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~8話~

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夕食はテセウス様も同席なさって、流石にノースさんのお膝抱っこは免れた。

私はワインは苦手なので夕食と言えども果物のジュースだけど、テセウス様はワインを楽しんでいる。

お酒飲めたんだぁ、と少しだけ感慨深い。

なんとなくイメージではテセウス様は紅茶な感じなのだもの。

それでもとてもワイングラスが似合う。

神官服の詰めた襟がストイックな雰囲気なのに、深く赤いワインを傾けるお姿が大人っぽくて格好いい。

ご同席下さったけれども、聖女のメニューは召し上がってはいけない規則だということで、食べるのは私一人。

ノースさんが右横に、ウェスダーさんが左側、サウスさんは私のすぐ後ろ...というなんの防壁ですか?と聞きたくなる位の至近距離ではあるけれど。

それでもひさしぶりの沢山の人との食事は心が弾む。

ニイゾノさんとの対談は少し胃が痛いけど、ちゃんと気持ちを伝えて、力を貸してもらえたらな、と思う。


オニオンスープ、ミモザサラダ、白身魚のポアレとクスクス添え、レーズンパンを食べ終え、食後のお茶を飲む。

そろそろ時間かなぁ、とチラッチラッと扉を見ていると、落ち着かない私の様子にサウスさんが苦笑していた。

「大丈夫ですよ、エミーリア様。談話室の用意も終わってます。あとは湯浴の前にちゃちゃっと話してしまいましょう。オレらもお側に待機してますから。」


笑顔でそう伝えてくれるけど、それでもやはり緊張してしまう。

食後のお茶もそろそろ空になる。

もし対話を拒否されてしまったらと思うと不安。

ここまで約4ヶ月、知らなかったとは言えまともに挨拶もしていないんだもの...。

彼らが黙して耐えていたのだと思うと胸が痛む。


食堂の扉からノースさんが敬礼と共に現れた。

「聖女様、神父長官殿、談話室の用意が調いました。ご足労お願いします。」


テセウス様が立ち上がり、続いて私も、と椅子から立とうとすると、サウスさんに肩を軽く押さえられ、見上げるとやんわりと首を横に振る。

あ、こういう場面でも歩いたら駄目なのね...。

ノースさんに膝裏に手をいれ、抱き上げられるまで数秒だった...。


これを当たり前のように感じる日は来るのかしら...?なんとなくそれまでは対話への緊張に強ばっていたのに脱力感に苛まれつつ、談話室へと向かう。


談話室ってどんなところかな。応接間みたいなところなのか?

あまり耳馴染みのない名称。


「エミーリア様。会話の初めは聖女様からはお声を掛けてはなりませんよ?」

テセウス様がノースさんの隣を歩きながら私へ微笑みながら忠告してくださった。


そう、コンラッド先生も『聖女から口を開いてはいけない』と仰っていた。

私の方が年下なのだけれど、マナーの教本にもあった『階級差』というものなのだろう。

謎システム...。でもこれに慣れなきゃいけないんだ。


「わかりました。では、テセウス様にお願いしてもいいでしょうか?」


「もちろんです。エミーリア様。」


微笑む様子はいつも通り柔らかな印象なのに、ちょっとだけテセウス様の笑顔が恐い。


食堂から階段を下りて、ホールを抜けたら庭に面した廊下を進む。

白い壁に鈍い黄金色の額縁が幾枚か廊下を彩り、所々に大きな花瓶に花が生けられている。

ここには私は来たことが無いのに、丁寧にいつ誰が来てもいいように手入れをされている様子が見てとれる。


私はこの決して狭くはない離宮を管理する人や働く人が居ることを、何故思い付かなかったのかと今更ながら反省するしかない。


毎日の食事も、お風呂も、御布団だって洋服だってそうだ。

誰かが作って、掃除をして、洗濯をして整えてくれていて成り立つ物なのに。

お家の頃だってお母さんがご飯を作ってくれて、御布団を干してくれたり、洗濯をしてくれていた。私だって手伝ったりしていて...その大変さを少しだけでも知っていたはずなのにと、無知を恥ずかしくなる。


