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先輩
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「えっ、何でスカジャン、何でゴスロリ」
タケルはオフィスに入ってきた男と、その後ろに隠れるようにしてこちらを見ている女を見て驚いた。男はスカジャンにジーパンをはき、髪型はリーゼント、女は所謂ゴスロリと称されるフリルのついたヒラヒラした黒いドレスを着ていた。およそ銀行の本店には決していない、いるはずもない服装をしていた。
「へええ、こいつが新人か。なるほど、見えてるんだ」
男はタケルの前に立ち、興味深そうにタケルを上から下まで眺め回した。
「な、何ですか。ミコさん、この人、誰ですか」
タケルは男の圧に押され、体を反らせながらミコに尋ねた。
「そいつは賀来龍二、そっちの女性は蘆矢星、星と書いてセイだ。二人とも真霊課の課員だ。タケルの先輩だよ」
阿満野が笑いを堪えながら説明した。
「俺は龍二、よろしくな。まあ、俺達がちゃんと見えてるなら合格だ」
豪快に笑いながら龍二がタケルの肩を叩いた。
「あ、ああ、はい、よろしくお願いします。あ、あの、ちゃんと見えてるって、どういうことですか」
タケルは先輩と聞いて改めて二人を見たが、想像していた先輩像とのギャップの大きさに戸惑っていた。
「タケル、お前の目には二人がどんな風に見えているんだ」
「え、あの、スカジャンとリーゼント、それとゴスロリですけど・・・」
阿満野に聞かれ、タケルが答えた。
「そうだろう。その通りだ。だが、実は周りの普通の人達には二人はスーツ姿に見えているんだ」
阿満野が笑いを噛み殺し言った。
「えっ、え、えっ」
「あははは、驚いたろ。実は星の力なんだ。星は陰陽師の血を受け継いでいて、その術で二人はスーツを着ているように見えるんだ。それに付け加えると、龍二の髪はリーゼントじゃなく、ソフトモヒカンになってる。まあ、幻術ってところかな。だから、タケルが幻術に惑わされなかったってことで合格って言ったんだ」
阿満野の説明を聞いてもタケルには信じられなかった。
「本当ですか」
タケルが星に尋ねた。
「・・・はい、・・・ごめんなさい」
星が俯き、とても小さな声で答えた。
「星は極度の人見知りでな。一人でも十分に徐霊ができるんだけど、他の人と話せないので、龍二とペアになってもらっているんだ」
「それに、俺は堅苦しいスーツが嫌いなんで、星の術は有り難い」
龍二が阿満野の説明に付け足した。
「ところで、さっき関西弁が聞こえていたけど、誰が話してたんだ。最初はタケルかと思ったんだが」
龍二が部屋の中を見回した。
「わしや、わし。ウルラ様や」
タケルの胸元でウルラが声を出した。
「お、何だこれ。喋ってる、面白えな」
龍二がウルラに顔を近づけた。
「それがタケルの道具だ。面白いだろ」
「わしは道具ちゃう。タケルの、・・・ええっと、何やったかな、ええ、バ、そ、そうやバディやバディ。こいつは自分の力もその使い方も知らんひよっこやから、わしが面倒見てやってるんや」
ウルラが得意気に言った。タケルの目には胸を張ったウルラの姿が見えるようだった。
「あら、星ちゃんが、あんな近くに」
ミコが驚きの声を上げた。星がタケルのすぐ近くまで寄り、じっとウルラを見つめていた。
「・・・ほ、欲しい。これ、下さい」
星が手をだしウルラを触った。その目は欲しいおもちゃを見つけた子どものようにキラキラ輝いていた。
「いや、そ、それは」
タケルはそう言いながらも、心の中では少しだけウルラを渡してもいいかと思った。
「ああ、今、こいつ、わしを渡そうって思ったで」
ウルラが抗議の声を上げた。
