あけぼの銀行総務部真霊課

TAKA

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対決

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「わっ」

 龍二が男のパンチを顔面に受け、派手な音を立てタケルの後ろに吹っ飛んだ。

「えっ」

 タケルは、龍二が余りにも簡単に吹っ飛んだので驚き、自分でも顔が引きつっているのが分かった。目の前の乾の顔が、嬉しそうに崩れていた。

「おやおや、偉そうに言ってた割には、簡単に吹っ飛んだな」

 乾が笑いを堪えながら言った。

「ちょっと、龍二さん、何時まで寝たふりしてるの。さっさと起きなさい」

 ミコが華麗に男のパンチを避けながら、軽く嗜める感じで言った。星はちょこまかと動き回り、上手く龍二を殴った男の攻撃をかわした。二人の動きには余裕すら感じられた。

「ははは、だってこれで大手をふって人を殴れるんだろ。正当防衛だよな。そう思うと嬉しくって」

 龍二が背中で跳ね、床から立ち上がった。

「おい。先にあいつをやれ」

 乾が龍二を顎で示し、男達に言った。男達が龍二に襲いかかった。

「ああああ、はっ、はっあ」

 龍二が笑いの混じった雄叫びを上げ、男達に真っ正面から向かっていった。

「うわっ」

 龍二の見事なドロップキックを受け、男が向こうまで吹っ飛び、テーブルが大きな音を立てた。続いて龍二はもう一人の男を持ち上げ、背中から床に叩きつけた。二人ともその場で動かなくなった。

「おい、何やってる」

 乾が苛ついたよう舌打ちし、マジシャンのように手を振った。直ぐに二人の男が立ち上がったが、その立った姿勢が、まるで上から紐で吊られているような感じだった。

「な、何か気持ち悪い」

 その不自然な姿勢を見て、タケルは操り人形のようだと思った。

「行け」

 乾の掛け声を合図に、二人がまた襲いかかってきた。龍二が殴りかかってきた男の拳を軽々とかわした。男はそのまま龍二の後ろのテーブルに拳を叩きつけた。

 ドガン
 ボギャッ

 何かが破裂するような音と砕ける音が辺りに響き、テーブルが半分に折れた。

「何で」

 タケルは、男の右の拳が砕け、骨が飛び出し、血塗れになっていることに気がついた。だが、男は気にする様子もなく、龍二を追い続けた。

「危ない」
「きゃっ」

 ミコの警告の声と星の悲鳴が重なり聞こえた。タケルが横を見ると、もう一人の男が目の前に迫っていた。

「うわあ」
「あかん、気合い入れえ」

 タケルが悲鳴を上げると同時に、ウルラが叫んでいた。タケルは男に左頬を殴られ、吹っ飛んだ。男の拳がタケルに当たった瞬間、爆発したように光が弾けた。

「痛ってえ」

 タケルは左頬を押さえ男の方を見て驚いた。男の右の拳は砕け、血塗れになっていた。

「な、な、何で」

 タケルは慌てて自分の左頬をもう一度触ったが、顔には傷がなく、何が起きたのか分からなかった。

「あいつら、拳に霊力を乗せてるんや。それで殴りよる。そんなんで殴ったら、殴られた方はたまらんけど、殴った方もただでは済まんわ。さっきはやばい思うて、わしが咄嗟に霊力の壁を作ったんや。だから、お前の顔は無事やったけど、あいつの拳は砕けたっちゅう訳や。あのままやったら、お前の顔、今頃ぐちゃぐちゃになってたで」

 ウルラが言った。タケルは男達が自分の拳を犠牲にしてまで襲いかかってくる理由が分からず、頭が混乱した。タケルを襲った男は、今度はミコに向かって行った。

「ミコさん、気をつけて。そいつらの拳には霊力が乗ってて、触ると危ないから」

 タケルが大声で注意した。

「私が押さえます」

 そう言って星がミコの前に立った。

「ひい、ふう、みい・・・」

 星が数を数えながら、手に持った扇で地面を突いていった。男が星に襲いかかったが、星はぎりぎりで避けながら、地面を突き続けた。

「よお、いい、むう、なっ、オンマカカカラキャエイソワカ」

 星は七つまで数え、扇で地面を突いたあと、扇を胸の前に持ち、大声で呪文を叫んだ。すると地面の突かれたところが光を放ち、その光が男の手足に絡み、男の動きを封じた。その光は北斗七星の形をしていた。男は必死に動こうとしているが、全く身動きができないようだった。

「さっすが、星。じゃあ、俺も」

 もう一人の男の相手をしながら、龍二が言った。龍二は男の霊力が乗った攻撃を交わし、何度も男を投げ飛ばしていたが、男はその都度、妙な姿勢で立ち上がり、しつこく龍二を追いかけていた。

「縛」

 龍二が腰に巻いていた紐を取り、男に向かって投げ、気合をかけると、紐が独りでに男を縛り、男の動きを封じた。

「さてと、後は任せたぞ。タケル」

 龍二は肩で息をしていた。

「えっ、えっ、えええ、後は任せるって」 

 タケルは龍二の言葉に驚いた。

「あほっ、二人とも男を抑えるのに手え一杯やろ。お前がやるしかないんや」

 ウルラがタケルを叱った。

「そうね、私ではあれの相手は難しそうだわ。タケルとウルラに任せるわ。私はサポートに回るから」

 ミコがタケルの側に来て言った。

「えええええ、そ、そんな、ミコさんがやって下さいよ。か、鏡で何とかできないんですか」

 タケルは自分が情けないことを言っているのは分かっていたが、自分が乾の相手ができるとはとても思えなかった。

「しっかりせえ、タケル。きよるぞ」

 ウルラが叫んだ。

「ふん。役立たずどもが。・・・仕方がない、俺がやるか」

 乾がそう言いながら、前に出てきた。その圧倒的な禍々しい気を前に、タケルは体の震えを抑えることができなかった。
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