短編集

アア

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僕と彼女と現実

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 最近、奇妙な夢を見るようになった。
 一面に白い世界が広がっている世界に僕、そして僕の隣に僕の彼女がいて、そんな彼女から「――に戻って!」と叫ばれ続ける夢だ。
 どこに戻ればいいのかはノイズがかかったような音が聞こえるだけで聞こえない。
 夢の中で、僕は彼女から離れたり、彼女を避けたりだったり「――に戻って!」と言われるようなことはしていない。ずっと、彼女のそばにいる。
 だが、夢の中の彼女は僕が目を覚ますまでずっと「――に戻って!」と叫び続けている。
 初めは一週間に一回程度しかこの夢を見なかったが、今では二日に一回はこの夢を見ている。
 原因はわからない。
 奇妙な夢を見る原因として、現実で嫌なことがあって精神的に参っているだとか、夢に出てくる特定の相手に対して嫌悪感を抱いているといったものがあるが、僕は精神的に参ってはいないし、彼女に対して嫌悪感を抱いてもいない。
 であるならば、原因は何か?
 そう思い、僕なりに調べてはみてはいるが原因はわかってはいない。
 このまま原因がわからずにずっとこの夢を見ていれば毎日この夢を見ることになるのだろうが、そんなのはごめんだ。彼女に毎日叫ばれ続けるのは少し怖い。
 そう考えた僕は友人に助けを求めることにした。
 
「それで、俺を頼ってきたってわけか」
 昼休み、教室にて友人である三島健太に悩みを明かしているとそんなことを言われた。
「まあ、そうだね」
「しかし、お前がそんな風に悩んでるなんて知らなかったんだが」
「言ってなかったからね」
「いや言えよ」
 三島が僕の頭に軽いチョップを入れてくる。
「友達だろ、少しは頼れよな」
「うん、まあ、考えとくよ……」
 三島が、僕が思っている以上に心配してくれていると理解し、なんだか恥ずかしくなって僕は曖昧に言葉を返した。
「それはそれとして、お前が見るようになった奇妙な夢の原因か……精神的に参ってるわけでも、彼女に対して嫌悪感を抱いてるってわけでもないんだよな?」
「うん」
「じゃあ、彼女と喧嘩したとか?彼女と喧嘩してお前自身は嫌悪感を抱いてはないけど関係に溝ができたとか」
「それもないね。第一彼女と喧嘩なんてしてないし」
 彼女とは付き合い始めてから喧嘩をしたことがない。それ故に彼女が僕との喧嘩によって僕に嫌悪感を抱いているということはあり得ない。
「喧嘩したってわけでもないか……じゃあ、彼女の方がお前に対して不満とか言えないこととかがあったりしてそのことで彼女との距離が微妙に開いちまってるとか?」
「それは……」
 一概にないとは言い切れない。僕なりに彼女のことは理解しているつもりであるが、それは自分の中では、だ。彼女が僕に不満を持っている可能性も僕に言えないことがある可能性もゼロではない。
「あるかもしれない、か……」
 首を縦に振り肯定の意を示す。
 すると三島は
「だったら、俺にはお手上げだな。お前の彼女が考えてることなんて俺にはわかんないし。後は彼女に直接聞いてみろよ」
 と言ってきた。
 三島の性格に限って面倒だから適当に流したというわけではないだろうし、当人同士の問題の場合第三者が介入することでややこしくなることもあるのは確かだろう。
 そう考えた僕は「わかった、ありがとう」とだけ言って三島への相談を切り上げた。
 
