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理由
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「ミコさん、聞いてくださいよ。こいつコーヒー飲むんですって」
タケルがコーヒーを配りながら、ミコに話しかけた。
「ええっ、ウルラが」
ミコが驚きの声を上げた。
「なんや、わしがコーヒー飲んだらあかんのか」
ウルラが不貞腐れたように言った。
「いや、いいんじゃない。ウルラは喋るし。コーヒー位飲んでもおかしくないな」
阿満野が楽しそうに言った。
「でも、メダルですよ」
「あほ、わしはただのメダルちゃうぞ」
「どこが違うんだよって、あっそうか、しゃべるメダルなんてないもんな、確かに違う」
タケルがからかうように言った。
「かああっ、分からんやっちゃなあ。わしはあのアテーナーのウルラやで。ほんまはお前らなんぞ、わしと一緒にいることもできへんのやで。格が違うんや」
ウルラが大きな声で怒り出した。
「アテーナーのウルラって何だ」
タケルはウルラが言っていることが分からず、ペンダントを持ち上げ聞いた。
「多分、ギリシャ神話のアテナのことだな。確か、アテナは梟を聖鳥として連れていた」
阿満野がコーヒーを飲み、一息入れながら言った。
「へ、こいつが神様の」
タケルが真の抜けた声を出した。
「そや、わしは昔、アテーナーと一緒に暮らしてたんや。神さんの連れっちゅうこっちゃ、分かったか」
ウルラが偉そうに言った。もしウルラに体がついていたら、絶対に胸を張っているだろうなとタケルは思った。
「それは頼もしいな。ところで、多分だが、分かったぞ」
阿満野がさらっと相槌をうち、話を変えた。
「え、分かったんですか。由美子さんが狙われた理由が」
タケルが身を乗り出した。
「ああ。ま、確証はないがな」
阿満野がコーヒーを一口すすり、続けた。
「由美子さんが木暮支店の時、ある女性行員が自殺をするという事件があった。その女性の遺書には男と不倫し、その男の子どもを身籠ったあげく、男に捨てられたこと、その男に騙され銀行のお金を少なからず融通したことが書かれていた」
「え、その話って」
「そう、由美子さんの話に似てるでしょ」
ミコが頷きながら言った。
「でも、それが何で由美子さんが騙されたことと結びつくんですか」
「その女性の様子がおかしいと上司に報告したのが由美子さんで、実はその女性は竹下副頭取の妹だったんだ」
「えええええっ、マジですか。わあ」
タケルは驚きのあまり勢いよく立ち上がり、コーヒーをこぼしてしまった。
「はあ、どんくさいやっちゃのう」
ウルラが呆れたように言った。
「うるさい。へええ、副頭取の妹ですか」
タケルが慌ててハンカチで机の上を拭きながら言った。
「ああ、その女性は副頭取の父親が再婚した相手との間にできた娘だったらしく、年齢は大分離れていたらしいが」
阿満野が机を離れ、ソファーの方に移動した。
「でも、兄妹仲は良かったみたいよ。特に竹下副頭取はそれはもう可愛がっていたらしいわ。噂ではその女性がまだ新人だった頃、わざわざ支店の飲み会に兄だからって強引に参加したことがあるんですって」
ミコもソファーに移動した。いつの間にかソファーの前の小さなテーブルの上にスナック菓子の袋が広げられていた。ミコが阿満野の横からその菓子をつまんで口に入れた。
「そんなことまで分かるんですか」
タケルが感心して言った。
「いや、はは、流石にそこまでは記録には書いてないよ。それはミコの人脈から仕入れた情報だ。よく覚えておけよ、女性の情報網は侮れないぞ」
阿満野が手をはたき、お菓子の屑を下に落とした。ミコは笑っていたが、何も言わなかった。
「でも、それって由美子さんは何も悪くないと思いますけど」
タケルが首をかしげた。
「あかんな、お前は。やっぱり、人の心っちゅうのが分かってへんな」
ウルラがため息混じりに言った。
「な、なんっ、人でもないお前に・・・」
タケルは大きな声で文句を言ったが、心の何処かで図星をつかれた思いもあり、言葉が続かなかった。
