彼に勇者は似合わない!

プリン伯爵

文字の大きさ
21 / 109
第一章

第20話 帰ってきた無名

しおりを挟む
本日快晴。
何でもない一日の始まりだが、無名にとっては違った。
今日遂に謹慎処分が明ける。
王城へと転移した無名を出迎えたのは召喚した時にも顔を合わせた第一王女ラクティスだった。

「おかえりなさいませ神無月さん。フラン殿との訓練は如何でしたか?」
「とても有意義な時間でしたよ」
半年間というそれなりに長い期間であったが、久し振りに見た無名の身体は引き締まっていた。
ラクティスは少し驚きはしたが、顔には出さない。

「どうやらそのようですね。お父様がお待ちですので謁見の間へと来てもらえますか?」
召喚された時と同じ大広間へと転移した無名を伴いラクティスは謁見の間へと足を向ける。
会話という会話はない。
元々無名はあまり喋るタイプではなく、ラクティスも無理に会話を広げようとはしない。


謁見の間へと入ると無名が片膝をつき頭を下げた。
礼儀は弁えているのか謹慎処分について文句を言う様子はない。

「戻ってきたか無名殿。深き森はどうであった?」
「魔物は多く来る日も来る日も魔物と師匠と戦う日々でした」
悠久の魔女からの指南など想像できないが、無名の表情が歪むくらいは厳しかったのだと周囲の者達は予想する。

「深き森の魔物は強力な奴が多いからな……まあ無事戻ってくれて良かった」
「いえ、こちらこそ身勝手な振る舞い、失礼いたしました」
無名が反省の意を示すとクライスも満足げな表情を浮かべる。
200人前後の王国兵を殺した罪は重いが、無名もあの選択は間違っていたと考えたのか申し訳なさそうな顔で謝罪する。

「仲間であるはずの騎士や魔導士、冒険者をこの手に掛けてしまった事は大変申し訳ございませんでした。ただ……あの時は最善の選択だと思っていましたので」
「人は誰しも間違いは犯すものだ。それが勇者であろうとな」
国王であるクライスが許すならば周囲にいる貴族や騎士達も無名を無下には扱えない。
つまり、無名は絶対に安全な地位へと移ったのだ。

ここで反省の意を示し謝罪の言葉を述べていなければ、それこそ闇討ちに遭ってもおかしくはなかった。
それだけの数、騎士達を殺したのだから。

仲間や身内を殺された恨みはそう簡単に消えるものではない。
渋い表情ながらも騎士達は受け入れていた。

無名は性格に難はあるが、勇者としての実力は高い。
魔国やリンネ教といった目に見える敵が現れた以上、無名の反感を買うことは得策ではないと考えたのだ。


「無名殿、単刀直入に聞こう。今の君ならば魔国を相手にしても互角以上に戦うことが出来るか?」
「はい。この王城内と限定するのであれば今の僕に勝てる者はいないと思います」
「ほう?これは大きく出たものだ。それは剣聖や魔法師団長を前にしても同じ事を言えるのか?」
「当然です。ただ……師匠と比べられれば些か劣りますが」
無名が師匠と呼ぶ者など1人しかいない。
悠久の魔女フランである。
そもそもフランは世界最強の魔法使いであり、比べる事すら烏滸がましいのだが、無名はそんな彼女と比べれば劣ると表現した。


自信過剰にも程がある。
クライスはそう言ってのけたかったが、目の前で真剣な表情を浮かべる無名を見ればそうも言っていられない。
無名の身体から漏れ出る魔力は爵位級魔族と並び立っており、一概に自信過剰ともいえぬ雰囲気を纏っていたからだ。

「陛下、発言許可を」
一人の男が壁際に立っていたが、前へと一歩踏み出しそう言った。
クライスは彼に無言で頷くと、男が話を続ける。

「彼は我々魔法師団を舐めているとしか思えません。確かに強大な魔力を手にしたようですが、所詮は付け焼き刃。流石に先程の言葉は見過ごせません」
「ふむ、まあ言わんとする事は分かる。それで、どうするつもりだ?ロルフ」
ロルフと呼ばれた男は無名を睨みつけると、手袋を彼へと投げ付けた。

