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初閲覧会4
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最後の室候補の謁見も終わり、ようやく紗々羅も内殿の執務室に戻ることができた。
アヤメはすぐに着替えたいだろうと察して、執務室に簡易なドレスを運び込んでいた。
「ありがとう、アヤメ。久遠が来る前に着替えるわ。」
着替え終えたところで、ハルカがお茶を出す。
「ああ、ほっとする。」
そして先ほどのやり取りを思い出してクスッとした。
「陛下、風雅という室候補者様は、面白い方でしたね。」
「ええ。」
「それに一番素敵なお姿でしたわ。陛下のお隣に並ばれたら、とてもお似合いだと思います。」
「ハルカ、ほかに気に入った室候補はいた?」
「そうですね、最後の白銀色の髪をした男性が儚げで気になりました。」
「そう…。分かったわ。たぶんこれから久遠が何人か選べとうるさく言うだろうから、もうハルカは後宮に帰っていいわよ。少し休憩しなさい。」
「はい、ありがとうございます。」
紗々羅はアヤメに休憩しろというのを伝えるのをだいぶ前に諦めている。
いくら促したところで、紗々羅の傍を離れないのだ。
護衛のつもりだと、以前筆記で伝えてきたことがある。
護衛は常に付いているのだが、アヤメの好きにさせているのである。
2杯目のお茶を飲み終わったころ、久遠と後宮官吏官が執務室にやってきた。
「陛下、拝謁いたします。」
後宮官吏官は50歳ぐらいのベテランで、普段は表に出てくることなく後宮の中でひっそりと業務を行っている。
「陛下、こちらに今日の閲覧会に参加した室候補の名簿がございます。気に入った室候補がいれば、修行をした後、後宮に入れることになります。」
「安曇家の風雅でよい。」
紗々羅がそれだけ言うとつかさず久遠が口を出す。
「陛下、もう2,3人お選びください。この調子では、後宮の居室が埋まるのが何十年も先になってしまいますし、室候補として育てられてきた若者が立ち行かなくなります。」
そう、選ばれなかった室候補は、跡継ぎのいない家の婿にでも行くか、運良ければ地方行政の役職に就くか…いずれにしても普通の若者とは違う教育を受けているため、騎士になったり官吏官になるのは難しいのだ。
それを思うと、紗々羅も何人か選ばなければならない気になった。
「では、最後の…。」
「龍鳳家の壮士様ですか。」
「龍鳳家か…ハルカが気にするか。」
「壮士様はハルカ殿の後にお生まれになりましたから、気になさらなくても大丈夫かと。それにハルカ殿は、壮士様を気にしていたようですよ。」
「よく見てるな。ハルカは、儚げで気になると言っていた。」
「そうですね。壮士様は、室に選ばれなければ、龍鳳家の厄介者扱いでしょうな。」
「ふん、わたくしの性格を知っていてその言い方。では壮士で良い。あと一人は久遠が選んでおきなさい。」
「私がですか?では、最初の北斗家にいたしましょう。実家のバックアップは、侮れませんから。北斗家の啓輝様を引き入れれば、王家も安定します。」
では、確認しますと後宮官吏官が後宮入りとなった室候補者名を読み上げる。
「北斗家啓輝様 20歳 安曇家風雅様 23歳 龍鳳家壮士様18歳、以上三名を修行ののち、入宮させます。」
「分かった。で、修行とは何をするのだ?」
「後宮でのお作法を主に学びます。それでは。」
官吏官はそれだけ言うとそそくさと退出して行った。
「何を慌ててるのか。」
紗々羅がぼやくと、久遠がクスッと笑った。
「美しい陛下の前で、修行とは『女性の扱いを学ぶことですよ。』とは言えませんからね。室候補は当然、候補から外れるまで女性と関わることを控えていますから。それなのにいきなり、陛下に触れては傷つけますからね。ま、練習相手は人形ですから、ご安心を。」
「く、久遠!お前は説明しすぎだ!執務に戻る、しばし退出せよ。」