「そうだな、副頭取にしたら可愛がっていた妹が死んだら、筋違いとは分かっていても由美子さんを恨んでしまうかもな」
阿満野がため息混じりに呟いた。
「じゃあ、副頭取が乾に命じたんですか」
「いや、それは断言できないな。ただ、乾は由美子さんの事件を手土産に副頭取の下に入った。直接的な指示はしていないとしても、乾の行動に繋がる何かを示唆はしていたんじゃないかな」
「そうですか、それが原因ですか」
由美子の静かな声がした。
暫くは誰も何も言えなかった。
「私は大丈夫です。そんなことがあったんですね。確かに、それなら恨まれるかもしれませんね」
淡々と話す由美子の声が、タケルにはかえって辛く感じられた。
「でも、それは完全に逆恨みですよ。由美子さんが悪いことなんて何もないですよ」
「ありがとう。貴方は優しい人ですね」
由美子が寂しそうに言った。
「あの、由美子さん。由美子さんが騙された理由は、多分さっきの話で合ってると思うんだけど、それでも乾に聞いてみるかい」
阿満野が由美子に優しく聞いた。
「・・・そうね、聞きたいわ。直接確かめたい」
由美子がはっきりと答えた。
「分かった。これ以上調べても何も出てこないだろうし、証拠も出てこないだろうから、あとは直接あたるしかないか。ミコ、TGIの滝川会長との面談は録音しているよな」
「ええ、録音してます」
「じゃあ、それを使って話をするか」
阿満野が言った時、ウルラが声を出した。
「乾に会うなら十分気いつけなあかんで」
ウルラの声を聞いてタケルはさっきの食堂で感じた重く暗い空気とエレベーターから漏れる黒い霞を思い出した。
「うん、それはどういうことだ」
阿満野がタケルの方を見て聞いてきた。タケルは食堂で鳥肌が立ったこと、黒い霞を見たエレベーターには確かに乾と呼ばれた人物が乗っていたことを阿満野に伝えた。
「わし、あんな禍々しい気いを感じたんは、ほんまに久しぶりやわ。あれの相手は、ちょっと大変かもしれへん」
ウルラが少し弱気な発言をした。
「へえ、そんな相手がいるのか。それは面白そうだな。なあ、星」
オフィスの扉が開き、大柄の男と対照的に小柄な女性が続いて入ってきた。
タケルがコーヒーを配りながら、ミコに話しかけた。
「ええっ、ウルラが」
ミコが驚きの声を上げた。
「なんや、わしがコーヒー飲んだらあかんのか」
ウルラが不貞腐れたように言った。
「いや、いいんじゃない。ウルラは喋るし。コーヒー位飲んでもおかしくないな」
阿満野が楽しそうに言った。
「でも、メダルですよ」
「あほ、わしはただのメダルちゃうぞ」
「どこが違うんだよって、あっそうか、しゃべるメダルなんてないもんな、確かに違う」
タケルがからかうように言った。
「かああっ、分からんやっちゃなあ。わしはあのアテーナーのウルラやで。ほんまはお前らなんぞ、わしと一緒にいることもできへんのやで。格が違うんや」
ウルラが大きな声で怒り出した。
「アテーナーのウルラって何だ」
タケルはウルラが言っていることが分からず、ペンダントを持ち上げ聞いた。
「多分、ギリシャ神話のアテナのことだな。確か、アテナは梟を聖鳥として連れていた」
阿満野がコーヒーを飲み、一息入れながら言った。
「へ、こいつが神様の」
タケルが真の抜けた声を出した。
「そや、わしは昔、アテーナーと一緒に暮らしてたんや。神さんの連れっちゅうこっちゃ、分かったか」
ウルラが偉そうに言った。もしウルラに体がついていたら、絶対に胸を張っているだろうなとタケルは思った。
「それは頼もしいな。ところで、多分だが、分かったぞ」
阿満野がさらっと相槌をうち、話を変えた。
「え、分かったんですか。由美子さんが狙われた理由が」
タケルが身を乗り出した。
「ああ。ま、確証はないがな」
阿満野がコーヒーを一口すすり、続けた。
「由美子さんが木暮支店の時、ある女性行員が自殺をするという事件があった。その女性の遺書には男と不倫し、その男の子どもを身籠ったあげく、男に捨てられたこと、その男に騙され銀行のお金を少なからず融通したことが書かれていた」
「え、その話って」
「そう、由美子さんの話に似てるでしょ」
