1 / 31
プロローグ
プロローグ
しおりを挟む
僕こと白峰空太の耳には人の悪意が聞こえてくる。
悪意が聞こえてくるといっても、超常的な力に目覚めて、突然聞こえるようになったというわけではない。物心ついた時からずっと聞こえている。
悪意が聞こえるという特異な体質のためか僕は小学校、中学校に通っている間はほぼすべての時間を一人で過ごしてきた。
高校に入学してからもずっと一人で過ごしているし、高校一年の夏休み明け初日である今日も僕は机で読書をしながら一人で過ごしている。
ちなみに読書を一人でいる理由に使っているのは、他人に意識を向けないで会話もしないで済む手っ取り早い方法であるからだ。
そうして、今日も誰にも興味を持たれることなく一人で過ごせるだろうとそう考えていた最中、
「ねえねえ、何読んでるの?」
と声をかけられた。
「あ、いや……」
声を掛けられるということ自体が久しぶりだったため、思わず反応してしまう。
瞬間、後悔する。これでまた、見知らぬ人間の悪意を聞くことになってしまうと。
だが、目の前の人間からは悪意は聞こえてこなかった。
人の悪意を聞くには二つの条件がある。
一つ目の条件は、僕が人に何らかの意識や感情を向けることで、二つ目の条件は、人と会話をすることだ。だからこそ僕は教室では一人で過ごす方法として読書を使い、他人に意識を向けることがないようにしていた。
だからこそ、後悔していた。突然の来訪という形だったとはいえ、会話をしてしまったから。そして、話しかけてきた相手が男子よりもたちの悪い悪意を持っている女子であったから。
けれども、目の前の女子からは悪意が聞こえてこない。そんなはずはない。だって、どんな人間だって等しく悪意を持っているはずだ。悪意が聞こえない人間なんているはずがない。だって、それが人間だから。少なくとも、僕が今まで出会ってきた人間はみんな悪意を持っていた。だからこそ、目の前の女の子から悪意が聞こえないことを不思議に思いながら女の子の方を見てみる。何かを待っているような、そんな顔をしていた。そこで僕は、彼女になんの本を読んでいるのかを聞かれたことを思い出した。
「……有名な、作家が書いたものです……よく、メディア化もされてる本を書いている作家の……」
「へえ、そうなんだ」
僕が本にかけていたブックカバーを外し、本のタイトルと作者がわかるように表紙を向けながら説明すると彼女はそんなふうに呟いた。
目の前の女の子の質問にきちんと答えるのは、質問に答えなかった後が怖いからだ。
目の前の女の子は、童顔ではあるが大きな瞳を持ち、ロングのサラサラとした髪をたなびかせている、背が高い女子だ。美少女というより美人な感じだった。そんな彼女はきっとクラスの中心的存在……すなわち陽キャだ。
それに対して僕は、はたから見たらクラスで一人も友達を作らずにずっと本を読んでいる陰キャだ。陽キャの質問に答えなかった陰キャに待っているのはクラスメイトからのさらなる迫害だ。きっと今まで以上に悪意を向けられるだろう。それは、たとえ聞こえていなくても怖いのだ。だから僕はこうして彼女の質問にきちんと答えているのだ。
「私もその作家の本持ってるよ、面白いよね」
「え?」
彼女からの返答に思わず、素っ頓狂な声が出る。だってこの本はメディア化された方こそは中高生にもわかるような構成になっているらしいが、本の中身自体は中高生には難しい内容で書かれているからだ。そんな本を読んでいるのなんてクラスの中で意識的に一人で過ごしている僕だけだと思っていたのに……
「なんで驚くの?」
「い……いや、その本ちょっと難しいから……」
「確かに難しいよね。ドラマとかはわかりやすくなってるけど」
「……そうですね」
僕はドラマの方は見ていないのだが、本の内容自体は知っているのでそう答えておく。これでも、問題はないはずだ。
「私はドラマが面白くてこの作家の本を読み始めたんだよね~。そしたら少し難しいけど面白くて。あっという間に一冊読み終えちゃった」
「へえ……」
そう答えながら、僕はこの会話の終着点を探っていた。
陰キャと陽キャの会話においては、答えなかった場合だけでなく、長く会話を続けてしまった場合も地獄が待っている。
そんな考えから、僕は彼女との会話を切り上げる方向にもっていこうとしたとき、彼女が
「じゃあ、これから毎日この作家について語り合いましょう。このクラスの数少ないこの本の作家のファンとして」
と、机の上に置かれていた僕の本を手に取ってそんな爆弾発言を発した。
彼女からはこの会話中、ずっと悪意は聞こえてこなかった。
