死にたい色は

yunha

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爪弾く夜

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「今夜は満月ですね。」

どこからか女性の細い声が届く。

俺や人間を照らす大きな月は曇った光を纏って空で泳いでいる。

「お客さん、旅人かい?」

「ああ、」

「この街は気をつけた方が良い、旅人となると何をされるか分からない。」

道で座り込む商人に軽く頭を向けると、俺は月を見た。

「月が目に入ると死にたくなるな、」

「月関係ないでしょ。」

俺がまた馬鹿なことを呟いたからか、いつもより彼女の機嫌が少し悪い。

「いよいよ着いたね、翡翠。」

「気をつけろよ、この街はさっきのおじさんが言っていた通り危険だ、」

仕事終えたらすぐ帰るからと彼女は月を見て笑う。


「君ともこの街でお別れか、寂しくなるなあ」

「嘘つき、わたしの名前も覚えてるか曖昧な癖に。」

「流石にそこまで最近だと覚えてるよ、牡丹、」

名前を覚えてもらっていたことが余程嬉しかったのか彼女は頬を赤らめた。

「ここに、本当にいるのか。」

「だから、予言だから、ただの薬剤師の少女の予言だから、」


「でも、いる気がするよ」

「なに、不老不死って同じ不老不死の気配察せるの、」

「いや、何となくな、なんとなく。」


彼女の名前は実は先程まで忘れていた。
丁度横にピンク色の着物が売られていたから思い出したのだ、薬剤師、この街に来た経路は流石に覚えてる。

すぐ忘れると言われても何千年も生きていたら人の名前くらい忘れてしまうものだ。

「いい、私が予言したお礼に、貴方は私の仕事手伝うんだからね、」


にしても、彼女が来るにも、俺と同じような不老不死がいるにも、似つかわしくないな。

周りには痩せこけた女男がちらほら居る。

まあ翡翠は昔からこんなところだ、そうすぐには変わらないだろう。


「薬は薬でもこんなに違うのよねえ、私の仕事の方の薬もみんな使って欲しいものだわ、」

「お前の薬で薬物中毒者はどうにかできないのか、」

「無理よ、何人いると思ってるの。」


さっきのおじさんが言っていた通り、
この街は、翡翠は、薬物で溢れかえっている。

大きい都市だが全く改善はされない、

噂だが、二人の女が薬を売買しているだとか、


本当に、来たくなかった、出来たらもう二度と。

まあ不老不死がいるなら仕方がない、俺は何がなんでももう一人の不老不死に会わなければならない、

一人で牡丹をこんな所には連れて行けないしな。


「とりあえず、明日は仕事、手伝ってもらうから、その最中に現れるかもしれないしね、」

不老不死。


彼女はにこりと笑うとまた月を見た。
俺は不老不死に会えるのだろうか、


まだ会ったことの無い、


同じ苦しみをもつ、


死なない人は。


「なんか気味悪い、」


翡翠に響く弾音、そして暗い月。


「そうだな、」


「嫌だなあ、折角のお仕事、変なことに巻き込まれなければ良いけど。」





そんな話をしていると、暗い月はもう見えなくなり、代わりに明るい明るい月が現れた。
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