 放課後、僕は彼女と一緒に帰宅するべく教室で彼女の部活が終わるのを待っていた。
 彼女は吹奏楽部に属している。
 僕は帰宅部であるため、彼女と一緒に帰宅するためには彼女が部活のある日はこうして暇をつぶしていなければならないのだ。
「まだかな……」
 呟きながら、外を見る。
 外には部活を終え、帰路につく生徒が何人か見えた。
 おそらく、もう少しすれば彼女も来るだろう。
そんなことを考えていると廊下の方から軽快な足音が聞こえてきた。おそらく彼女だろう。
「ごめん、待ったよね」
 ドアを開けながら申し訳なさそうに言ってくる彼女に僕は
「別に、そんなに待ってないよ」
 とある種お決まりのセリフを返す。
 その瞬間、チャイムが鳴った。下校時間五分前を知らせるチャイムだ。
「じゃあ、まあ下校時間も迫ってるし帰ろうか」
「うん」
 そうして僕達は帰路につく。
 いつもであれば、ここで彼女の部活の話や、ネットで見つけた面白い動画の話なんかをするのだが今日は違う。彼女に確認しなければならないことがあるのだ。
「ねえ、ちょっと聞きたいことがあるんだけどいい?」
「うん、良いよ」
「君は、僕に対して言いたいけど言えてないこととか不満とかってある?」
 できるだけ躊躇わないように一息で言い切る。
「急にどうしたの?」
「ああ、いや、ごめん。聞き方っていうか順番っていうか、色々間違えてた。順番に説明するけどいい?」
「うん」
 彼女の同意を得て僕は話始める。
「まず、僕は少し前から奇妙な夢を見るようになったんだ」
「奇妙な夢?」
「そう、奇妙な夢。その夢では君が僕の隣にいるんだけど、ずっと「――に戻って!」って叫び続けているんだ。どこに戻ってほしいのかは聞き取れない。それで、一週間に一回とかだったら別に不思議には思わなかったんだけど最近は二日に一回はその夢を見てる。だから、おかしいと思って三島に相談したら、君が僕に対して何かしらの不満を持ってるんじゃないかって話になって……それで今、あんなことを聞いたんだ」
「そっか……」
 彼女がこちらを心配するような声で言う。
 そんな彼女を少しでも安心させるべく僕は
「夢のことに限ってこんな話をしてるんじゃないんだ。もし、君が今の僕に不満があるのならその不満をなくせるように努力していきたいと思ってる。だからもし不満があるなら教えてほしいんだ」
 と付け加えた。
 僕の言葉に彼女は少しの間をおいて
「……そこまで考えてくれてたんだね、ありがとう。でも大丈夫、私は君に不満なんて持ってないよ」
 と言った。
「本当?」
 思わず聞いてしまう。だって、奇妙な夢を見ている原因が彼女が僕に対して持っている不満であるかもしれないから。
「本当。第一君が真剣に私のことを考えた上で聞いてくれてるのに嘘つくメリットなんてないでしょ」
「まあ、そうだね……」
 確かに、彼女の言うとおりだ。彼女が僕に嘘をつくメリットはない。
 つまり彼女は本当に僕に対して不満を持っていないということになる。
 でも、だとしたら……
「僕の見ている夢の原因って何だろう?」
「あっ、確かに……」
 彼女が僕に対して不満を持っていないのはいい。だが肝心の僕の見ている夢の原因に説明がつかない。僕自身のストレスでもなく、彼女との関係の悪化から来ているわけでもないというのなら一体……そんな風に思考を巡らせていると彼女が
「案外、君が私のことを無意識に気に過ぎていたっていう簡単な理由かもね。私が不満を持っていなかとか満足しているのかとかを無意識に気にしててそれが夢に出てきたみたいな」
 と言ってきた。
「そうなのかな?」
 彼女が唱える仮説はそうかもしれないと思わせるだけの説得力は確かにある。けれどそんなことが原因なのだろうか?
 僕の疑問を察したのか彼女は
「まあ、それが原因だとは言えないけど。そう思っておけばいいんじゃない。気の持ちようによってはその奇妙な夢だって見なくなるかもしれないし」
 と言ってきた。
 僕は疑問を残しながらも彼女の言葉に
「そうだね」
 とだけ言って、僕は彼女と手を繋ぎ、そのまま家まで帰宅した。
 
