彼に勇者は似合わない!

プリン伯爵

文字の大きさ
5 / 109
第一章

第4話 初めての実戦

しおりを挟む
「陛下、本当に宜しかったのですか?」
王城ではクライスに苦言を溢す宰相の姿があった。
良かったのか、というのは悠久の魔女に依頼した事だ。
世界最高峰の魔法使いはどこの国にも属さない。
ただ対価さえ貰えばどんな依頼でも受けてもらえると有名であった。

「対価に何を求められたと思う?」
「……大量の宝石、ですか?」
宰相は魔女が宝石を好むという話を聞いた事があった。
だから今回も大量の宝石を求めてきたのかと予想していた。


「対価は無し、だ」
「え?そんな筈はないでしょう?あの魔女ですよ?対価を求めず依頼を受けるとは考えにくいのですが」
「クックック、余が昔あの方を助けた事があってな。生涯に一度だけ無償でお願いを聞いてくれると言われていたのを思い出したのだ」
魔女が無償でお願いを聞く。
それがどれほど貴重な機会なのか。
一度たりとも無償で依頼を受けた事がない魔女が、一度だけとはいえ何でも願いを叶えてくれる貴重なチャンスをここで使ってしまったのだ。
宰相は開いた口が塞がらなかった。

「魔国が最近勢力を拡大しているからな。我々の助けとなってくれるというのなら喜んで貴重な魔女への無償の依頼も使う」
「ですが彼はあまりにも勇者に向いていない、のではないでしょうか?」
「確かにな。彼は勇者と言うには少しばかり似合わん。だがああいう手合いの方がこちらとしては頼りやすい」
王に対して書面での契約を求めたのは前代未聞だった。
あろう事かあの剣聖がいる場で無礼を働くなど、見ているこちらがヒヤヒヤさせられたくらいであった。

「変に突っかかってくる勇者よりも操り人形みたいに全肯定する勇者よりも、神無月無名のような勇者らしからぬ物言いをする方が余は好きだな」
「陛下も変わっておられますね……まああの魔女が指南を付けてくれるのですから強力な戦力になる事は間違いないでしょうが……」
宰相は無名の事があまり好かないタイプだと思っていた。
王に対しての態度といい言葉選びといい、勇者なのだからもっと堂々としていて欲しいというのが本音だ。

「他の勇者もなかなかの粒揃いではないか?」
「はい。特に黒峰殿は剣帝の勇者の能力を持っておりますからね」
「それもだが朝日殿の最優の勇者というのも良いぞ」
5人共に王国にとっての最高戦力になる事は間違いなかった。



――――――――
深き森にて訓練を行う無名だったが、フランの指導が適確だったお陰で面白いくらいに吸収していった。

魔力の流れを感じ取り魔法発動までのプロセスも難なくクリアした。
分かりやすく例えるとすれば初めて自転車に乗った時のような感覚である。

この世界で魔法は常識だが、日本人である無名にはその常識はない。
本来ならもっと苦戦する所だが、器用さは伊達ではなかった。


「いやぁ教え甲斐があるってもんだよ無名君。こんなに早く魔法の扱いをマスター出来るなんてね」
「まあ慣れればこんなものでしょう。もっと洗練する必要はあるかと思いますが今はとにかく早く自身の能力を完全に把握したいので」
無名は既に初級と呼ばれる魔法はマスターしていた。
だが初級程度では魔国を相手にする事は難しい。
せめて中級魔法を完全に習得しなければならないが、一朝一夕では身に付かない事くらいは理解できる。

それにしても不思議な感覚だった。
何もない所から火や水を出す原理は何なのだろうか。
物理法則などお構いなしのこの世界では、無から有を生み出せる。
それがどれだけ凄い事か。

「じゃあ次は実戦といこうか!」
「実戦、ですか。自慢ではないですが僕は生き物を直接この手で殺した事はありません」
「習うより慣れろってやつだね!この深き森には魔物がいっぱいいるからね~。小屋周りには結界が張ってあるから近付けないけど、結界の外に出ればわんさかいるよ」
魔物という単語は現実では聞くことがない。
本当にゲームやアニメの世界だなと無名は少しだけワクワクしていた。