「いや、ち、違う。お前、何言ってる」
タケルが慌てて否定した。
「嘘や、わしにはお前の考えてることが分かるって言うたやろ。こいつ最悪や」
「うるさい、うるさい。本当に星さんに渡すぞ」
タケルは怒りながらも、心の中では悪かったかなと反省した。
「やっぱり駄目ですか」
明らかに落胆した様子で星が肩を落とした。
「そうね、ウルラはタケルさんには必要なものなの。星ちゃんのコレクションにはならないわ」
ミコが星に近寄り、優しく諭した。星は頷いたが、唇を尖らせ、頬を膨らませていた。目には涙が溜まっていた。タケルはその幼さに戸惑った。
「お前、星を馬鹿にしてるけど、今のお前では星に勝てへんで」
いきなり頭のなかにウルラの声が響いた。タケルはまたかとうんざりしながらも、ウルラがそういう星の力に対し興味を持たずにはいられなかった。
「さて、そろそろ本題に入ろうぜ。さっき聞こえた禍々しい気の奴って誰だ。一体何が起きてるんだ」
龍二が自分の机に座り聞いてきた。
「ああ、それは実は・・・」
阿満野が、タケルが初仕事で徐霊した由美子に起きたことについて調べていること、その件に執行役員の乾が絡んでいること、そしてさっきタケルとウルラが食堂で感じた禍々しい気と黒い霞のことを二人に説明した。タケルは話を聞くにつれ龍二の顔が嬉しそうに崩れていくのを見て、ちょっと引いてしまった。
「うほお、それ、めっちゃ面白そうじゃん。俺がやりたい、なあ、俺に譲ってくれよ、タケル」
龍二がタケルに向かって言った。タケルはなんと答えていいか分からず苦笑いしていた。
「駄目だ、龍二。これはタケルの初めての仕事だ。勿論、龍二と星にも手伝ってもらうが、最後はタケルに締めてもらう。いいな」
阿満野が龍二を嗜め、続けた。
「今、乾をメールで呼び出した。今夜十二時、食堂で対決だ」
タケルはそれを聞いたとたん、急に自分の体が緊張し小刻みに震えだしたことに驚き、戸惑いを覚えた。
タケルはオフィスに入ってきた男と、その後ろに隠れるようにしてこちらを見ている女を見て驚いた。男はスカジャンにジーパンをはき、髪型はリーゼント、女は所謂ゴスロリと称されるフリルのついたヒラヒラした黒いドレスを着ていた。およそ銀行の本店には決していない、いるはずもない服装をしていた。
「へええ、こいつが新人か。なるほど、見えてるんだ」
男はタケルの前に立ち、興味深そうにタケルを上から下まで眺め回した。
「な、何ですか。ミコさん、この人、誰ですか」
タケルは男の圧に押され、体を反らせながらミコに尋ねた。
「そいつは賀来龍二、そっちの女性は蘆矢星、星と書いてセイだ。二人とも真霊課の課員だ。タケルの先輩だよ」
阿満野が笑いを堪えながら説明した。
「俺は龍二、よろしくな。まあ、俺達がちゃんと見えてるなら合格だ」
豪快に笑いながら龍二がタケルの肩を叩いた。
「あ、ああ、はい、よろしくお願いします。あ、あの、ちゃんと見えてるって、どういうことですか」
タケルは先輩と聞いて改めて二人を見たが、想像していた先輩像とのギャップの大きさに戸惑っていた。
「タケル、お前の目には二人がどんな風に見えているんだ」
「え、あの、スカジャンとリーゼント、それとゴスロリですけど・・・」
阿満野に聞かれ、タケルが答えた。
「そうだろう。その通りだ。だが、実は周りの普通の人達には二人はスーツ姿に見えているんだ」
阿満野が笑いを噛み殺し言った。
「えっ、え、えっ」
「あははは、驚いたろ。実は星の力なんだ。星は陰陽師の血を受け継いでいて、その術で二人はスーツを着ているように見えるんだ。それに付け加えると、龍二の髪はリーゼントじゃなく、ソフトモヒカンになってる。まあ、幻術ってところかな。だから、タケルが幻術に惑わされなかったってことで合格って言ったんだ」