 家に帰って、ご飯を食べて、適当に明日の準備をして眠りにつくと白い空間の中で僕の隣に彼女がいた。
 また、あの夢か。と思う。
 また、僕はあの訳の分からない叫びを聞かなければならないのだろう。彼女の声であるとはいえ、不快ではあるし目を覚ましたいのだがそう簡単には意識は覚醒させられない。そうして覚悟を決めた時
「現実に戻って!」
 という彼女の叫びが聞こえてきた。
今までノイズのような音がかかっていた部分も含めて全てだ。
「現実に戻って?」
「え?」
 僕が彼女の叫びの言葉を反芻すると彼女はそんな素っ頓狂な声を上げ、そして
「……とど……いた?」
 彼女が掠れた声で呟き、そのまま涙を流してしまった。
 涙を流す彼女を僕はそっと抱き寄せる。
 何が何だかわからない。
 彼女の「現実に戻って!」という叫びの理由も、彼女が涙を流す理由も僕にはわからない。
 でも、それでも、僕には目の前で涙を流す彼女を放っておくという選択肢はなかった。
 
 どれほどの時間が経ったのだろう。
 十分くらいかもしれないし、あるいは一時間かもしれない。
 それほどの時間、彼女は僕の胸の中で涙を流していた。
 そうして、今、彼女はある程度落ち着きを取り戻しているようだった。
「もう、大丈夫?」
 できるだけ優しい声になるように心掛けながら、問いかける。
「うん、大丈夫……」
 彼女が小さな声で呟く。
 小さい声ではあるが先ほどまでのような取り乱した様子ではない。本当に大丈夫なのだろう。
「それじゃあ、聞くね。“現実に戻って”ってどういうこと?」
 僕はいきなり核心に触れる質問をする。
 答えはすぐに返ってきた。
「そのままの意味だよ。あなたが今いる世界は現実世界じゃない。だから現実に戻ってほしいっていうそういうこと」
 彼女の言葉からある程度は推測していたが、こうして言葉として突きつけられるとどうにも否定してしまいたくなる。だが、否定していては話にならないだろう。僕はもう一つ聞くべきことを尋ねる。
「僕がこうして現実じゃない世界で過ごしているのは僕が事故に合って意識不明の重体だから?それともVRの世界にいるとか?」
 物語の中においては現実世界ではない場所で現実の記憶を忘れて過ごしている理由としては今言ったような二つが原因として挙げられることが多い。だからこそ、僕は今言った中に僕が現実ではない世界で過ごしてる理由があると思ったのだが、彼女は首を横に振った。
「じゃあ……」
「あなたは現実の世界に絶望しただけ」
 どうして僕は現実ではないこの世界にいるんだ。と聞こうとしたら彼女が言った。
「え?」
 訳が分からず僕は思わず素っ頓狂な声を上げる。
「現実に絶望したってどういうこと?」
「何も覚えてないの?」
 首を縦に振り肯定の意を示す。
 何も覚えていない。この世界での記憶はあるが彼女の反応から察するにこの記憶は現実世界にいた時の記憶ではないらしい。
「そっか……」
 彼女は寂し気で、それでいて納得したような声音で呟く。
 そして、そのまま
「私は今から、現実であなたの身に何が起こったのか、何故あなたが現実ではないこの世界に来ることになってしまったのか話をする。大事なことだからちゃんと聞いてほしい……私の話を聞いて現実の世界に絶望してしまうかもしれない。でも、これだけは約束して。たとえ現実の世界に絶望したとしても立ち直って。一度現実に絶望したあなたには無理な話かもしれないけど約束してほしいの。お願い」
 と言った。
 現実での記憶のない僕は彼女が何故そんな約束を取り付けてくるのかは理解できない。でも彼女の願いであるのだからやはり大事なことなのだろう。
「わかった、約束するよ」
 僕がそう言うと彼女は小さく
「ありがとう」
 と言って、そして現実で僕の身に起こったことを話し始めた。
 
