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第一章
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彼女の爆弾発言が投下されてから早数日が経過していた。
その間に起こったクラス内のイベントとしては席替えくらいで、僕はこの席替えで窓側の一番前の席を獲得していた。
運がよかった。
僕が窓側の一番前の席を獲得したことによって僕と彼女――名前は白峰茜――との間で行われている会話に注目する生徒が減ったのだ。
これがもし、下手に一番後ろだったり、中央付近の席だったりしたら陰キャと陽キャというなんとも珍しい組み合わせで行われている会話は今よりももっと注目されていたはずだ。
そして何よりも僕が後ろ側や横側に意識を向けない限り悪意が聞こえないというのもよかった。
だがそれでも、陰キャと陽キャの会話は珍しいらしく少ない数ではあるが一定数の生徒は僕と彼女の会話に目を向けている。
実際、今の僕の悩みはいかにして彼女との関係を断ち切ろうかということであった。
そうして、昼休み。例にもれず今日も彼女――白峰茜――は僕の席の前までやってきた。
今日は、僕が最初に見ているといった作家が出した六作目の本を手に持っている。
四冊目の本を持ってきたときくらいから疑問ではあったが、彼女はいったいこの作家の本を何冊持っているのだろう。
そんなことを考えていると、彼女は口を開いた。
「今日はこの本について話そう。あ、空太君はこの本読んだことある?」
「あ、あります……この本って六作目ですよね……僕の好きな作家の出した」
「うん、そうだよ。この本もすっごい面白いよね~」
「……そうですね」
実際、この作家の本を面白いと思ったことはある。だが今は、クラスで一人で過ごすための方法として読書を使っているだけなのであまり面白いとは思っていない。面白いと思っていないにもかかわらず本を読んでいるのは中高生には難しい本を読むことで僕に話しかけてくる人間がいなくなるようにするためである。
あの時だって、彼女にこの本を見せることで彼女が僕から離れ、話しかけてくることもなくなるだろうと期待してこの本を見せた。
そうして今のような事態となっているだけである。
「この本の面白いところは何といっても推理する探偵の泥臭さだよね!警察官とか周りの人間には『こんな簡単な事件も解けないのか?』とか、「やっぱり馬鹿だな、お前ら」とかそんなことばっかり言ってるのに自分は必死になって犯人を追い詰めるための証拠を集めてるところとか!」
「そうですね、確かに、そこが面白いと思います」
目をキラキラさせながら僕に小説の面白さを語る彼女に僕はそう返す。
「空太君はこの小説のどこら辺が面白いと思った?」
「うーん、そうですね……やっぱり、警察官側の視点ですかね。探偵側に馬鹿にされ続けても難しい事件はやっぱり探偵に任せた方が早期解決につながるって信頼しているところとか……警察官が被害者側に寄り添っているところとか……」
僕は努めて彼女とは違う面白い視点を語る。同じところを面白いと言わないのは同じ部分を面白いなんて言ってしまった場合、彼女から悪意が聞こえる可能性があるからだ。
大多数の人間はそんなことで……と思うかもしれないし実際に言うかもしれない。だが、自分とは違う意見が欲しいのに同じ意見ばかり出しやがって……といった風に理不尽な悪意を持つものは少なくはない。
そんな小さな努力の甲斐があってか今まで彼女から悪意が聞こえたりしたことはない。
「空太君はそこが面白いって思ったんだ……そっか、そういう視点もあるよね」
彼女はうんうんと頷きながら「なるほどなるほど~」とつぶやいている。
「やっぱり、空太君と本の話をするの楽しいな」
「そ、そうですか?」
「うん。だって空太君と話していると私の見た本の自分とは違う視点からの面白さを聞くことができるから」
「なら……良かった……」
思わず、そんな言葉が呟く。
少なくとも彼女の持ってくる小説について彼女と違う部分の面白さを語ることによって彼女が楽しいと思ってくれているのならよかった。
悪意が聞こえる相手と会話するのはやはりしんどい。
そうして僕らが、各自で持参した昼食を食べながら自分が語った小説の面白い部分について語っていると昼休みの終了五分前を告げるチャイムが鳴った。
「え、もうこんな時間?次の授業の準備しなきゃ」
言いながら、立ち上がり自分の席に向かおうとする彼女は去り際に
「じゃあ、また明日も話そうね」と言ってきた。