何が聖女だ。

こんなの...ただ奉り上げられて、享受するだけのお飾りじゃないか...。情けない。

自分がただ情けない。

大人になったのに。なんにも周りが見えていないのなら子供と変わらない。

もっとよく考えなきゃ...もっとよく知らなきゃ...。


綺麗に調えられている離宮は古の魔法で勝手に綺麗に調えられているわけではない。

そこには必ず人の手が入っているのだ。

ありがとうございますって気持ちを忘れてはいけない。

知らなかった、で済ませてはいけないんだ。

廊下を進みながら、私はそう決心した。

まずはニイゾノさんと話そうと。



荘厳な廊下を抜けて、多分建物全体の行き止まりなのか?扉をくぐった談話室という場所は、壁一面が緩くカーブした硝子張りの温室だった。天井までもが硝子張りで、夕闇と半月が頭上に見える。

明るいタイル張りの床に、色とりどりの花花や草が植え木鉢やあまり大きくない花壇に鎮座している姿はなんだか心が和む。


背の高い樹の下に、肘掛けと背凭れが柔らかそうな革張りの猫脚の椅子とテーブルとソファーが置かれている。その横のワゴンは茶器が用意されているのか、ホッとする香りがそこから漂ってきていた。


「エミーリア様、此方にお座りください。」

ひとつだけあった背凭れと肘掛けのある椅子に降ろされる。

ノースさんが私のやや後ろへと移動し、その動きに合わせてウェスダーさんがお茶を淹れてくてる。

「ありがとうございます、ウェスダーさん。」


お礼を伝えると、にこっと返される。可愛い笑顔なのに...やっぱりまだウェスダーさんが男性なのは信じられないような気がする。


テセウス様もお座りになってお茶を召し上がる。

待ってる間に来るでしょ?というスタンスの様だ。


それにしても、今日はお茶ばっかり飲んでる気がする...。



香りよい紅茶の2杯目を勧められた時だった。

控えめなノックの音と共に、扉の外にいたサウスさんからニイゾノさんと、女の子達が訪れたと告げられる。


「...私はニイゾノだけを呼んだつもりだったが?」

少し圧し殺した声で、テセウス様が談話室へ入ってきたニイゾノさんと女の子達へ威圧的に話かけた。


ニイゾノさんがやや前にたち、その後ろに女の子三人がならんで深く一礼してくる。

その姿は練習していたのか?と思うほど、息が合っていた。深々と下がる頭が上がる瞬間まで一緒のタイミング。


「お言葉ですか神父長官殿が同席なさるとは聞いておりません。聖女様からのお話がある、と聞き及んでおりますが。」


ぐっと目に力を入れてニイゾノさんがテセウス様に応えた。眼光は鋭いが無表情なそれは決意の表れなのか、真っ直ぐにテセウス様を睨めつけてくる。


「序列を考えたら判るのではないか?ニイゾノ。」

静かに重厚な声で応酬する二人のやり取りをハラハラと見守る。

こんなやり取りではきっと女の子達も怖がってしまう。

心配で女の子達へ視線を巡らせる。


三人ならんで背筋を伸ばし、手は軽く組んだままお臍の下辺り...佇まいが美しいのは三人とも同じ。

とても綺麗な立ち方だ。


一人は赤い髪を三つ編みに編み込み、纏め上げている。緑の瞳がすこし落ち着きなくあちこちをさ迷っているが、怯えの色はなく、どちらかというと周囲を観察しているのかな?との印象だった。


一人は濃い目の金髪がまるで向日葵みたいな華やかな色で、背の高くほっそりとした外見なのになんだかホッとする表情の女の子。茶色の瞳が大きく柔らかく笑みの色を湛えて私を見ている。


一人は私に似た茶色の髪だけれど、真っ直ぐサラサラ。肩の辺りで切り揃えられた髪は、項から顎のラインに添って前下がり気味で、洗練されたお洒落を感じる。

金を帯びた瞳がきつくテセウス様とニイゾノさんとのやり取りを見ている、と思った。

その目がヒタリ、と私にたどり着く。

一瞬大きく見開かれ、ぐっと力が入った。

それは、なんだか泣きそうにも、怒りを耐えられない様にも見えて、私はその子から目が離せなかった。


私が見ている事に気がつくと、女の子はまた泣きそうな顔ですっと視線を反らす。

その唇はキッと結ばれ、何かを耐える風情で。

何か話し掛けようか、と悩む私をノースェンドさんがそっと肩に触れてくる。

まだ私は話すな、ということかな?


