10 / 23
~7話と8話の間の閑話~【侍女 モーリー視点】
しおりを挟む
お仕着せの侍女服を着て、厚い毛足の絨毯が敷きしめられた廊下をティーワゴンを押しながら、前を歩くニイゾノの背をただ見ながら歩く。
半刻程垣間見た聖女を脳裏に思い返しながら、わたくしは腸が煮えくりかえる思いでいた。
今年の花祭りに降って湧いた聖女降臨という吉兆事。
御子の祝福を受けた娘の中から現れたというエミーリアという少女は、聖花祭の夜空を大輪の華を模した光で埋め尽くし、民草全てに聖女降臨を知らしめた。
あの光の花は、あらゆる国で見られ、いろいろな奇蹟を起こしたという。
あの夜は王宮神殿の舞踏会の会場で夜空を眺めた。
どこかの地方領の伯爵三男に迫られながら、適当にあしらっていた時だ。
色とりどりの光が打ち上がり、光の帯を纏ったまま地上へと降り注ぐ様は、荘厳な美しさも相俟って人智を超越した存在に感動したものだ。
まさか教皇からの勅命を受けて、己が聖女様付きの侍女へと選ばれたと聞いたときは、畏れ多くも聖なる少女の側仕えをできる喜びと、誇らしさに一族総出で涙した。
それは自分だけではなく、他の侍女もそうだろうし、寡黙なニイゾノもそうかもしれない。
ハウス女中やキッチンメイドも聖女様の為に働けると喜んでいるのを知っている。
下男やキッチンメイド達は元より聖女様や貴族達に目通りできる立場ではないので、会えない不満はないであろう。
だが自分達は違う。
聖女様のお側で手足となり勤めるのを誉れとしているのだ。
それが、だ。
あろうことか、見目麗しいからだろうか、ハウスボーイ紛いの事を聖従士たちにさせているという。
なんて厚顔無恥で我が儘な聖女なのだ。
きっと自分の身分を嵩に着せている傲慢な女なのだろう。
さっきだってそうだ。
愁傷な振りをして。
聖従士の男性二人を侍らせているくせに。
清純そうな幼い顔立ちにはアンバランスな大きな胸。ワンピースからも解る柳腰に、細い腕、長い脚に、小さな手足。
あんなの反則だ。まるでお伽話の妖精みたいな可憐な儚さなのに。
口調と視線で教師を手玉にとっていた。
小鳥のような愛らしい声で、宝石のような綺羅めいた瞳で。
反則だ。
自分達メイドには一瞥もくれない所が余計に腹が立つ。
「ねぇ、モーリー、顔恐いよ?」
小声でニイゾノに気付かれないようにアメリアがつついてくる。
お仕着せを着ている間の私語はニイゾノは煩いのだ。
「アメリア。だって頭に来るじゃない。」
小声で返すが、ニイゾノは気がついているのか、咳払いを数回してきた。
アメリアと二人で肩をすくめ、とりあえず口は噤む。
あとで控え室で盛大に愚痴ろう。そう気持ちを込めてアメリアへと頷いてみせると、アメリアがにこりと微笑む。
「モーリーわかってるよ!ちゃんと焼菓子残しとくから!」
ひそひそと囁きながら、アメリアのエプロンのポケットはワゴンの上の菓子をどんどん詰め込まれはち切れんばかりで、わたくしは目眩を覚えた。
ワゴンをキッチンメイドへと渡し、特にする事もないので、アメリアとキャシーとわたくしは控え室で待機という名の怠惰な時間を過ごすしかない。
誉高き聖女専属侍女としての仕事なんて全然ここ数ヵ月していない。
本来なら赴任してすぐに聖女様に謁見して、祝福の栄誉を頂いているはずなのに。
それすら無いまま、ただ時間を潰す日々。
アメリアはどこで調達してきたのか、真新しい雑誌を広げ、キャシーに次の休みには城下町へと買い物へ行こうと誘っている。
こんな不確かな状態でよくも休みの予定なんて立てられるものだわね、と暢気なアメリアにすら腹が立ってくる。
わたくしがイライラしているのを察したのか、キャシーが手招きしている。
紅茶を淹れてくれたようだった。
「モーリー、イライラがお顔に出てましてよ?」
そっと差し出されたのはキャシーの得意なハーブティ。ブルーマロウの藍色が美しい。
「時間はありますわ。マロウブルーがパープルに変わるまで、ゆっくりいたしませんこと?」
微笑むキャシーのお手本の様な綺麗な笑顔に、溜め息で返すのはお行儀が悪いと思いながら、わたくしも椅子に腰掛けた。
とりあえず、お菓子を摘まみながらあの反則聖女を愚痴ろう。それで溜飲を下げることにしよう。
甘いお菓子を紅茶と共に楽しみながら何時間たったことだろう。
そろそろ夕餉の配膳が終わって、湯浴みの時間なはず。
本当に腹が立って仕方がない。なんの為に家族から離れ侍女の修業をしたのか。
あのとき勅命を受けねば、王宮で女王様の部屋つき侍女になれていたかもしれないのに。
本当に腹が立つ。
そろそろ仕事も終わり時間か、と茶器を片付け様かと3人で立ち上がった。
ノックの音と共にニイゾノが顔を出す。
「貴女達。聖女様からお話があるそうですが、共に参りますか?」
若干うんざりした声のニイゾノ。
わたくし達をこれまで蔑ろにしてきたくせに、ちょっと強くニイゾノに言われて慌てたのだろう。
それとも従士だけでは貴族に対して見栄は張れないと計算したのだろうか?
