彼に勇者は似合わない!

プリン伯爵

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第一章

第12話 リンネ教

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黒い装束を身に纏い、男は王都外れにある孤児院へと向かう。
孤児院のシスターは彼を見ると小さく頭を下げ、スッと視線を外した。

やがて男は孤児院の地下へと足を運ぶ。
地下はジメッとしておりあまり通気がいいとは言えない。
口元まで覆われた黒い布のお陰で湿気の臭いは防げているが、それでも男は顔を顰める。

長い階段を降り、正面に鎮座する古びた扉を開けると数人の仲間が既に席へと着いていた。


「遅かったではないか。さて結果はどうなったかな?」
一番奥に座る恰幅のいい男が彼へと問い掛けた。
奥に座るという事はこの中で一番位が高い事を意味している。

「……作戦は失敗した。護衛にあのセニアが付いていた」
「セニアだと?チッ厄介な奴を引き込んだものだな……」
レベル5のセニアは有名である。
氷瀑の姫と称され盗賊団やリンネ教も警戒する相手だった。

「勇者は1人も殺せずかしら?」
「……ああ」
「珍しいわねぇ~貴方が失敗するなんて」
「……何が言いたい」
「いいえ?何も。ただ、見逃したって可能性もあるかな~って思っただけよ」
赤いローブの女と言い合いになりかけた所で、恰幅のよい男が待ったをかけた。

「待て待て、仲間内で争うな。ゼンの実力は疑っていないが召喚されて間もないヒヨッコ共を始末出来なかったのはセニアが傍に付いていたからという事だな?」
「……何度もそう言っている」
「氷瀑の姫は厄介だな……。冒険者ギルドも面倒な依頼を受けてくれたものだ」
この場にいる者達はリンネ教の中でも精鋭揃いであった。
もちろんセニアを相手にしても引けを取らない実力者ばかりだが一切被害を出さずに勝利する事は難しい。


「しかし最初に聞いていた話と違うぞルーベント伯爵。勇者は4人しかいなかった」
恰幅の良い男、ルーベント伯爵は王城にも出入りしている貴族の1人だった。
その為あまりおおやけにされていない情報も握っている。

「いいや、確かに5人のはずだ。男が3人、女が2人。どれも恵まれた力を持って召喚されている」
「……ならば1人男が足らなかった」
「ふうむ、その辺りは調べておこう」
無名の謹慎処分は特に秘匿されており、国民にはおろか貴族にもあまり公表されてはいない。

「勇者は我々リンネ教の教義に反する。我らは腐った世界を創り変える使命を持っているのだ。脅威の何者でもない奴らには何としてもこの世を去ってもらわねばならん」
ルーベント伯爵は固く決心したかのような表情でリンネ教の者達をグルリと見回した。

あるじから命じられたのは勇者の抹殺。儂自ら出ても良いがまだこちらの手の内を全て見せる訳にいかん。故に命じよう、第五席次ゼン、第八席次ナイトライア、力を使う事を許可する。勇者を抹殺せよ!」
「……御心のままに」
「御心のままにぃ~」
黒装束を纏ったゼンと赤ローブを羽織ったナイトライアは一瞬だけ視線を交わすとすぐに顔を逸らした。

黒峰達の預かり知らぬ所で世界の闇は動き始めた。



――――――――
4人の勇者が襲撃された日から一ヶ月が経った。
まだあれ以降襲われるような事はないが、黒峰達は気が気でない毎日を過ごしていた。
それも当然であり、日本にいた頃は命が脅かされる事などなかったのだ。

ただ、悪い事ばかりではない。
訓練にも一層身が入り黒峰に至っては既に騎士が相手にならない程度には成長していた。

「ハァァァァ!」
「遅い!もっと鋭く斬り込め!」
「ガハッ――」
鈍い骨を穿つ音と共に黒峰は吹き飛ばされる。

ランスロットによる指南は苛烈を極めた。
というのも元々ここまで厳しくする予定ではなかったのだが、黒峰が自ら望んだのだった。
自分を一人前の剣士にしてくれ、と。

もちろん素人が剣を持ってたかだか2ヶ月で一人前の剣士になるなど冗談ではない。
その為ランスロットの指南もかなり厳しいものとなり、骨にヒビが入るなど日常茶飯事であった。


「回復します!平等なる祝福をイブネスベネディクト!」
そのお陰か朝日の回復魔法もみるみる上達していった。
今では骨が折れる程度ならば全快させられるくらいである。

「茜さん!お願いします!」
「よっし!空飛ぶ羽スカイフェザー!」
大輝に掛けられた魔法は空を自由自在に動き回る事の出来るものだ。
空中戦が出来るようになるのは戦闘で有利に働く。
4人のチームワークはかなり昇華されてきていた。