結界の外に一歩出ると異様な気配が漂っていた。
一応フランは付き添いで来てくれているが、ここに1人残されたらと思うと無名は少し背筋が寒くなった。

「あ、来たよ。あれ倒そうか」
「あれって……熊?」
「何それ?あれはブラックベアだよ」
(黒い熊じゃないか。そのまんま過ぎてもう少し捻って欲しい)

図体も大きく涎を垂らしながらノシノシとこちらへと歩いて来ていた。
威圧感は普通の熊の比ではない。
流石に並大抵の事には動じない無名も若干顔が引き攣っていた。

「冗談じゃない……あんなのをこんなチンケな魔法で倒せるものか!」
「いやぁそれが上手くやれば出来るんだよ。魔物の弱点は核なんだ。ブラックベアの場合だと丁度心臓の位置にあるから頑張って狙ってね」
3メートル近い魔物を前にそんな悠長な事は出来るはずもない。
声を荒げたかったが襲い来る魔物を前にしてそんな余裕はなかった。

「クソッ!雷光一閃ライトニング!」
心臓目掛けて放たれた雷は動揺したせいで狙いは大きく外れ肩付近に直撃した。
痛みによるものかブラックベアは咆哮を上げる。

ブラックベアは目を血走らせ無名を睨み付けると全力で駆け出した。
鋭利な爪に大きな腕。
直撃すればひとたまりもない。

後方に大きく跳ぶと次の魔法を放つ為魔力を掌へと集める。
ブラックベアは渾身の一撃を躱されたせいか激怒しているようであった。

「これならどうだ!火炎弾ファイアーボール!」
バスケットボール大の火球が顔面に当たると焦げた臭いが充満していく。
毛皮が燃える臭いなのかむせ返る臭さだ。

だが致命傷ではないようでブラックベアの目は殺意が籠もっていた。

「あーあー怒らせちゃったね~。早く倒さないと次の魔物が来ちゃうよ」
「分かってますよ!風の刃エアカッター!」
威力があれば腕の1本くらい切り落とせたかもしれないがまだ威力は低く、血が出る程度のダメージしか入れられなかった。

何度目か分からない回避行動の末、いよいよ無名の体力もキツくなってきた。

魔物の核を狙うのはかなり難しい。
立ち止まったままであればまだ可能性はあるが、攻撃を躱し動き回る魔物の核を狙うのは熟練した腕がいる。
かといってこのまま回避し続けていてもいつかは足が止まる。

ブラックベアの動きをほんの少しでも止める事が出来れば……。

踊る石礫ロックダンス!」
顔を中心に数多の石礫がブラックベアを襲った。
どれだけ頑丈な魔物でも目は柔らかい。
本能なのか咄嗟に腕で顔を覆ったブラックベアは遂に足を止めた。

「足を止めたな――雷光一閃ライトニング!」
核目掛けて放たれた電撃はブレる事なく着弾した。
動きさえ封じてしまえば狙いを定める事など容易であった。


核を穿たれたブラックベアは苦悶の表情と共に大きな音を立てて倒れた。
魔物という存在は倒されたとてすぐに消えてしまう事はなく、ある程度肉体はそのままだそうだ。
だから魔物を素材とした装備などが出回っている。


「凄いすごーい!初めての実戦とは思えないよ!」
フランが両手を叩いて喜んでいるがこっちは疲弊しており一緒に喜べる元気はなかった。

とはいえ初の魔物討伐だ。
それなりに嬉しさはある。
無名が少しだけ顔を綻ばせるとフランは肩に手を置いた。

「さ、次もがんばろっか!」
「え?」
フランが指差す方向には別のブラックベアが近づいて来るのが見えていた。
連戦出来る余裕などない。
そう声を上げたかったがフランはまた空に浮き上がると、観察するスタンスを取っていた。

うかうかしていれば殺される。
無理やり足を動かし立ち上がるとブラックベアに対峙した。

「二連続での戦闘はキツイけど……火炎弾ファイアーボール!」
火球は外れる事なくブラックベアに命中する。
先程と同じだ。
怒りを露わにしたブラックベアがこちらへと駆け出した。


その後の記憶はない。
確か6体目のブラックベアと戦った所までは覚えているが、無名は気絶した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。 だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。 その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。 だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…? 才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

処理中です...