真っ赤になって怒る紗々羅に笑いを堪えながら、久遠は頭を垂れて退出した。
アヤメはすぐに着替えたいだろうと察して、執務室に簡易なドレスを運び込んでいた。
「ありがとう、アヤメ。久遠が来る前に着替えるわ。」
着替え終えたところで、ハルカがお茶を出す。
「ああ、ほっとする。」
そして先ほどのやり取りを思い出してクスッとした。
「陛下、風雅という室候補者様は、面白い方でしたね。」
「ええ。」
「それに一番素敵なお姿でしたわ。陛下のお隣に並ばれたら、とてもお似合いだと思います。」
「ハルカ、ほかに気に入った室候補はいた?」
「そうですね、最後の白銀色の髪をした男性が儚げで気になりました。」
「そう…。分かったわ。たぶんこれから久遠が何人か選べとうるさく言うだろうから、もうハルカは後宮に帰っていいわよ。少し休憩しなさい。」
「はい、ありがとうございます。」
紗々羅はアヤメに休憩しろというのを伝えるのをだいぶ前に諦めている。
いくら促したところで、紗々羅の傍を離れないのだ。
護衛のつもりだと、以前筆記で伝えてきたことがある。
護衛は常に付いているのだが、アヤメの好きにさせているのである。
2杯目のお茶を飲み終わったころ、久遠と後宮官吏官が執務室にやってきた。
「陛下、拝謁いたします。」
後宮官吏官は50歳ぐらいのベテランで、普段は表に出てくることなく後宮の中でひっそりと業務を行っている。
「陛下、こちらに今日の閲覧会に参加した室候補の名簿がございます。気に入った室候補がいれば、修行をした後、後宮に入れることになります。」
「安曇家の風雅でよい。」
紗々羅がそれだけ言うとつかさず久遠が口を出す。
「陛下、もう2,3人お選びください。この調子では、後宮の居室が埋まるのが何十年も先になってしまいますし、室候補として育てられてきた若者が立ち行かなくなります。」
そう、選ばれなかった室候補は、跡継ぎのいない家の婿にでも行くか、運良ければ地方行政の役職に就くか…いずれにしても普通の若者とは違う教育を受けているため、騎士になったり官吏官になるのは難しいのだ。
それを思うと、紗々羅も何人か選ばなければならない気になった。
「では、最後の…。」
「龍鳳家の壮士様ですか。」
「龍鳳家か…ハルカが気にするか。」
「壮士様はハルカ殿の後にお生まれになりましたから、気になさらなくても大丈夫かと。それにハルカ殿は、壮士様を気にしていたようですよ。」
「よく見てるな。ハルカは、儚げで気になると言っていた。」
「そうですね。壮士様は、室に選ばれなければ、龍鳳家の厄介者扱いでしょうな。」
「ふん、わたくしの性格を知っていてその言い方。では壮士で良い。あと一人は久遠が選んでおきなさい。」
「私がですか?では、最初の北斗家にいたしましょう。実家のバックアップは、侮れませんから。北斗家の啓輝様を引き入れれば、王家も安定します。」
では、確認しますと後宮官吏官が後宮入りとなった室候補者名を読み上げる。
「北斗家啓輝様 20歳 安曇家風雅様 23歳 龍鳳家壮士様18歳、以上三名を修行ののち、入宮させます。」
「分かった。で、修行とは何をするのだ?」
「後宮でのお作法を主に学びます。それでは。」
官吏官はそれだけ言うとそそくさと退出して行った。
「何を慌ててるのか。」
紗々羅がぼやくと、久遠がクスッと笑った。
「美しい陛下の前で、修行とは『女性の扱いを学ぶことですよ。』とは言えませんからね。室候補は当然、候補から外れるまで女性と関わることを控えていますから。それなのにいきなり、陛下に触れては傷つけますからね。ま、練習相手は人形ですから、ご安心を。」
「く、久遠!お前は説明しすぎだ!執務に戻る、しばし退出せよ。」
真っ赤になって怒る紗々羅に笑いを堪えながら、久遠は頭を垂れて退出した。
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