「...れが側仕えの総意か?」

テセウス様の言葉の断片だけを耳が拾う。

ちょっと...聞いてなかった...いけない、いけない。確りしなくちゃと誓ったばかりなのに。余所事を考えてしまっていた。


「このままでは、これから『祝い』をと聖女様にお目通し願うであろう多く訪れる貴族の方々に侮られますが、聖殿側としてはいかがなさるおつもりですか?

我々は聖女様の御為に...と教皇様より側仕えを賜っております。」

ニイゾノさんが強く声を荒げた。


「そうだな。だが人選は聖殿に任せられている。午後のニイゾノの対応はまるで聖女様を軽んじる行いに思えるが?

身分不相応にも直接不満を漏らしたと報告されている。不敬であるがその様な態度は神殿の総意とみなすが?」

テセウス様も眉間に縦皺を寄せてニイゾノさんを静かに見ているが、その表情は冷たい。普段のお優しく柔和な笑みはなく、まるで氷の様だ。


「ですが!私は執事。聖女様のお側に控えるのが私の使命です。それすら排除する聖殿...延いては聖女様の意図を知りたいと思うのは可笑しなことでしょうか?」



「聖女様はまだ離宮でのお暮らしに慣れていない。当然ながら我々従士も聖女様にご不自由なき様に学んでいる。有象無象の出入りは聖女様の御身御心を護る為には向かぬ。聖女様は心根の美しい御方なのでな。静かな環境を調えて差し上げる為にも我々従士の補助で事足りていると思わぬのか?」

そこへウェスダーさんがニイゾノさんへと声をかけ、ちらりと女の子達へと視線を投げる。


「お言葉ですか、聖従士長。我々の用意している侍女は高官侍従教育を終えています。

聖女様の御側仕えにと、一番適した者を選別した侍女としても淑女としても最高位の者達であります。

男性ばかりの従士ではやはり女性の為の極め細やかな気配りは出来ぬと我々は考えております。

聖女様に措かれましては、従士よりも我々侍女の方がより洗練された佇まいへと我々が整えるのが一番ではないでしょうか?浅慮で従士隊をハウスボーイやフットマン扱いをするような真似をなさるよりは宜しいかと思いますが?」


「慎め!ニイゾノ!無礼な!」

ノースさんが声を荒げた。手は腰の刀束に掛けられている。...いつの間に刀なんて持ってたんだろうか...?


「剣呑な!聖従士隊は神殿を侮辱し過ぎではないか?!」

ニイゾノさんもノースさんを睨み付け、一歩も退かない構えだ。


えー......。やだな。そんな話し方してたら何時までも平行線、というかどんどん悪くなる。

赤い髪の女の子がちょっと涙目でソワソワしているし、向日葵みたいな女の子が赤い髪の女の子の背中へそっと手を充てて、宥めるように擦っている。




「私の意見を述べてもよいでしょうか...?」

このままでは私何時までも話せないし、謝れない。第一、喧嘩は良くない...。

小さく手を上げて、発言の許可を求めてみた。


途端に、しん...と水を打ったように静けさに満ちる。


「聖女様...。」


あ、テセウス様のお顔が『任せなさいって言ったでしょ?』って苦笑いのお顔になった。

頷いて、にこっと笑っとく。

秘技フローレンス金物店直伝の営業スマイルだ。


「最初に...知らなかったんですと、伝えさせてくださいますか?ニイゾノさん...。」


ニイゾノさんをしっかりと見つめる。

「私は...花祭りの日までは、極々普通の女の子でした。それまでは従士というお職を存じ上げなくて...最初に離宮へ到着して、初めて御紹介頂いた時に...従士の皆さんを女の子の憧れのメイドさんだと思ってしまったのです。ごめんなさい。ノースさん、ウェスダーさん、サウスさん、イースさん。」


四人に向き直り、頭を下げた。

慌ててノースさんが「お止めくださいエミーリア様...!」と制止してくるけど、片手を上げて、押し留める。


「そして、ごめんなさい、ニイゾノさん。今まで...この離宮を管理してくださってたんですよね?...離宮にお客さまがいつ来てもいいように、綺麗に調えて下さってたんですよね?...ごめんなさい。そしてありがとうございます。」


ニイゾノさんが驚いた顔をしているのは、きっとバカな小娘だと思ったのだと思う...。

情けないけど、その通りで。

私は...何も知らない、知らなかったでは済まないのに、今まで何も考えなかったのだ。


「ニイゾノさん。今更で...本当に今更で、ごめんなさい。

都合のいい事を言うなとお怒りでしょう...。ですが、私にお力を貸しては貰えないでしょうか?

