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30「夜の訪問者3」
しおりを挟む元の姿に戻って先ほどまでの興奮はすっかり治まったが、壮馬は依然部屋には戻ってこない。
というか、俺がいるせいだと思うのでまだ少しだるい足を奮い立たせて自分の部屋に戻ることにした。
壮馬に頼らずに出来ることについて考えてみる。
以前先生が言っていたトレーニングをするというのはいいかもしれない。
あ、でも協力者はトレーニングするにも必要って話だったし、どのみち探さないといけない事になるのか…。
快く引き受けてくれる人なんているのかな。
壮馬はきっと俺が体質戻すために他の奴とハグとか…してるの知ったら、良くは思わないだろうな…。
俺の事を心配してくれてるのはわかる。
こっちに来てからは特にそれを肌で感じる。
だけど、それは俺だって同じだ。
俺だって壮馬にこれ以上負担を強いたくない。
これ以上この世界に染まってしまう前に帰らないと。
知るはずのなかった壮馬の姿を思い出し、顔が熱くなる。
戻れたとしてもこの世界に来る前までのような関係でいられなくなる。
壮馬はこの世界の人と関わることにも慎重に行きたいみたいだが、俺の体質がある限りそれは難しい気がする。
戻る手がかりを探すためにも、俺の体質のためにももう少し積極的にこの世界の人たちと関わっていくべきだ。
誰かと仲良くなることでなにか元の世界に戻るヒントが見つかるかもしれないし。
現状なにも手掛かりがない今やらないよりやった方がいい。
壮馬を絶対に元の世界に帰すために。
俺たちの日常に帰るために。
壮馬が俺の事を慮ってくれているように俺だって壮馬の事を大切に思っている。
この世界にきて心細かった俺を励ましたり、助けてくれた。
今だって俺のために行動してくれている。
だから、俺もそれなりに身体張らないと。
…。
俺のこの考え方は言い換えればこの世界の人たちを利用するってことになる。
帰るために仲良くする…。
三ツ矢や寮長、司波先生の顔が思い浮かぶ。
ズキリと胸が痛んだが目を瞑って息を吐いた。
痛みに気付かないふりをして。
廊下を見渡し人がいないのを確認してから行きと同じようにバスタオルを頭から被ってゆっくりと廊下へ出た。
自室へ戻ってからふと気づく。そういえば三ツ矢がいたんだった。
自分の部屋へ入るとベッドサイドの明かりが小さくついたままだった。
そういえば二人で話している時に付けてそのまま壮馬の部屋に行ってしまったんだった。
三ツ矢は俺のベッドで寝ていて俺に気付く気配はなかった。
ベッドサイドの明かりに照らされている寝顔。
ここ、俺の部屋なんだけどな…。
そういえば三ツ矢って攻略対象だったな。
普通に寮生活を一緒に過ごしてるせいで友達という認識でいた。
三ツ矢に協力してくれるように頼むのはどうだろうと考えてみる。
考えてやめた、正直まだ信用していいのかわからないから打ち明けるのは難しいかもしれない。
協力をお願いするってことは三ツ矢とハグするってことだもんな。
だめだ、全然イメージできない。
…といい訳をつらつら考える。
決意を固めたとはいえ、抵抗がなくなった訳じゃない。
だって…俺男だし…。
…うう…前途多難だ。
考えたら考えただけ湧き上がってくる不安は尽きなかった。
でも、まあ俺の事を心配してくれたりちょっとは仲良くなれた気がするしもう少し時間があれば俺の決心もつくかもしれない。
…かなあ?
寝顔を眺めながらぼんやりとしていると三ツ矢がゆっくりと目を開いた。
「んー…律ちゃん?…どしたの…トイレ行ってた?」
「わ、ちょっと…っ」
寝ぼけてる三ツ矢が腕を伸ばして俺の身体を引っ張りベッドへ引っ張り込んだ。
ぼんやりしていたせいで反応が遅れてされるがまま俺の身体はベッドへ転がってしまった。
先程の事を思い出し抜け出そうとするが三ツ矢の腕は俺の身体を抱きしめたまま離してくれる気配がない。
狭いベットの上で暴れるとギシギシいうしまた落ちそうになるかもしれないと思うとうまく抵抗できなかった。
あとなんとなく夜中に音を立てるのは気が引けるし…。
仕方なくじっとしていると。
「…だいじょーぶだよ…ちゃんと仲直りできるからね…」
それだけ言うと、三ツ矢は再び目を閉じてしまった。
「……」
喧嘩なんてものじゃない、事態はもっと複雑だ。
ただの喧嘩だったらどれだけ良かったことか。
こっちの事情なんてなにも知らない的外れな言葉なのに優しく語り掛けるような声が胸にすとんと落ちてきて、目の奥がツンと痛んだ。
ああ、ほんと困るな。
ひくりと口元が歪む。
じわじわ潤む瞳をぎゅっと閉じるが、抱きしめられている安心感に堪えていた涙が零れてしまった。
頭を撫でられる。
もう一度、小さな声でだいじょーぶだよと軽い口調で囁かれた。
手掛かりなんて見つかるのかな。
帰れるのかな。
利用することになる…。
先ほど浮かんだ考えがまた頭を過る。
そんなこと。
俺に、できるのかな。
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