悪意が聞こえてくるといっても、超常的な力に目覚めて、突然聞こえるようになったというわけではない。物心ついた時からずっと聞こえている。
悪意が聞こえるという特異な体質のためか僕は小学校、中学校に通っている間はほぼすべての時間を一人で過ごしてきた。
高校に入学してからもずっと一人で過ごしているし、高校一年の夏休み明け初日である今日も僕は机で読書をしながら一人で過ごしている。
ちなみに読書を一人でいる理由に使っているのは、他人に意識を向けないで会話もしないで済む手っ取り早い方法であるからだ。
そうして、今日も誰にも興味を持たれることなく一人で過ごせるだろうとそう考えていた最中、
「ねえねえ、何読んでるの?」
と声をかけられた。
「あ、いや……」
声を掛けられるということ自体が久しぶりだったため、思わず反応してしまう。
瞬間、後悔する。これでまた、見知らぬ人間の悪意を聞くことになってしまうと。
だが、目の前の人間からは悪意は聞こえてこなかった。
人の悪意を聞くには二つの条件がある。
一つ目の条件は、僕が人に何らかの意識や感情を向けることで、二つ目の条件は、人と会話をすることだ。だからこそ僕は教室では一人で過ごす方法として読書を使い、他人に意識を向けることがないようにしていた。
だからこそ、後悔していた。突然の来訪という形だったとはいえ、会話をしてしまったから。そして、話しかけてきた相手が男子よりもたちの悪い悪意を持っている女子であったから。
けれども、目の前の女子からは悪意が聞こえてこない。そんなはずはない。だって、どんな人間だって等しく悪意を持っているはずだ。悪意が聞こえない人間なんているはずがない。だって、それが人間だから。少なくとも、僕が今まで出会ってきた人間はみんな悪意を持っていた。だからこそ、目の前の女の子から悪意が聞こえないことを不思議に思いながら女の子の方を見てみる。何かを待っているような、そんな顔をしていた。そこで僕は、彼女になんの本を読んでいるのかを聞かれたことを思い出した。
「……有名な、作家が書いたものです……よく、メディア化もされてる本を書いている作家の……」
「へえ、そうなんだ」
僕が本にかけていたブックカバーを外し、本のタイトルと作者がわかるように表紙を向けながら説明すると彼女はそんなふうに呟いた。
目の前の女の子の質問にきちんと答えるのは、質問に答えなかった後が怖いからだ。
目の前の女の子は、童顔ではあるが大きな瞳を持ち、ロングのサラサラとした髪をたなびかせている、背が高い女子だ。美少女というより美人な感じだった。そんな彼女はきっとクラスの中心的存在……すなわち陽キャだ。
それに対して僕は、はたから見たらクラスで一人も友達を作らずにずっと本を読んでいる陰キャだ。陽キャの質問に答えなかった陰キャに待っているのはクラスメイトからのさらなる迫害だ。きっと今まで以上に悪意を向けられるだろう。それは、たとえ聞こえていなくても怖いのだ。だから僕はこうして彼女の質問にきちんと答えているのだ。
「私もその作家の本持ってるよ、面白いよね」
「え?」
彼女からの返答に思わず、素っ頓狂な声が出る。だってこの本はメディア化された方こそは中高生にもわかるような構成になっているらしいが、本の中身自体は中高生には難しい内容で書かれているからだ。そんな本を読んでいるのなんてクラスの中で意識的に一人で過ごしている僕だけだと思っていたのに……
「なんで驚くの?」
「い……いや、その本ちょっと難しいから……」
「確かに難しいよね。ドラマとかはわかりやすくなってるけど」
「……そうですね」
僕はドラマの方は見ていないのだが、本の内容自体は知っているのでそう答えておく。これでも、問題はないはずだ。
「私はドラマが面白くてこの作家の本を読み始めたんだよね~。そしたら少し難しいけど面白くて。あっという間に一冊読み終えちゃった」
「へえ……」
そう答えながら、僕はこの会話の終着点を探っていた。
陰キャと陽キャの会話においては、答えなかった場合だけでなく、長く会話を続けてしまった場合も地獄が待っている。
そんな考えから、僕は彼女との会話を切り上げる方向にもっていこうとしたとき、彼女が
「じゃあ、これから毎日この作家について語り合いましょう。このクラスの数少ないこの本の作家のファンとして」
と、机の上に置かれていた僕の本を手に取ってそんな爆弾発言を発した。
彼女からはこの会話中、ずっと悪意は聞こえてこなかった。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
僕《わたし》は誰でしょう
紫音みけ🐾新刊2月中旬発売!