そして私に、ニイゾノさんや他の働く皆様へ感謝をさせてくださいませんか?

私は皆様のお顔を見て、ありがとうって伝えさせて貰いたいです。毎日ありがとうございますって、伝えさせてください。」


立って、頭を下げた。

息を飲む音が複数聞こえた。

すぐにテセウス様もノースさんも、「お止めくださいエミーリア様...!」

と止めてくる。

でも

「ごめんなさい。ニイゾノさん。侍女の皆さん。」

頭を下げたまま、気持ちを伝える。


「私...多分まだ聖女としての覚悟が足りなかったんです。ちゃんと考えなきゃいけなかったのに、何も考えてなかったんです。皆さんが支えて下さっていることを『知らなかった』じゃ、いけないのに...。」


顔をあげて。

女の子達と、ニイゾノさんと、ノースさんと、ウェスダーさん、イースさん、サウスさん...そしてテセウス様のお顔を、見る。

「お願いいたします。 私に...皆さんのお力を貸しては貰えないでしょうか?」


「聖女様...。」

ニイゾノさんが、私を見る。

真っ直ぐに私もニイゾノさんを見つめた。

しばらく...無言で見合った。

ニイゾノさんが、ゆっくりと目を閉じた。

ニイゾノさんは深く息を洩らすと、静かに一礼して。

「聖女様に望まれて否やはございません。」

と、答えてくれた。


そのまま私は女の子達を見る。

赤い髪の女の子と金髪の女の子は、パッと華やいだ笑みで、スカートの裾を軽く摘まんで一礼してくれた。


「声を発する事をお許しください。聖女様。」

金髪の女の子がスカートの裾を軽く摘まんで、片足を軽く引き、そのまま中腰に屈んで綺麗な一礼をしてくれながら、私へと微笑んで。


「私はキャシー・セルビア・コンフリーと申します。セルジオ・ローベル・コンフリー伯爵の末娘でございます。

僭越ながら侍女頭を勤めさせて頂いております。

私は聖女様に誠心誠意仕えさせて頂きますわ。こちらに控えるアメリア・エリスとモーリー・バークレムと共に聖女様のお側に仕える事を誓います。」

そう自己紹介と他の女の子の紹介をしてくれる。

キャシーさんが赤い髪のアメリアさん、茶色の髪のモーリーさんを順に優雅に手のひらで指し示し、再び一礼してくれた。

パァッと花が咲くように嬉しそうに笑うアメリアさんはにこにこと私を見て、キャシーさんにそっと突かれ、小さく慌てながら一礼をする。


その横で、ぐっと唇を噛み締める様にして、モーリーさんが私を見ている。

一瞬、肩で大きく息を吐いて...目を伏せて一礼された。

サラッと髪が流れ、彼女の表情をカーテンの様に隠してしまった。

まるでこれ以上は目に入れたくない、と拒絶されているかの様で、ずしり、と胃が重くなる。

でも...4ヶ月もの間、まるで接触が無かったのだ。思うところも含むところも沢山あるだろう。


「...本当に慣れてらっしゃらないのですね...。聖女様。

私は貴女様の執事のソウシ・ニイゾノでございます。本日この瞬間より貴女様のお側に控えるのをお許しください。さて、聖女様に措かれましてはまず、我々への敬称をお止めくださるように進言いたしましょう。」


ちょっとだけ微笑んで、コホンと小さく咳払いをしてから苦言ですが、と顔をしかめる。でもこのしかめっ面は、怒っていたり不快な気分からの表情ではないのがわかる。だって、小さく笑ってるもの。

だから私も笑う。


「ふふふ、いきなり呼び捨ては出来ないので、段々慣れていかせてくださいね?ニイゾノさん。」



まだきっと含むところもあるだろうが、ゆっくり仲良くなれたらいいな、と思った。




そのあと、テセウス様も従士隊の皆さんも、私の敬語?を控えてくれとの軽いお説教となり、あれー?なんでこうなったの?と小さくなりながら、なんとか無事に対面は終わったのだった。