ミコが頷きながら言った。
「でも、それが何で由美子さんが騙されたことと結びつくんですか」
「その女性の様子がおかしいと上司に報告したのが由美子さんで、実はその女性は竹下副頭取の妹だったんだ」
「えええええっ、マジですか。わあ」
タケルは驚きのあまり勢いよく立ち上がり、コーヒーをこぼしてしまった。
「はあ、どんくさいやっちゃのう」
ウルラが呆れたように言った。
「うるさい。へええ、副頭取の妹ですか」
タケルが慌ててハンカチで机の上を拭きながら言った。
「ああ、その女性は副頭取の父親が再婚した相手との間にできた娘だったらしく、年齢は大分離れていたらしいが」
阿満野が机を離れ、ソファーの方に移動した。
「でも、兄妹仲は良かったみたいよ。特に竹下副頭取はそれはもう可愛がっていたらしいわ。噂ではその女性がまだ新人だった頃、わざわざ支店の飲み会に兄だからって強引に参加したことがあるんですって」
ミコもソファーに移動した。いつの間にかソファーの前の小さなテーブルの上にスナック菓子の袋が広げられていた。ミコが阿満野の横からその菓子をつまんで口に入れた。
「そんなことまで分かるんですか」
タケルが感心して言った。
「いや、はは、流石にそこまでは記録には書いてないよ。それはミコの人脈から仕入れた情報だ。よく覚えておけよ、女性の情報網は侮れないぞ」
阿満野が手をはたき、お菓子の屑を下に落とした。ミコは笑っていたが、何も言わなかった。
「でも、それって由美子さんは何も悪くないと思いますけど」
タケルが首をかしげた。
「あかんな、お前は。やっぱり、人の心っちゅうのが分かってへんな」
ウルラがため息混じりに言った。
「な、なんっ、人でもないお前に・・・」
タケルは大きな声で文句を言ったが、心の何処かで図星をつかれた思いもあり、言葉が続かなかった。
「そうだな、副頭取にしたら可愛がっていた妹が死んだら、筋違いとは分かっていても由美子さんを恨んでしまうかもな」
阿満野がため息混じりに呟いた。
「じゃあ、副頭取が乾に命じたんですか」
「いや、それは断言できないな。ただ、乾は由美子さんの事件を手土産に副頭取の下に入った。直接的な指示はしていないとしても、乾の行動に繋がる何かを示唆はしていたんじゃないかな」
「そうですか、それが原因ですか」
由美子の静かな声がした。
暫くは誰も何も言えなかった。
「私は大丈夫です。そんなことがあったんですね。確かに、それなら恨まれるかもしれませんね」
淡々と話す由美子の声が、タケルにはかえって辛く感じられた。
「でも、それは完全に逆恨みですよ。由美子さんが悪いことなんて何もないですよ」
「ありがとう。貴方は優しい人ですね」
由美子が寂しそうに言った。
「あの、由美子さん。由美子さんが騙された理由は、多分さっきの話で合ってると思うんだけど、それでも乾に聞いてみるかい」
阿満野が由美子に優しく聞いた。
「・・・そうね、聞きたいわ。直接確かめたい」
由美子がはっきりと答えた。
「分かった。これ以上調べても何も出てこないだろうし、証拠も出てこないだろうから、あとは直接あたるしかないか。ミコ、TGIの滝川会長との面談は録音しているよな」
「ええ、録音してます」
「じゃあ、それを使って話をするか」
阿満野が言った時、ウルラが声を出した。
「乾に会うなら十分気いつけなあかんで」
ウルラの声を聞いてタケルはさっきの食堂で感じた重く暗い空気とエレベーターから漏れる黒い霞を思い出した。
「うん、それはどういうことだ」
阿満野がタケルの方を見て聞いてきた。タケルは食堂で鳥肌が立ったこと、黒い霞を見たエレベーターには確かに乾と呼ばれた人物が乗っていたことを阿満野に伝えた。
「わし、あんな禍々しい気いを感じたんは、ほんまに久しぶりやわ。あれの相手は、ちょっと大変かもしれへん」
ウルラが少し弱気な発言をした。
「へえ、そんな相手がいるのか。それは面白そうだな。なあ、星」
オフィスの扉が開き、大柄の男と対照的に小柄な女性が続いて入ってきた。
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