青春
※第7回ライト文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。
【あらすじ】
交通事故の後遺症で記憶喪失になってしまった女子高生・比良坂すずは、自分が女であることに違和感を抱く。
「自分はもともと男ではなかったか?」
事故後から男性寄りの思考になり、周囲とのギャップに悩む彼女は、次第に身に覚えのないはずの記憶を思い出し始める。まるで別人のものとしか思えないその記憶は、一体どこから来たのだろうか。
見知らぬ思い出をめぐる青春SF。
※表紙イラスト=ミカスケ様
結婚相手は、初恋相手~一途な恋の手ほどき~
馬村 はくあ
ライト文芸
「久しぶりだね、ちとせちゃん」
入社した会社の社長に
息子と結婚するように言われて
「ま、なぶくん……」
指示された家で出迎えてくれたのは
ずっとずっと好きだった初恋相手だった。
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
ちょっぴり照れ屋な新人保険師
鈴野 ちとせ -Chitose Suzuno-
×
俺様なイケメン副社長
遊佐 学 -Manabu Yusa-
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
「これからよろくね、ちとせ」
ずっと人生を諦めてたちとせにとって
これは好きな人と幸せになれる
大大大チャンス到来!
「結婚したい人ができたら、いつでも離婚してあげるから」
この先には幸せな未来しかないと思っていたのに。
「感謝してるよ、ちとせのおかげで俺の将来も安泰だ」
自分の立場しか考えてなくて
いつだってそこに愛はないんだと
覚悟して臨んだ結婚生活
「お前の頭にあいつがいるのが、ムカつく」
「あいつと仲良くするのはやめろ」
「違わねぇんだよ。俺のことだけ見てろよ」
好きじゃないって言うくせに
いつだって、強引で、惑わせてくる。
「かわいい、ちとせ」
溺れる日はすぐそこかもしれない
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
俺様なイケメン副社長と
そんな彼がずっとすきなウブな女の子
愛が本物になる日は……
神様がくれた時間―余命半年のボクと記憶喪失のキミの話―
コハラ
ライト文芸
余命半年の夫と記憶喪失の妻のラブストーリー!
愛妻の推しと同じ病にかかった夫は余命半年を告げられる。妻を悲しませたくなく病気を打ち明けられなかったが、病気のことが妻にバレ、妻は家を飛び出す。そして妻は駅の階段から転落し、病院で目覚めると、夫のことを全て忘れていた。妻に悲しい思いをさせたくない夫は妻との離婚を決意し、妻が入院している間に、自分の痕跡を消し出て行くのだった。一ヶ月後、千葉県の海辺の町で生活を始めた夫は妻と遭遇する。なぜか妻はカフェ店員になっていた。はたして二人の運命は?
――――――――
※第8回ほっこりじんわり大賞奨励賞ありがとうございました!
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
優しい雨が降る夜は
葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン
無自覚にモテる地味子に
余裕もなく翻弄されるイケメン
二人の恋は一筋縄ではいかなくて……
雨降る夜に心に届いた
優しい恋の物語
⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡
風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格
雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる