聖癒の聖女は覚えていない

せろり茶

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~7話と8話の間の閑話~【侍女 モーリー視点】

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お仕着せの侍女服を着て、厚い毛足の絨毯が敷きしめられた廊下をティーワゴンを押しながら、前を歩くニイゾノの背をただ見ながら歩く。

半刻程垣間見た聖女を脳裏に思い返しながら、わたくしは腸が煮えくりかえる思いでいた。


今年の花祭りに降って湧いた聖女降臨という吉兆事。


御子の祝福を受けた娘の中から現れたというエミーリアという少女は、聖花祭の夜空を大輪の華を模した光で埋め尽くし、民草全てに聖女降臨を知らしめた。

あの光の花は、あらゆる国で見られ、いろいろな奇蹟を起こしたという。


あの夜は王宮神殿の舞踏会の会場で夜空を眺めた。

どこかの地方領の伯爵三男に迫られながら、適当にあしらっていた時だ。

色とりどりの光が打ち上がり、光の帯を纏ったまま地上へと降り注ぐ様は、荘厳な美しさも相俟って人智を超越した存在に感動したものだ。


まさか教皇からの勅命を受けて、己が聖女様付きの侍女へと選ばれたと聞いたときは、畏れ多くも聖なる少女の側仕えをできる喜びと、誇らしさに一族総出で涙した。

それは自分だけではなく、他の侍女もそうだろうし、寡黙なニイゾノもそうかもしれない。


ハウス女中やキッチンメイドも聖女様の為に働けると喜んでいるのを知っている。

下男やキッチンメイド達は元より聖女様や貴族達に目通りできる立場ではないので、会えない不満はないであろう。

だが自分達は違う。

聖女様のお側で手足となり勤めるのを誉れとしているのだ。

それが、だ。

あろうことか、見目麗しいからだろうか、ハウスボーイ紛いの事を聖従士たちにさせているという。

なんて厚顔無恥で我が儘な聖女なのだ。

きっと自分の身分を嵩に着せている傲慢な女なのだろう。


さっきだってそうだ。

愁傷な振りをして。

聖従士の男性二人を侍らせているくせに。

清純そうな幼い顔立ちにはアンバランスな大きな胸。ワンピースからも解る柳腰に、細い腕、長い脚に、小さな手足。

あんなの反則だ。まるでお伽話の妖精みたいな可憐な儚さなのに。

口調と視線で教師を手玉にとっていた。

小鳥のような愛らしい声で、宝石のような綺羅めいた瞳で。

反則だ。

自分達メイドには一瞥もくれない所が余計に腹が立つ。


「ねぇ、モーリー、顔恐いよ?」

小声でニイゾノに気付かれないようにアメリアがつついてくる。

お仕着せを着ている間の私語はニイゾノは煩いのだ。

「アメリア。だって頭に来るじゃない。」

小声で返すが、ニイゾノは気がついているのか、咳払いを数回してきた。

アメリアと二人で肩をすくめ、とりあえず口は噤む。

あとで控え室で盛大に愚痴ろう。そう気持ちを込めてアメリアへと頷いてみせると、アメリアがにこりと微笑む。

「モーリーわかってるよ!ちゃんと焼菓子残しとくから!」

ひそひそと囁きながら、アメリアのエプロンのポケットはワゴンの上の菓子をどんどん詰め込まれはち切れんばかりで、わたくしは目眩を覚えた。



ワゴンをキッチンメイドへと渡し、特にする事もないので、アメリアとキャシーとわたくしは控え室で待機という名の怠惰な時間を過ごすしかない。

誉高き聖女専属侍女としての仕事なんて全然ここ数ヵ月していない。

本来なら赴任してすぐに聖女様に謁見して、祝福の栄誉を頂いているはずなのに。

それすら無いまま、ただ時間を潰す日々。

アメリアはどこで調達してきたのか、真新しい雑誌を広げ、キャシーに次の休みには城下町へと買い物へ行こうと誘っている。

こんな不確かな状態でよくも休みの予定なんて立てられるものだわね、と暢気なアメリアにすら腹が立ってくる。

わたくしがイライラしているのを察したのか、キャシーが手招きしている。

紅茶を淹れてくれたようだった。


「モーリー、イライラがお顔に出てましてよ?」

そっと差し出されたのはキャシーの得意なハーブティ。ブルーマロウの藍色が美しい。

「時間はありますわ。マロウブルーがパープルに変わるまで、ゆっくりいたしませんこと?」

微笑むキャシーのお手本の様な綺麗な笑顔に、溜め息で返すのはお行儀が悪いと思いながら、わたくしも椅子に腰掛けた。

とりあえず、お菓子を摘まみながらあの反則聖女を愚痴ろう。それで溜飲を下げることにしよう。


甘いお菓子を紅茶と共に楽しみながら何時間たったことだろう。

そろそろ夕餉の配膳が終わって、湯浴みの時間なはず。

本当に腹が立って仕方がない。なんの為に家族から離れ侍女の修業をしたのか。

あのとき勅命を受けねば、王宮で女王様の部屋つき侍女になれていたかもしれないのに。

本当に腹が立つ。


そろそろ仕事も終わり時間か、と茶器を片付け様かと3人で立ち上がった。


ノックの音と共にニイゾノが顔を出す。

「貴女達。聖女様からお話があるそうですが、共に参りますか?」

若干うんざりした声のニイゾノ。

わたくし達をこれまで蔑ろにしてきたくせに、ちょっと強くニイゾノに言われて慌てたのだろう。

それとも従士だけでは貴族に対して見栄は張れないと計算したのだろうか?

今更感はあるが、これまでの鬱憤を晴らすいい機会だ。



アメリアもキャシーも着いてきた。

ニイゾノの後ろを並んで歩く。

誰も話さないまま、談話室の前に着いた。

「ここで聖女様から話があるそうですよ。貴女達は黙ったままで結構。私が話しましょう。」








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