「拾うといい無名殿。それを拾えば私と決闘する事が出来る。今この場にいる者全てが貴殿の言葉が癪に障ったはずだ。貴殿への風当たりは厳しいものになるだろう。しかし、私との決闘にてその力を十全に発揮したのならば周囲の目線も変わる」
ロルフは怒りの感情に任せて手袋を投げ付けたわけではなかった。
これは無名にとって益のある行為。
どうあっても無名への風当たりはキツくなるのが目に見えていたロルフは少しでも緩和してやろうと手を差し出したのだ。

魔法師団副長でもあるロルフ程の実力者が、無名の秘めた力に気付いていないはずもない。
これは、優しさからくる小芝居であった。

それを察したのか無名はしゃがみ込み手袋を拾った。
周囲がざわつく。

「全員見たな!無名殿は私の手袋を拾った!つまり、私と決闘する事が今この瞬間決まったのだ。決闘は明日。お互い万全の状態で挑む、それで良いか?」
無名は黙って頷く。
国王もロルフの策に気づいており、ざわめく周囲の者達を手で制すると立ち上がる。

「決闘は明日、この時間にて行う。訓練場を貸し切り一対一の決闘だ。立ち合いは余が行う!異論はないな!?」
国王に意を反する者などいない。
クライスはもう一度ロルフに目配せするとお互いに頷いた。




無名とアルトバイゼン王国魔法師団副長による決闘の噂は瞬く間に広がっていった。
それは他の勇者の耳にも入る。

「は?無名が決闘?今度は何をやらかしたんだよ……」
黒峰は呆れた表情で決闘の話を持ってきた茜に言う。

「んーアタシも知らないですね。まあどうせ無礼な態度を取ったとかそんな所じゃないですか?」
茜は結構王城を動き回る。
その時に偶然聞こえてきたメイド達の会話をそのまま黒峰に伝えていた。

「あの人問題しか起こさねーな……」
大輝はベットの上で包帯に巻かれながら、呆れた表情を見せる。
片腕は失ったが莉奈の回復魔法のお陰で顔色はかなり良くなってきていた。

「で、その決闘はいつか聞いたか?」
「明日らしいですよ。せっかくなんで見に行きましょうよ!アイツがどれだけ強くなったか見ておきたいですし!」
茜の言う通り他のみんなも今の無名の実力がどれ程のものなのか知りたかった。
この世界に来ておよそ半年。
黒峰は今や一人前の剣士となり、茜や莉奈も精鋭の魔法使いとして活躍できるくらいには力を付けていた。
それだけの時間があったからこそ4人は成長できた。
ただ同じ時間だけ無名も成長しているだろう事は想像できる。
この世界に来た当初ですら無名の実力は一線を画していた。

「もし彼が無茶をやらかしそうになったら、止めなければならないな」
「アタシが宙に浮かばせてやりますよ!」
茜の魔法なら人一人浮かばせるなど簡単な事だ。
宙に浮かされればたとえ無名が凄い魔法を使えたとしても数秒の隙は出来る。
そうなれば今度は黒峰の出番だ。
多少怪我を負わせてしまうかもしれないが、勢い余って無名が副団長を殺してしまう悲劇は避けられる。
最悪の場合、莉奈が回復すればいいだけだ。
黒峰はそう考えていた。

数か月ぶりに顔を合わせる事になるが、黒峰は少しだけ楽しみにも思えていた。
知り合いのいないこの世界で、同じ境遇の同性である社会人は彼だけだ。
仲良くなっておきたいのは当然であった。

性格は難ありだが無名のような人の心がないタイプの人間など芸能界では腐る程見てきたのだ。
黒峰にとっては慣れた相手であり、ある程度仲良くなれる自信もある。

茜も芸能界にいる人間だが、アイドルという立場もありほぼ関わりはない。
俳優である黒峰からすれば殆ど初対面みたいなものだ。


ただ明日の決闘で無茶苦茶な事をしでかさないよう祈るばかりであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。 だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。 その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。 だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…? 才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました

髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」 気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。 しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。 「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。 だが……一人きりになったとき、俺は気づく。 唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。 出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。 雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。 これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。 裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか―― 運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。 毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります! 期間限定で10時と17時と21時も投稿予定 ※表紙のイラストはAIによるイメージです

処理中です...