙を流したまま私の意識は落ちていく__。

________













目が覚める。朝だ。 

目がパンパンに腫れているのが分かる。不細工に磨きがかかっていること間違いなしだ。 

「おはよう…」
「おはよう…ってどうしたのそんなに目腫らして!!」
「何故か分からないけど、昨日の夜、涙が止まらなかったの」
「もう…疲れてるのよ。今日は休みなさい。明日はパレードを見に行くんでしょう?ほらこれで冷やして」
「うん。ありがとう、母さん」 

手際よく私に冷やしタオルを渡されて目を冷やしていると、父さんがリビングに入ってきた。 

「おはよ、う…シー、どうしたその目」
「何だか昨日の夜大泣きしたらしいのよ」
「…誰のせいだ」
「誰のせいでもないよ。何故か涙が止まらなくて」
「そうか…」 

私の否定の言葉に父さんはそう言うとこちらへ歩いてきて、私をぎゅっと抱き締めた。 

「父さん?どうしたの急に」
「誰も、お前のせいだなんて思ってない。悪いのは全部、あの罪人だ」

父さんは私がそのことで泣いていたのだと思ったようだ。
泣いた理由は違うのだと否定する間もなく、父さんは言葉を紡ぎ続ける。

「シーリル。いい加減、その荷は降ろして良い。もし降ろし切れないなら、父さん達に分けてくれないか」

父さんの声が心なしか震えていて、その時やっと、苦しんでいたのが自分だけではなかったことに気が付いた。

「マディだって、大好きなお前が幸せになることを願ってるに決まってるだろう」
「………っ、うん…っ」 

寄りかかっても良いのだと、心からそう思った瞬間、タガが外れたように感情が溢れ出てくる。
そうして私はやっと、涙が枯れるまで泣くことができたのだった。 




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