その言葉に僕は、明日もこんなことをしなければいけないのかと思った。
その間に起こったクラス内のイベントとしては席替えくらいで、僕はこの席替えで窓側の一番前の席を獲得していた。
運がよかった。
僕が窓側の一番前の席を獲得したことによって僕と彼女――名前は白峰茜――との間で行われている会話に注目する生徒が減ったのだ。
これがもし、下手に一番後ろだったり、中央付近の席だったりしたら陰キャと陽キャというなんとも珍しい組み合わせで行われている会話は今よりももっと注目されていたはずだ。
そして何よりも僕が後ろ側や横側に意識を向けない限り悪意が聞こえないというのもよかった。
だがそれでも、陰キャと陽キャの会話は珍しいらしく少ない数ではあるが一定数の生徒は僕と彼女の会話に目を向けている。
実際、今の僕の悩みはいかにして彼女との関係を断ち切ろうかということであった。
そうして、昼休み。例にもれず今日も彼女――白峰茜――は僕の席の前までやってきた。
今日は、僕が最初に見ているといった作家が出した六作目の本を手に持っている。
四冊目の本を持ってきたときくらいから疑問ではあったが、彼女はいったいこの作家の本を何冊持っているのだろう。
そんなことを考えていると、彼女は口を開いた。
「今日はこの本について話そう。あ、空太君はこの本読んだことある?」
「あ、あります……この本って六作目ですよね……僕の好きな作家の出した」
「うん、そうだよ。この本もすっごい面白いよね~」
「……そうですね」
実際、この作家の本を面白いと思ったことはある。だが今は、クラスで一人で過ごすための方法として読書を使っているだけなのであまり面白いとは思っていない。面白いと思っていないにもかかわらず本を読んでいるのは中高生には難しい本を読むことで僕に話しかけてくる人間がいなくなるようにするためである。
あの時だって、彼女にこの本を見せることで彼女が僕から離れ、話しかけてくることもなくなるだろうと期待してこの本を見せた。
そうして今のような事態となっているだけである。
「この本の面白いところは何といっても推理する探偵の泥臭さだよね!警察官とか周りの人間には『こんな簡単な事件も解けないのか?』とか、「やっぱり馬鹿だな、お前ら」とかそんなことばっかり言ってるのに自分は必死になって犯人を追い詰めるための証拠を集めてるところとか!」
「そうですね、確かに、そこが面白いと思います」
目をキラキラさせながら僕に小説の面白さを語る彼女に僕はそう返す。
「空太君はこの小説のどこら辺が面白いと思った?」
「うーん、そうですね……やっぱり、警察官側の視点ですかね。探偵側に馬鹿にされ続けても難しい事件はやっぱり探偵に任せた方が早期解決につながるって信頼しているところとか……警察官が被害者側に寄り添っているところとか……」
僕は努めて彼女とは違う面白い視点を語る。同じところを面白いと言わないのは同じ部分を面白いなんて言ってしまった場合、彼女から悪意が聞こえる可能性があるからだ。
大多数の人間はそんなことで……と思うかもしれないし実際に言うかもしれない。だが、自分とは違う意見が欲しいのに同じ意見ばかり出しやがって……といった風に理不尽な悪意を持つものは少なくはない。
そんな小さな努力の甲斐があってか今まで彼女から悪意が聞こえたりしたことはない。
「空太君はそこが面白いって思ったんだ……そっか、そういう視点もあるよね」
彼女はうんうんと頷きながら「なるほどなるほど~」とつぶやいている。
「やっぱり、空太君と本の話をするの楽しいな」
「そ、そうですか?」
「うん。だって空太君と話していると私の見た本の自分とは違う視点からの面白さを聞くことができるから」
「なら……良かった……」
思わず、そんな言葉が呟く。
少なくとも彼女の持ってくる小説について彼女と違う部分の面白さを語ることによって彼女が楽しいと思ってくれているのならよかった。
悪意が聞こえる相手と会話するのはやはりしんどい。
そうして僕らが、各自で持参した昼食を食べながら自分が語った小説の面白い部分について語っていると昼休みの終了五分前を告げるチャイムが鳴った。
「え、もうこんな時間?次の授業の準備しなきゃ」
言いながら、立ち上がり自分の席に向かおうとする彼女は去り際に
「じゃあ、また明日も話そうね」と言ってきた。
その言葉に僕は、明日もこんなことをしなければいけないのかと思った。
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