現在は剣聖ランスロット対4人の勇者という構図である。
まだまだ手を抜いているとはいえ、十分強いランスロットを相手取るには完璧な戦術が必要となる。

「なるほど、茜殿の飛行魔法か!しかし慣れていなければ思うように動く事はできんぞ!真空波!」
「なっ!?真空波ってずるいっすよ!」
ランスロットが剣を振るうと真空の刃が空へと駆ける。
回避するのは間に合わないと身体強化した両腕をクロスさせ防御態勢を取った大輝だが、勢いよく吹き飛ばされてしまった。

「まだまだやれるよアタシらはさ!烈風の弾丸エアーズバレット!」
茜が空から風魔法で牽制するとランスロットは剣舞のような動きでそれを躱した。

「狙いが甘い!ハァッッ!」
再度ランスロットが剣を振るうとまたも真空波が生み出され茜に直撃した。

「キャァァァ!」
悲鳴と共に地面へと落下した茜に駆け寄る朝日だが、戦闘に向いていない能力を持つ朝日だけでは敵うまいと両手を挙げて降参した。

「負けました……」
「ふむ、まあチームワークは良く出来ていたが……まだまだ詰めが甘いな。まず黒峰殿はもっと前線を維持できる程度には剣の腕を磨きたまえ。斎藤殿は空中戦が出来るようにもっと慣れなければな。茜殿は良い線を行っていたがもっと魔法のコントロールを上達させないと当たらなければ意味がない。総合的に見て今回の立役者は朝日殿といった所か」
朝日の回復魔法と支援魔法はなかなか筋が良かった。
回復魔法は言わずもがなだが、全員に身体強化のバフを掛け続けていたのも評価が高い。
褒められた朝日は少し照れた様子で嬉しそうにしていた。


「今日は一旦休むといい。リンネ教もここ最近は動きがないようだし、君達が外出する際は必ず冒険者を護衛に付けている。今日は確かリコという冒険者だったはずだ」
「ああ、あの猫耳の方ですね。獣人の方は身体能力が人間より高いと聞いていますし信頼できますね」
黒峰はクランルームで出会った彼女の事を思い出す。
明朗快活な女性という印象が強いが、身体は引き締まっており恐らく素手で戦っても自分が負けるだろう事は容易に想像がつく。


「君達に宿っている紋章は能力が高い証拠だ。このまま訓練を続けていけばいずれ紋章に相応しい力を得る事が出来る。だからそう焦らなくてもいい」
「まあそうなんですが……リンネ教という存在を知ってしまいましたし、実際に襲われているので早く実力を身に着けたいっていうのが本音です」
黒峰は良くも悪くも真面目だった。
俳優業をやっている時から努力は欠かさない。
台本を隅々まで読み込み演技指導は朝から晩まで受ける。
そうして出来上がった映画やドラマのクオリティは必然的に評価は高くなる。
努力は実るというのは体験しているからか、キツイ訓練も苦には思わなかった。

「でももう筋肉痛が辛いっすよ……」
「ああ、済まないな大輝。じゃあ今日は久しぶりに王都の街に繰り出そうか。美味しい物でも食べて気分転換だ!」
4人の勇者パーティーは必然的に黒峰がリーダーを務める事になっていた。
能力的にも年齢的にも一番相応しく、誰も反論などしなかった。

高校生である大輝を気遣うのもリーダーとしての務めだと考えており、偶には息抜きも大事だと笑顔で肩を叩く。

「やったー!!アタシ前から気になってたお店があるんです!今日はそこに行きません!?」
「おお、いいな!よし、じゃあ準備が出来たら城門前に集合しようか!」
4人は笑顔で訓練場を後にした。


「ふむ、なかなか成長の度合いが著しいな。これならば間に合うかもしれん……」
訓練場に1人残ったランスロットは誰に聞かせるつもりもなく呟く。

「そうみたいだねぇ~」
不意に背後から近付く気配に素早く振り向くと剣の柄に手をかけた。

「おっと、ボクだよ~」
「……フラン殿でしたか。いきなり近付くのは心臓に悪いですよ」
「ごめんごめん。で、今さっきの呟き聞こえちゃったんだけど、アレに間に合うかどうかって事だよね?」
フランはニコニコ笑顔のままだが、アレというのは当然ランスロットの考えている事と同じだろう。

「フラン殿も知っているでしょう。最近ルオール法国が活気づいている事を。忍び込ませているスパイからの情報では軍事に力を入れているそうですからね。恐らく近い内に攻め込んで来るかと」
「それに勇者も使うって事?」
「場合によっては」

子供を戦争に加担させたくはなかったが、自国を守る為ならば仕方がない。
ランスロットは戦力的に必要な場合は勇者パーティーとして参戦してもらうつもりであった。


「じゃあ丁度良かったよ。ボクの方も結構順調でね。半年間の謹慎処分だから勝手に参戦する訳にはいかないけど、必要とあらば教えてね。無名君は十分戦力になり得るから」
それだけ言うとフランはまた姿を消し訓練場にはランスロットだけが残った。
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