お茶も冷めた事だし、と部屋へ戻ろうか、とテセウス様と話していた時だ。


「あの...聖女様...」

小さくアメリアさんから声が掛けられる。


「はい?なんでしょうかアメリアさん。」

見ると緊張に強ばっているのか、アメリアさんが少しエプロンの裾を握りながら私を見ている。

やや目が潤んで涙目で。

そんな緊張した面持ちのアメリアさんを安心させたくて、にこにこ笑って答えた。


「あの、あの...聖女に祝福をして貰いたいです...私、楽しみにしてて...」

「アメリア!!」

もじもじと話していたアメリアさんをニイゾノさんが鋭く注意する。

テセウス様も眉間に皺が寄っている。

ウェスダーさんが、キャシーさんにジェスチャーしているのは、もしかして『下がらせろ』、と?


謎システムの発動中なのだろうか?何が駄目なのだろう?普通にお話しては駄目なの?

でも

「アメリアさん。私の祝福を楽しみにしててくださったのですね?嬉しいです! あの...良かったら皆さん...私に初日のやり直しをさせてくださいませんか?」


テセウス様を仰ぎ見る。

また困ったお顔で微笑んで、仕方ないですね、と小さく呟いて。


「では、従士から...で宜しいですか?エミーリア様。」と笑ってくださった。


従士隊の序列は実は一番偉い人はウェスダーさんだった。ノースさんが従士隊全体の筆頭なのは確かなのだが、ウェスダーさん本人は従士隊指導長で、実は聖騎士なのだそうだ。


祝福をするために私は談話室の中央に大きく枝を広げる大木の下で立つ。テセウス様が私の斜め前に立って、ぐるりと周りに佇む皆を見回した。


「キルバート・ウェスダー、 ノースェンド・ニューメロフ、 エンリケ・サウスラン、 イーダ・イースタン、参れ。」

厳かにテセウス様の声が響く。


四人並んでスッと流れるように床に跪き、右手を軽く握り、左胸へと充てる様子は流石の姿勢の美しさで。


ノースさん達従士隊の4人と出会った時を思い出す。


私の左手を四人の垂れた頭頂部へと翳して、心から祝福する。


「従士の皆さんとの出逢いに...感謝と、未来に心からの言祝ぎを...。」


手を翳した


私の足元から、私を包み込む様に風が巻き上がる。風は白く黄金色に光輝いて、くるくると私を螺旋に廻ると、螺旋に巻き込まれるように、風がふわふわとスカートの裾を翻えさせ、私の髪が風にふわふわと靡く。


翳した手から暖かい光と温もりを感じる熱が輪になって大きく四人を包み込んで、キラキラと光の粉になって四人の中に消えていく。


「有り難き幸せでございます。エミーリア様。」

ノースェンドさんが涙を流しながら私を見上げ、サウスランさんが「おおっ...」と光の粉がさらさらと消えていく自分の手を見ている。

ウェスダーさんは深く頭を垂れたまま、微笑んでいるし、イースダーさんが張り詰めた息を洩らす。


そんな四人を見つめるニイゾノさんが息を飲んだのがわかる。

キャシーさんとアメリアさん、モーリーさんが大きく目を見開いて、両手で口元を押さえているのは声を抑える為だろうか?


「ソウシ・ニイゾノ、キャシー・セルビア・コンフリー、モーリー・バークレム、アメリア・エリス、参れ。」


同じようにテセウス様の声が響く。

ニイゾノさんが片足を立てて跪く。従士の皆さんと同じように右手を握って、左胸に軽く充てて。

女の子達は両膝を付いて、両手を胸の前で組んで。

私へと頭を垂れた。


「執事ニイゾノ、侍女キャシー、モーリー、アメリア。貴方達との出逢いに感謝と、貴方達の未来に心からの言祝ぎを...。」


さっきと同じように私を中心とした風が柔らかく渦巻き、光の渦となって四人を包む。キラキラと輝いて降り注ぐ光の粉が四人に降り注いで。

キャシーさんとアメリアさんが互いに微笑んで、ニイゾノさんは両手を見つめながら「...本物の......これが聖女様の祝福...」と呟いている。

三人が呆けているのを、従士の皆さんはとてもいい笑顔で頷きかけている。


しばらくして、俯くモーリーさんが嗚咽を漏らし、それをキャシーさんとアメリアさんが三人で抱き合って泣き出すという結末がついていたのを見て、ようやっと終わったんだな、いいや、これから始まるんだ...と感慨深かった。

後書

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