 僕には付き合って一年の彼女がいる。
 一年の間彼女とは喧嘩することもなく良好な関係を築けている。
 僕は幸せだった。
 そして、そんな幸せは一瞬にして崩れ去った。
 彼女と僕は一緒に車にはねられた。
 一緒に下校している時に信号無視をしてきた車にはねられたのだ。
 僕は隣にいた彼女が盾となったことで彼女ほど重症ではなかったがどうにも自由に体を動かすことはできそうにない。
 それに加えて、事故の衝撃でスマホも壊れてしまっていたため助けを呼ぶこともできそうになかった。
 僕は周りの人に助けを求めた。
「誰か、救急車を呼んでください。早く!」
 力いっぱい振り絞るように叫んだ。
 だが、周りの人は誰一人として救急車を呼ぼうとしたり、こちらを心配して駆け寄ってきたりはしなかった。
 それどころか野次馬ばかりが増え、あまつさえ笑いながらスマホで動画を撮るものすらいた。
 一分ほど経って、ようやく誰かが救急車を呼んでくれたらしい。それから数分が経ち救急車が来て僕達は病院に運ばれた。
 結果として彼女が死んで、僕は生き残った。
 医者から話を聞いた。
 彼女はあと一分早く病院に運ばれていたら助かっていたかもしれなかったとのことだった。
 “一分”……それは周りの野次馬が救急車を呼ばずに動画を撮っていたりした時間だった。
 あの時、あそこにいた誰かがもっと早くに救急車を呼んでくれていたら、彼女は死ななかったかもしれない。その事実は彼女が死んだことに絶望していた僕がさらに絶望するのに十分すぎるものだった。もちろん、僕達を助けようとしてくれた人みたいに優しい人はいる。でも、それは一部の人だけで、やはり現実はくそみたいなやつが大半を占めているそんな世界で……だから、僕は現実の世界に絶望した。そうして眠りについてそのまま……
 