今更感はあるが、これまでの鬱憤を晴らすいい機会だ。
アメリアもキャシーも着いてきた。
ニイゾノの後ろを並んで歩く。
誰も話さないまま、談話室の前に着いた。
「ここで聖女様から話があるそうですよ。貴女達は黙ったままで結構。私が話しましょう。」
半刻程垣間見た聖女を脳裏に思い返しながら、わたくしは腸が煮えくりかえる思いでいた。
今年の花祭りに降って湧いた聖女降臨という吉兆事。
御子の祝福を受けた娘の中から現れたというエミーリアという少女は、聖花祭の夜空を大輪の華を模した光で埋め尽くし、民草全てに聖女降臨を知らしめた。
あの光の花は、あらゆる国で見られ、いろいろな奇蹟を起こしたという。
あの夜は王宮神殿の舞踏会の会場で夜空を眺めた。
どこかの地方領の伯爵三男に迫られながら、適当にあしらっていた時だ。
色とりどりの光が打ち上がり、光の帯を纏ったまま地上へと降り注ぐ様は、荘厳な美しさも相俟って人智を超越した存在に感動したものだ。
まさか教皇からの勅命を受けて、己が聖女様付きの侍女へと選ばれたと聞いたときは、畏れ多くも聖なる少女の側仕えをできる喜びと、誇らしさに一族総出で涙した。
それは自分だけではなく、他の侍女もそうだろうし、寡黙なニイゾノもそうかもしれない。
ハウス女中やキッチンメイドも聖女様の為に働けると喜んでいるのを知っている。
下男やキッチンメイド達は元より聖女様や貴族達に目通りできる立場ではないので、会えない不満はないであろう。
だが自分達は違う。
聖女様のお側で手足となり勤めるのを誉れとしているのだ。
それが、だ。
あろうことか、見目麗しいからだろうか、ハウスボーイ紛いの事を聖従士たちにさせているという。
なんて厚顔無恥で我が儘な聖女なのだ。
きっと自分の身分を嵩に着せている傲慢な女なのだろう。
さっきだってそうだ。
愁傷な振りをして。
聖従士の男性二人を侍らせているくせに。
清純そうな幼い顔立ちにはアンバランスな大きな胸。ワンピースからも解る柳腰に、細い腕、長い脚に、小さな手足。
あんなの反則だ。まるでお伽話の妖精みたいな可憐な儚さなのに。
口調と視線で教師を手玉にとっていた。
小鳥のような愛らしい声で、宝石のような綺羅めいた瞳で。
反則だ。
自分達メイドには一瞥もくれない所が余計に腹が立つ。
「ねぇ、モーリー、顔恐いよ?」
小声でニイゾノに気付かれないようにアメリアがつついてくる。
お仕着せを着ている間の私語はニイゾノは煩いのだ。
「アメリア。だって頭に来るじゃない。」
小声で返すが、ニイゾノは気がついているのか、咳払いを数回してきた。
アメリアと二人で肩をすくめ、とりあえず口は噤む。
あとで控え室で盛大に愚痴ろう。そう気持ちを込めてアメリアへと頷いてみせると、アメリアがにこりと微笑む。
「モーリーわかってるよ!ちゃんと焼菓子残しとくから!」
ひそひそと囁きながら、アメリアのエプロンのポケットはワゴンの上の菓子をどんどん詰め込まれはち切れんばかりで、わたくしは目眩を覚えた。
ワゴンをキッチンメイドへと渡し、特にする事もないので、アメリアとキャシーとわたくしは控え室で待機という名の怠惰な時間を過ごすしかない。
誉高き聖女専属侍女としての仕事なんて全然ここ数ヵ月していない。
本来なら赴任してすぐに聖女様に謁見して、祝福の栄誉を頂いているはずなのに。
それすら無いまま、ただ時間を潰す日々。
アメリアはどこで調達してきたのか、真新しい雑誌を広げ、キャシーに次の休みには城下町へと買い物へ行こうと誘っている。
こんな不確かな状態でよくも休みの予定なんて立てられるものだわね、と暢気なアメリアにすら腹が立ってくる。
わたくしがイライラしているのを察したのか、キャシーが手招きしている。