阿満野の説明を聞いてもタケルには信じられなかった。
「本当ですか」
タケルが星に尋ねた。
「・・・はい、・・・ごめんなさい」
星が俯き、とても小さな声で答えた。
「星は極度の人見知りでな。一人でも十分に徐霊ができるんだけど、他の人と話せないので、龍二とペアになってもらっているんだ」
「それに、俺は堅苦しいスーツが嫌いなんで、星の術は有り難い」
龍二が阿満野の説明に付け足した。
「ところで、さっき関西弁が聞こえていたけど、誰が話してたんだ。最初はタケルかと思ったんだが」
龍二が部屋の中を見回した。
「わしや、わし。ウルラ様や」
タケルの胸元でウルラが声を出した。
「お、何だこれ。喋ってる、面白えな」
龍二がウルラに顔を近づけた。
「それがタケルの道具だ。面白いだろ」
「わしは道具ちゃう。タケルの、・・・ええっと、何やったかな、ええ、バ、そ、そうやバディやバディ。こいつは自分の力もその使い方も知らんひよっこやから、わしが面倒見てやってるんや」
ウルラが得意気に言った。タケルの目には胸を張ったウルラの姿が見えるようだった。
「あら、星ちゃんが、あんな近くに」
ミコが驚きの声を上げた。星がタケルのすぐ近くまで寄り、じっとウルラを見つめていた。
「・・・ほ、欲しい。これ、下さい」
星が手をだしウルラを触った。その目は欲しいおもちゃを見つけた子どものようにキラキラ輝いていた。
「いや、そ、それは」
タケルはそう言いながらも、心の中では少しだけウルラを渡してもいいかと思った。
「ああ、今、こいつ、わしを渡そうって思ったで」
ウルラが抗議の声を上げた。
「いや、ち、違う。お前、何言ってる」
タケルが慌てて否定した。
「嘘や、わしにはお前の考えてることが分かるって言うたやろ。こいつ最悪や」
「うるさい、うるさい。本当に星さんに渡すぞ」
タケルは怒りながらも、心の中では悪かったかなと反省した。
「やっぱり駄目ですか」
明らかに落胆した様子で星が肩を落とした。
「そうね、ウルラはタケルさんには必要なものなの。星ちゃんのコレクションにはならないわ」
ミコが星に近寄り、優しく諭した。星は頷いたが、唇を尖らせ、頬を膨らませていた。目には涙が溜まっていた。タケルはその幼さに戸惑った。
「お前、星を馬鹿にしてるけど、今のお前では星に勝てへんで」
いきなり頭のなかにウルラの声が響いた。タケルはまたかとうんざりしながらも、ウルラがそういう星の力に対し興味を持たずにはいられなかった。
「さて、そろそろ本題に入ろうぜ。さっき聞こえた禍々しい気の奴って誰だ。一体何が起きてるんだ」
龍二が自分の机に座り聞いてきた。
「ああ、それは実は・・・」
阿満野が、タケルが初仕事で徐霊した由美子に起きたことについて調べていること、その件に執行役員の乾が絡んでいること、そしてさっきタケルとウルラが食堂で感じた禍々しい気と黒い霞のことを二人に説明した。タケルは話を聞くにつれ龍二の顔が嬉しそうに崩れていくのを見て、ちょっと引いてしまった。
「うほお、それ、めっちゃ面白そうじゃん。俺がやりたい、なあ、俺に譲ってくれよ、タケル」
龍二がタケルに向かって言った。タケルはなんと答えていいか分からず苦笑いしていた。
「駄目だ、龍二。これはタケルの初めての仕事だ。勿論、龍二と星にも手伝ってもらうが、最後はタケルに締めてもらう。いいな」
阿満野が龍二を嗜め、続けた。
「今、乾をメールで呼び出した。今夜十二時、食堂で対決だ」
タケルはそれを聞いたとたん、急に自分の体が緊張し小刻みに震えだしたことに驚き、戸惑いを覚えた。
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