 彼女からの話を聞いて、すべて思い出した。
 彼女は事故で死んでいた。
 僕だけが生き残って、誰も助けを呼んでくれなかったことから現実世界に絶望してこの世界に来たんだ。
 彼女は話をする前に“現実の世界に絶望したとしても立ち直って”と約束したがどうにもその約束を守ることはできそうにない。だって、あの時すぐ助けが呼ばれていれば彼女は助かったかもしれない。彼女はまだ、生きていたかもしれない。彼女はまだ、笑っていたかもしれない。そんなことを考えるたびにどんどんと現実への絶望が強くなっていっている。
「もしあなたが現実でのことを忘れているんだとしたら、本当は話すべきじゃなかったのかもしれない……でも、私はあなたに現実に戻ってもらうためにこのことを話すしかなかった。現実に戻らないとあなたは死んでしまうから……」
 切なげな声で彼女が言う。
 ああ、そうか。だから僕に声が届いた時、彼女はあんなにも泣いてくれたのか。
 だから、“現実世界に絶望しても立ち直って”と約束させてきたのか……
 現実世界に戻らないと死ぬ。どういう原理かはわからないが彼女が言うのだから嘘ではないのだろう。……それでも、いいのではないか。現実世界に戻ったところで、彼女はもういない。現実世界にいるのはあの時助けてくれなかった連中と同じようなくそみたいな人ばかりだ。
だったらもう、死んでしまってもいいのかもしれない。このままこの世界の彼女と可能な限り一緒に過ごして死んでしまうのもいいのかもしれない。いや、たとえそれすら叶わないとしても、現実世界で過ごすよりも死ぬ方がずっと……
「もしかして、このまま死んでもいいかもって考えてる?」
「えっ?」
 彼女に言い当てられ、僕は思わず素っ頓狂な声を上げる。
「その反応、やっぱり死んでもいいって考えてるんだね……」
 そう言う彼女の声は少し寂しげだ。
「どうしてわかったの?」
「私達、一年も付き合ってたんだよ。顔見れば何考えてるかはなんとなくわかるよ。今みたいな状況だと特にね」
 ここまで理解されているのなら嘘をつくこともないだろう。そもそも自身の考えは伝えるつもりでいた。
「僕は君の言う通りこのまま死んでもいいかもって考えてる。だって、もう君が死んでしまっているから」
「でも、私以外の人も沢山いるよ」
「……確かに、現実には沢山の人がいるよ。でも現実にいるのはあの時助けも呼ばないでいたあのくそみたいな連中と同じようなやつらばっかりだよ。僕はそんな世界――君を奪ったくそみたいな世界――に戻りたくはないんだ……」
「そっか……」
 小さな、そして絶望で満ちたようなそんな声で彼女が呟く。
 そうして続けてポツリと
「私はあなたに生きていてほしい……」
 と言った。
「私はあなたに私の分も生きてほしいの。私が経験できなかったことを経験して、私が経験してこなかった感情を持ってほしい……これが私のわがままだってこともわかってる。でも、それでも私はあなたに生きてほしい……」
 彼女の考えも、思いも、理解できないわけではない。彼女の分も生きたいという思いも確かに出てきた。
 でも、例え今決意を固めて現実に戻ったとしてもまた死んでもいいと思うようになってしまうかもしれない。
 僕がそんな風に考えていると、彼女は再度口を開いた。
「……それにね、私は現実世界にいる人みんながみんな悪い人っていうわけではないと思ってる。……そりゃ、あの人達みたいな嫌な人だって少なからずいると思う。でもいい人だっていると思うの。例えば、あなたの友達の健太君とか」
 現実世界の三島健太。確かにいい奴だった。僕の話や悩みを嫌な顔せず聞いてくれる。そんな奴だった。
「それ以外にも、私達が知らなかっただけで世界にはいい人がいっぱいいると思うの。私達の知らないところや見えないところで人を助けてるそんないい人がきっといる……だから、一部の嫌な人たちだけを見て世界に絶望しないで。絶望して、死ぬなんて言わないで……私はあなたにまで死んでほしくないよ……」
 彼女は涙を流しながら僕に訴えてくる。
 僕は、彼女を心配させてしまっていたこと、彼女に思われていたことを理解した。そして同時に、彼女の言う通り現実にはいい人もいるのではないかとも思った。であるならば僕は……
「ごめんね、心配かけて。でも、もう大丈夫。僕は死なないよ」
 涙を流し続ける彼女を抱きしめながら言う。
 目じりに涙をためながらこちらを見て「ほんと?」聞いてきた彼女に僕は
「うん、本当。だから、安心して」
 と優しく声をかけた。
「ほんとにほんとのほんと?」
「本当に本当の本当だよ。僕自身、生きたくなったんだ。だから本当に安心して。君の分までしっかり生きるって約束するよ」
 僕がそう言うと彼女は「そっか……」と小さく呟いて
「じゃあ、約束ね!」
 と続けて言った。
 そしてそれと同時に彼女の身体が透明になり始めた。
「もう時間がないみたいだから、これだけは言っとくね。ちゃんと約束を守ってしっかり生きてね。すぐにあの世に来たりしたら私本当に怒るんだからね!」
 彼女がそう言うと彼女の身体はスーッと消えていった。
 彼女の存在が無くなって、彼女が死んでいることを実感する。
 彼女のいない世界で生きるのは苦行だ。
 でも、僕は彼女と僕が彼女の分まで生きると約束した。
だから僕は彼女の分まで生きる。
 そう決意したとたん、世界は崩れていって……
 
 現実世界に戻ってきて、一週間が経った。
 今、僕の周りには三島をはじめとした僕を心配してくれていたクラスメイトや僕の両親といったいい人が沢山いる。彼女の言う通りであった。僕は現実の一部しか見ていなかった。近くにいい人はいたのに全く見ていなかった。
 今は、死ななくてよかったと思っている。
 死んでしまっていたら、いい人たちと触れ合う機会を失ってしまっていただろうから。
 今、こうして生きているのは現実ではないあの世界に本物の彼女が来てくれて、必死に僕に“生きろ”と訴えてくれたからだ。
 だから、僕は彼女に感謝の意を込めて
「ありがとう」
 と一言、天国にいる彼女に届くように感謝の言葉を口にした。
 
                                       
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