【完結】いずれ忘れる恋をした

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【最終章】彼に決めた

まだ見ぬ未来

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その日はしっかり休んで、翌日。 

王都にほど近いこの街は、乗り合い馬車を使えば2時間かからないほどの距離。王都に買い出しに行く時は馬車を借りて向かっているので、今日は荷物の代わりに家族みんなを乗せて王都へ向かう予定だ。 

王都は案の定、というか、予想以上に人で賑わっていた。芋を洗うような…とはまさにこのことだ。 

はぐれた時の集合場所をあらかじめ決めた上で、はぐれないように家族で固まりつつ、パレードを待つ。 

「あ!来たわよ!!」 

高らかなファンファーレが青く澄み渡った空を駆け抜ける。 

向こう側から徐々にざわめきが広がってきて、確実に列が近づいてくるのが分かる。
ただ、人がすごすぎて、今のところ背伸びをしてギリギリ見えるかも…くらいの感じなのだ。 

「このままじゃ見えないわよ、大丈夫かしら」
「大丈夫、高めに設計した馬車から手を振ってくれるみたいだからきっと見えるよ。屋台のおじさんが言ってた」 

そんな会話をしているうちにどんどん近付いてくるパレード。 

「ほら!姉さん!見えてき、た………」 

ぐっと、つま先で立ったその時。それぞれ馬に乗り、パレードの先頭を務める4人組が見えた。 

褐色の肌に輝くような銀髪をひとつに束ねた女性。
金色の髪で人懐っこそうな笑顔を浮かべて手を振っている若い男性。
紺色の短髪でガタイがよい、威圧的な無表情の男性。
それから、 

ふと。4人目の男性と目が合った。 

その瞬間はまるでスローモーションのようで、耳を塞ぎたくなるほど大きいはずの周りの声もぼやけていて。 

「シーリル、あれ、グランドキャニオンの皆さんらしいわよ!初めて顔見…シーリル?っどうしたの!!?」 

そんな姉さんの声もぼんやり聞こえる程度だった。 

ポロポロと、涙が頬を濡らすのを自覚する。拭うことも忘れて、その人を見つめていた。 

その人もまた、垂れがちな目を大きく開いて私を見ていた。
その灰色の瞳を、私は知っている。 


「見つけた……」 


彼をずっと探していたのだと、全身が叫んでいる。 

しかし、無常にもパレードは進んでいく。彼は目を覚ますように緩くかぶりを振って、私に告げた。 


"待ってろ" 


と。声は聞こえない。でも分かった。 

首がちぎれんばかりに強く頷いた私にニッと笑った彼は前を向く。仲間たちは私の方を見てから、彼に何かを言っている。私の周りの人達の数人も彼らの視線の先にいた私の方を見ていたようだけど、ほとんどの人はその後ろの王太子様と聖女様に釘付けだった。 

「ありがとう!」 

人の壁の向こうに来たお2人にそう叫ぶ。
美しい笑みを浮かべて私たちに手を振る2人は時折顔を見合わせて笑っていて、まるで1枚の絵画のよう。あまりの美しさに皆が見惚れていた。 

________


家に帰る道中で、姉を筆頭に、いきなり泣いた私を心配する会が開かれたが、周りの声があまりにも大きかったから驚いたのだと答えた。 

「父さん、母さん、おやすみ」
「おやすみなさい」
「おやすみ」 

夜。馬車旅の疲れもあり、いつもより早く自室へ入った。 

疲れてはいたけどベッドに入る気にはなれなくて、椅子に腰を降ろして机の上で頬杖をつく。
どれだけの時間ぼーっとしていたのか分からない。

不意に、部屋の窓にコツ、と何かがぶつかる音がして。 

窓を開けるとその下にいたのは、 


「シーリル」 


「っ……」 


「好きだ」 


衝動的に2階の窓から飛び降りる。ドラクさんは一瞬驚いた顔をしたけど、生活魔法を応用してふわりと浮いた私をその腕にしっかりと受け止めてくれた。 


「っ私はもっとずっと前から大好きです…っ!」 


たくましい腕に抱き上げられたまま、苦しいくらいに抱き締められる。負けじと私も彼の首にしがみついた。 

「…言っとくが、離してやらんからな」
「良いです。私は一生ドラクさんだけですから」
「物好きなこった」
「お互い様ですよ」
「あんたは自分の魅力を分かってないからな」
「そっくりそのままお返ししますよ」
「ふっ」
「っふふ」 


額を合わせてくすりと笑い合う。 

真っ暗なキャンバスに散る幾千の星とまん丸の月が、私達を優しく見つめていた。 



ー完ー




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