紅茶を淹れてくれたようだった。
「モーリー、イライラがお顔に出てましてよ?」
そっと差し出されたのはキャシーの得意なハーブティ。ブルーマロウの藍色が美しい。
「時間はありますわ。マロウブルーがパープルに変わるまで、ゆっくりいたしませんこと?」
微笑むキャシーのお手本の様な綺麗な笑顔に、溜め息で返すのはお行儀が悪いと思いながら、わたくしも椅子に腰掛けた。
とりあえず、お菓子を摘まみながらあの反則聖女を愚痴ろう。それで溜飲を下げることにしよう。
甘いお菓子を紅茶と共に楽しみながら何時間たったことだろう。
そろそろ夕餉の配膳が終わって、湯浴みの時間なはず。
本当に腹が立って仕方がない。なんの為に家族から離れ侍女の修業をしたのか。
あのとき勅命を受けねば、王宮で女王様の部屋つき侍女になれていたかもしれないのに。
本当に腹が立つ。
そろそろ仕事も終わり時間か、と茶器を片付け様かと3人で立ち上がった。
ノックの音と共にニイゾノが顔を出す。
「貴女達。聖女様からお話があるそうですが、共に参りますか?」
若干うんざりした声のニイゾノ。
わたくし達をこれまで蔑ろにしてきたくせに、ちょっと強くニイゾノに言われて慌てたのだろう。
それとも従士だけでは貴族に対して見栄は張れないと計算したのだろうか?
今更感はあるが、これまでの鬱憤を晴らすいい機会だ。
アメリアもキャシーも着いてきた。
ニイゾノの後ろを並んで歩く。
誰も話さないまま、談話室の前に着いた。
「ここで聖女様から話があるそうですよ。貴女達は黙ったままで結構。私が話しましょう。」
1
あなたにおすすめの小説
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
身体だけの関係です‐三崎早月について‐
みのりすい
恋愛
「ボディタッチくらいするよね。女の子同士だもん」
三崎早月、15歳。小佐田未沙、14歳。
クラスメイトの二人は、お互いにタイプが違ったこともあり、ほとんど交流がなかった。
中学三年生の春、そんな二人の関係が、少しだけ、動き出す。
※百合作品として執筆しましたが、男性キャラクターも多数おり、BL要素、NL要素もございます。悪しからずご了承ください。また、軽度ですが性描写を含みます。
12/11 ”原田巴について”投稿開始。→12/13 別作品として投稿しました。ご迷惑をおかけします。
身体だけの関係です 原田巴について
https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789
作者ツイッター: twitter/minori_sui
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
久しぶりに帰省したら私のことが大好きな従妹と姫はじめしちゃった件
楠富 つかさ
恋愛
久しぶりに帰省したら私のことが大好きな従妹と姫はじめしちゃうし、なんなら恋人にもなるし、果てには彼女のために職場まで変える。まぁ、愛の力って偉大だよね。
※この物語はフィクションであり実在の地名は登場しますが、人物・団体とは関係ありません。
小さくなって寝ている先輩にキスをしようとしたら、バレて逆にキスをされてしまった話
穂鈴 えい
恋愛
ある日の放課後、部室に入ったわたしは、普段しっかりとした先輩が無防備な姿で眠っているのに気がついた。ひっそりと片思いを抱いている先輩にキスがしたくて縮小薬を飲んで100分の1サイズで近づくのだが、途中で気づかれてしまったわたしは、逆に先輩に弄ばれてしまい……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる